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フェンリルも邪龍もフェニックスも

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 イスベルグの手から冷気が広がり、フォルテの体を徐々に凍らせる。

「こんなところで、負けるわけにはいかない。俺の正義が!」

 凍りながらも抵抗しようとするフォルテだったが、体が動かない。
 そんなフォルテを上から見下ろしながらイスベルグは言葉を吐き捨てた。

「正義を語るには若すぎたな。もう五百年ほど修行を積んでから出直してこい」

 イスベルグの言葉を聞きながらフォルテは氷の中に封じられてしまう。
 その表情は悔しさと無念そのものだった。
 足元の氷から手を離し立ち上がったイスベルグは、まるで小走りでもしたかの様に軽い深呼吸をしてから体の中にいる倉野に話しかける。

「終わったぞ、クラノ」
「あ、ありがとうございます。でも・・・・・・」

 そう歯切れの悪い返答をする倉野にイスベルグが首を傾げた。

「何だ。お前の望み通り素早く終わらせたうえに殺していないぞ」
「いや、死んでないですが、完全に心を折りにいってましたよね。食べ忘れて鞄に入れっぱなしにしていた棒状のスナックくらいバキバキに」
「棒状のスナック・・・・・・何だそれは。まぁ、どうでもいいが、折れていないと思うぞ、心も正義もな。その男は最後まで負けを認めようとしなかった。私との間にどれだけの差があるか理解したうえでだ。中々できることではない。フェンリルも邪龍もフェニックスも私と戦った後は住処に引きこもっていたからな」

 イスベルグの口から飛び出した種族名に驚きながらも倉野は凍る直前のフォルテを思い出す。
 闘志の火を絶やさずに、まっすぐイスベルグを睨みつけていた。しかし、その体にはイスベルグの強さと恐怖が刻み込まれていたはずである。
 自分が信じる正義のためにボロボロの体を最後まで動かそうとしていた。何があっても成し遂げる。負けない心。その姿は確かに強い信念を感じた。

「しかし、人間の体は疲れるな。脆くて壊さない様に気を遣ったぞ」

 体を伸ばしながらそう言い放つイスベルグ。
 そんなイスベルグに倉野が言い返す。

「人の体に文句言わないでくださいよ。ってか壊れそうだったんですか?」
「ああ、どこからが壊れたというのかわからんが。とにかく交代だ。私は少し休む」

 不穏なことを言いながらイスベルグはもう一度精神交換を行った。
 それにより倉野は体の感覚を取り戻すことになる。
 その瞬間、身体中に電撃と炎が走った様な強い痛みを感じた。

「いっ・・・・・・いってぇ。な、何だこの痛み」
「そう騒ぐな。体の限界を超えた動きをしたのだ、多少のダメージが残っていて当然だろ。それくらいでは壊れたとは言えまい」
「いや、完全に壊れてますよ。骨とか筋肉とか色々。いてて・・・・・・」

 倉野が体の不調を伝えていると、誰かの吐息と足音が聞こえてくる。
 息を荒げながら地面を鋭く蹴っている音だ。
 全力で誰かがこちらに駆けているのだろう。
 音と声に反応した倉野が振り返ると、身体中煤まみれのノエルが呼吸を乱して立っていた。

 
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