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噴火直前の火山

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 ノエルとレインが王子たちを先導し、徐々に広がっていく火を避けながら屋敷の外へと向かった。
 廊下を走り抜け、階段を降り、五人は何とか屋敷の外へと抜け出す。
 外では先に屋敷から脱出した使用人や護衛が十人ほど、屋敷の入り口を心配そうに眺めながら待っていた。

「ご無事でしたか!」
「スクレット様!」
「ラーク様!」
「リコルド様!」
「心配いたしました!」

 王子たちの無事を祈り待っていた使用人たちは雪崩のように言葉をかける。
 そんな使用人たちにラークは片手を上げて自分の無事を報告した。血の繋がった兄弟であるリコルドも同じように片手を上げる。
 しかし、スクレットだけは不機嫌そうに使用人たちを睨みつけた。

「ふざけるなっ! なんだ貴様らは。王子を何だと思っているんだ。お前たちの命を百人分差し出しても、私の命と釣り合うはずもない。オランディ国民ならば命を惜しむな! 私に仕えていることを誇りとし、死んでいけ!」

 どのような状況であっても、身分こそが全てだという自分の信条を曲げないスクレット。彼の生まれや育ち方を考えれば仕方ないのかもしれない。
 生まれた時から最上級貴族だったスクレットは自分たちこそがオランディの全てだと教えられてきた。
 身分の低い者は自分よりも身分の高い者に仕えることこそが幸せであり、そのために来ているのだという思想を植え付けられてきたのである。
 しかし、そんな背景があろうと、スクレットの言葉を不愉快に感じる者がいることは事実だった。
 使用人たちもスクレットに対し不満そうな表情を浮かべている。だが、相手は第一王子だ。面と向かって言い返すことなどできない使用人たちは黙って頭を下げるばかりである。
 そんなスクレットに不満を持つのは使用人だけではなかった。

「この馬鹿王子・・・・・・」

 スクレットの態度に腹を立てたノエルが怒りを言葉にしようする。
 だが、そんなノエルの肩をレインが掴み、言葉を止めさせた。

「何よ、レイン。言ってやらなきゃわかんないわよ、こいつ」
「わかっている。スクレット様がこうなったのは俺たちの責任だ。任せてくれないか」
「・・・・・・レイン」

 レインは覚悟を決めてスクレットの前に立つ。
 いきなり目の前に立ったレインの姿にスクレットは竦んでしまった。
 ただレインが目の前に立っただけではスクレットが竦むことはない。竦んだ理由はレインの表情にあった。
 眉間にシワを寄せているわけでもない。
 ただその瞳に噴火直前の火山のような気迫を宿らせていた。

「な、何だ、騎士レイン。その目は何だと聞いている。私は第一王子だぞ」
「スクレット様。救出が遅れて申し訳ありません。ですが・・・・・・どうか使用人たちを責めるのはおやめください。私が使用人たちに脱出の指示を与えたのです。罰するのであれば私を」

 そうレインは力強くスクレットに伝える。レインの口から出た言葉は重く、鋭い。謝罪の言葉というよりもスクレットを攻撃しているようだった。
 そんな気迫に押されたスクレットは言葉を失ってしまう。

「く・・・・・・」
「言葉を聞き入れてくださり感謝いたします」

 何も言い返せないスクレットにそう言い放つレイン。
 その隣にいたノエルがレインの肩を軽く叩いた。

「やるじゃん、レイン」
「いや、ノエルのおかげさ」

 レインはそう答えて微笑む。
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