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死ぬ権利

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 イスベルグの重圧を受け、一瞬体を硬直させたフォルテ。
 その隙をつきイスベルグは一気に距離を詰めた。

「どうした、読めているのではないのか」
「くっ、速い。だが!」

 フォルテはイスベルグの速度に驚きながらも腕を盾にする。
 イスベルグの繰り出す攻撃は単純なものだった。
 近づき、右手で殴る。それだけだ。
 スキル読心によりフォルテはそれを知っている。いや、スキル読心などなくてもイスベルグの動きは拳を振りかぶりながら一直線に近づいているだけである。
 誰にでもわかる攻撃だ。
 しかし、イスベルグは余裕の表情でその攻撃を繰り出す。
 振りかぶった拳を型など気にせず、フォルテに叩きつけた。
 盾にした腕によって止められるはずだったその拳は止まらず、その腕ごとフォルテの体を宙に浮かせる。

「ぐあっ!」

 思わず苦痛の声を漏らすフォルテ。
 その体は後方に跳ね飛び、背中から地面に落ちた。着地をする余裕がなかったのである。
 その光景を体の内側から見ていた倉野がイスベルグに話しかけた。

「い、今何が起きたんですか?」
「何も起きてはいない。これが力の差だ。スキルも防御も関係ない」

 イスベルグはそう答えながら倒れているフォルテに近寄る。

「くっ・・・・・・」

 何とか立ち上がろうとするフォルテにイスベルグが見下す様に声をかけた。

「どうした、オランディ最強の剣士よ。もうお終いか?」
「ふざけるな。純粋な力だと・・・・・・体術も筋力も、その体に負けるわけがない!」

 叫びながらフォルテは地面を蹴り、飛び上がる。
 そのまま空中で体勢を変えて、回し蹴りの要領でイスベルグの顔に踵を打ち込んだ。
 しかし、イスベルグはその足をいとも簡単に掴み、地面に投げ捨てる。

「ぐはっ!」

 勢いよく地面に叩きつけられたフォルテは、鈍い音を立てて少し離れた場所に転がっていった。
 そんなフォルテにイスベルグはこう言い放つ。

「人間にしては鍛えられているな。だがそれは人間基準でしかない。いい加減に感じろ。私はお前よりも強い」
「くっ、うあああああああ!」

 フォルテは必死の雄叫びを上げて、何とか立ち上がろうとした。
 しかし、大きなダメージを負った体は言うことを聞かない。
 筋肉を震わせ、再び地面に倒れ込むフォルテに、イスベルグは声をかける。

「どうだ、負けを認めろ。この体の持ち主・・・・・・クラノという男がお前を殺したくないと言っている。このまま倒れ、この戦いから離脱するというのならば命まではとらんぞ」
「ふざけるな。負けは死と同じだ。殺していけ!」

 屈辱と苦痛に顔を歪ませながらフォルテはそう叫んだ。
 そんなフォルテに近づきながらイスベルグは冷たく言い放つ。

「お前が戦うと決め戦い、この様に力の差は歴然。いいか、戦った以上弱き者に選ぶ権利はない。生きることも死ぬこともだ。屈辱と敗北を背負い、生き続けろ。それがお前が負けた代償だ」

 そう吐き捨てたイスベルグはフォルテの近くで膝をつき、フォルテの背中に手を置いた。

「な、何をする」
「お前はこの戦いから離脱だ。氷の中で静かにしていろ」
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