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忠誠を誓うワン

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 イスベルグから与えられた選択肢は実質命令だ。
 それを拒む権利などアスタロトにはない。
 他人の命を奪おうとした者は代償として自らの権利を失うことがある。強者であることを振りかざした者が弱者側に回った結果だ。
 諦めたようにアスタロトは頭を下げる。

「・・・・・・我が忠誠をイスベルグ様に・・・・・・」

 そう答えたアスタロトに対してイスベルグは再び問いかけた。

「何だ、不満そうだな?」
「い、いえ、そのようなことは・・・・・・」
「貴様は本当に服従したと思っているのか?」
「も、もちろんでございます。イスベルグ様のような強者に服従できることは何よりの幸せです」
「そうか、そんなに幸せならば小型の魔物のように仰向けになり嬉しそうにワンワンと鳴いてみろ」

 イスベルグは嬉しそうにそう命じる。
 その様子を見ていたノエル、エヴァンシル王、リヴィエールは絶句していた。
 人類を滅ぼすかもしれないと思っていた悪魔が目の前で完全に心を折られ、弄ばれている。
 三人は同じような文面になる感情を相反する意味で抱いていた。
 これが伝説の悪魔か。これが伝説のドラゴンか。
 そんな視線を感じながらアスタロトは仰向けでコロコロと転がる。

「ワンワンワンワン」

 可哀想になるほど無様な姿を見せるアスタロトに楽しそうなイスベルグ。
 何とあっけない結末だろうか。
 そう思いながらもエヴァンシル王は言葉を漏らす。

「これ、どっちが悪魔?」
「ど、どちらでしょうか」

 王の疑問に答えるリヴィエールも目の前の現実を信じられずにいた。
 体の内側から見ていた倉野も呆れたように言葉をかける。

「イスベルグさん、やりすぎですよ。めちゃくちゃ強そうな悪魔が登場して一分で犬になったのですが」
「ん? イヌ? わからんが、悪魔を従わせるには徹底的に上下関係を叩き込まなければならない。最初が肝心だ」
「だからって、無駄に美形の悪魔が地面をゴロゴロしながらワンワン言ってるのはちょっと見てられない」

 もはやアスタロトに同情してしまう倉野だった。
 アスタロトを従わせたイスベルグは疲れたようにため息をつき、倉野に話しかける。

「私は疲れた。次こそは本当にしばらく眠るからな。後は任せたぞ」

 そう言ってから精神交換を発動するイスベルグ。
 いきなり元に戻った倉野は驚き、足元をふらつかせる。

「うわっと」
「ワンワンワンどうされたのですかワン?」

 突然様子が変わった倉野にアスタロトが問いかけた。

「いや、何でもないよ」
「ん? イスベルグ様ではない・・・・・・何者だ?」

 イスベルグと倉野が入れ替わったことを感じたアスタロトは下から睨むように倉野を見る。その鋭い視線に驚く倉野。

「え、あの」
「イスベルグ様以外には従わぬ!」

 そう言い放つアスタロトだったが、それに気づいたイスベルグが倉野の口を操った。

「おい、私ならいるぞ。この男の中に私はいる。つまりこの男と私は同体だ。この男の言葉は私の言葉と思え」
「な・・・・・・なるほど。わかりました」

 戸惑いながら答えるアスタロト。しかし、イスベルグはさらに言葉を続けた。

「返事はワンだ」
「ワン」

 こうして倉野はアスタロトを服従させることに成功したのである。
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