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地獄の入り口

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 科学的な根拠ではなく自らの経験からの警告をするレイン。
 そんなレインの警告を聞いたノエルは慌てて口を手で塞いだ。

「じゃあ、これでいい?」

 そう聞き返すノエルにレインは右手を向ける。

「少し冷たいが我慢してくれるかい。水よ来れ」

 レインがそう唱えると、向けた右手から溢れた水がノエルの体を濡らした。

「きゃっ。もう、冷たいわね」
「すまないな。そのまま入ったのでは髪や皮膚が焼けてしまう可能性があったんだ」

 水の冷たさに対しての不満を伝えるノエルにレインはそう答える。
 この世界では自分の適性にあった魔法を使うことが可能だ。しかし、水魔法だけは別である。命の源ともいえる水はどの様な状況でも必要。飲み水から生活用水まで、使用方法は多岐にわたる。そのために最低限の水魔法はほとんど全ての者が習得していた。しかし、攻撃目的ではないので、その威力や範囲は小さい。
 レインは自分も水を浴びると屋敷の中に足を踏み入れる。

「さlあ、行こう。いいかい、煙は上の方に溜まっていく性質がある。できる限り体を低く保ってくれ」
「わかったわ」

 そうノエルに伝えながら屋敷の中を進んでいくレイン。
 しばらく進むと二階に上がる階段が見えた。階段は所々燃えており、今にも崩れ落ちそうである。そしてその階段の前に男性が立っていた。その服装から屋敷の護衛をしていた兵士であると推測できる。

「レ、レイン様!」

 レインの存在に気づくと、その兵士は駆け寄ってきた。

「お前は護衛の兵士か。状況を報告せよ」
「は、はい。報告いたします。フォルテ様によりこの屋敷は炎に包まれました。一階はほぼ全ての部屋に火が回っています。四人の王子は全員二階におられますが、階段が燃えてしまっており、救出が難航しております」

 そう報告する兵士。その言葉は震えており、動揺が大きい様に見える。
 レインは兵士の両肩に手を置き、優しく語りかけた。

「報告感謝する。ここから先は俺に任せてくれるかい。とにかく一階にいる者を避難させるんだ。そして安全を確保した後に水魔法を駆使して消化活動を行なってくれ。いいかい、とにかく落ち着くんだ。オランディに仕える兵士として、冷静に行動してくれ」

 そんな言葉で落ち着きを取り戻した兵士は、呼吸を整えてから頷き、すぐにその場を離れる。
 兵士の背中を見送ったレインは、再び燃え盛る階段に視線を送った。
 まるで地獄の入り口だと言わんばかりに炎と黒煙に包まれている。
 周囲の熱が自らの体温を上げ、じわじわと水分を奪っていった。
 しかし、ここで足踏みしている時間はない。

「いいかい、ノエル」
「無論よ。さっさと行きましょう」

 二人はお互いの意思を確認すると階段を登り始めた。
 体勢を低く保ちながら、一段一段踏み締める。
 炎を避けながら何とか登り切ると長い廊下が伸びていた。その廊下の左右に二つずつ扉があり、合計四部屋あるのがわかる。
 王子たちはその各部屋にいるのだろう。
 しかし、廊下にも火が回っており、一階と変わらない状況になっていた。

「俺は右側の部屋を開けていく。ノエルは左側を頼む」

 レインはそう伝えてから、廊下を走り始める。
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