異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

そして獣は自分の体に牙を立てる

　相手の名前や過去を言い当てるのは倉野が自分の能力を信じさせるためによく使う方法である。
　それを聞いたレインはその不審者が倉野であると確信した。
　レインの言葉を聞いたリヴィエールがなるほどという表情で口を開く。

「クラノ・・・・・・なるほど先ほど話していた協力者ですか。真実を知る能力・・・・・・どうやら、仮定は間違っていなかったようですね」

　そう言いながらリヴィエールは小さく頷いた。
　仮定としていた話の裏付けのような報告を受け、自らの考えをさらに深い所まで巡らせているように感じさせる。
　兵士の報告を受けて、考えを巡らせているのはリヴィエールだけではなかった。
　何故、倉野がエヴァンシル王やリヴィエールを訪ねてくるのか。レインの頭に浮かんだのはそんな疑問である。
　自分を訪ねるのならばわかる。フォルテ・リオメットとの戦闘を終え、他に知り合いのいない倉野はレインの居場所を調べ訪ねるだろう。だが、エヴァンシル王やリヴィエールの居場所を調べ、会いに来る理由はないはずだ。

「何故、クラノがエヴァンシル王やリヴィエール様を・・・・・・」

　そう呟くレインの言葉を聞いたリヴィエールは一瞬で考えをまとめ、指示を出す。

「恐らくですが、私の辿り着いた仮説とそのクラノという人物が辿り着いた答えは同じなのでしょう。そうでなければ私や王ではなく、騎士レインを訪ねてくるはずです。部外者が王城に正面から訪ねてくるというリスクを負ってでも伝えなければならない事実・・・・・・私はその者に会いに行こうと思います。騎士レイン、覚悟があるのならばついてきなさい。例え、その耳を塞ぎたくなるような結果が待っているとしても」

　それを聞いたレインは自分の膝が震えていることに気づいた。
　自分が見落としている可能性とは何なのか。自分の出した答えは正しかったのか。何を信じればいいのか。
　今までの疲労が一気にのしかかってきたように体が重く感じる。体だけではなく心までもが重い。
　そんなレインの胸中を見透かしたようにリヴィエールが語りかける。

「どうしたのです、騎士レイン。真実を知るのが怖いですか？　真実とはいつも無情なものです。だからこそ人は夢を見る。こうであればいいな、と妄想するのでしょう。しかし、私たちは常に現実を見なければならない。それが国を守る者の使命です。それができないのならば今すぐ剣を捨てなさい」

　そこまで話したリヴィエールは一気に空気を吸い込み、感情を吐き出すように言葉を放った。

「決めろ、騎士レイン！　問われているのはお前の生き様だ！　絶望を前にした時、現れるのは真実の自分。真実の騎士レイン・・・・・・いえ、レイン・ネヴァーはどうするのですか？」

　言葉の最後には穏やかなリヴィエールに戻り、そう問いかける。
　激励にも叱責にも聞こえる言葉を聞いたレインは全てをぶつけるように声をあげた。

「はぁああああ！」

　喉を痛めつけるような叫び声を上げながら、震えている膝に拳を振り下ろすレイン。
　声が止む頃には震えも止まっていた。

「行きます。剣を捨てるときは私の鼓動が止まるときです」
「いいでしょう。ついてきなさい」

　レインにそう答えたリヴィエールの表情は心なしか嬉しそうに見える。