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シンクロの極地

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「うわあああああ!」

 滑稽な悲鳴を漏らす倉野。
 一瞬のうちに体の感覚が抜け落ちていった。だが、視覚だけが残り、まるで鮮明な映画を見ている様である。
 感覚のない自分の体に驚きながら、倉野は声を発そうとした。

「これは・・・・・・どうなっているんですか?」

 しかしその声は口から出ることはなく、倉野の体の中のみで響く。
 それはいつも聴いているイスベルグの声の様であった。
 倉野の体の中にのみ響く声に、何故か倉野の体が答える。

「私と入れ替わったのだ」

 その声は倉野の口から出ていた。しかしそれはイスベルグの声そのものである。

「イ、イスベルグさん。入れ替わったって、僕の体を全てイスベルグさんが動かしているってことですか?」

 倉野がそう問いかけるとイスベルグは倉野の口角を上げて答えた。

「ああ、そうだ。鼓動から血の流れまで全て私が支配している。今、クラノに出来ることは見ることだけだ。この状態に入るためには私を信じている必要がある。体の全てを委ねてもいいと思っていなければ、弾かれてしまうからな。便宜上、この状態のことを精神交換と呼んでいる。シンクロの極地だ」
「シンクロの極地・・・・・・」

 イスベルグの説明を聞いた倉野はなるほど、と頷く。
 いや、頷くと言っても体を動かすことはできないので精神上の話だ。
 何が起こったのかを倉野はもう一度整理する。
 現在、イスベルグは倉野の中に封じられていた。伝説上のドラゴンであるイスベルグはこの世界でも最上位と言っていいほど強大な力を持っている。そしてその分、魔力量も大きい。
 そんなイスベルグが長い長い眠りについていた。すると、体に蓄えている魔力がどんどんと増幅し、それは世界の脅威になりかねない大きさにまで膨らむ。
 イスベルグの体内に溜まっていく魔力が限界を超えると魔力爆発を起こし、その威力でこの世界が滅んでしまうのだ。
 そこでイスベルグは魔力を持たない倉野の体に自分を封じることで、魔力を徐々に消費することにしたのである。
 それにより一つの体に二つの精神が存在していた。
 二つの精神は少しずつ混ざり合い、影響を及ぼす様になる。それがシンクロという状態だった。
 イスベルグが倉野の体を動かすことができるのは、シンクロによるもの。
 そしてその先にある段階が精神交換なのだろう。
 イスベルグが外へ、倉野が中へ。いつもの逆の状態になっているのだった。

「・・・・・・中身が入れ替わったか。馬鹿め」

 呼吸を整え終えたフォルテはそう言いながら口角を上げる。
 スキル読心を持っているフォルテにとってイスベルグという存在が邪魔だ。倉野の中に封じられているために心を読むことができないからである。
 しかし、倉野の体を動かしているのがイスベルグの精神ならば、スキル読心の範囲内だ。
 フォルテにとって好都合である。
 そんなフォルテの心情を察したのかイスベルグが体の感覚を確かめる様に拳を握ったり開いたりしながら言い返した。

「私が表に出てきたことで心が読める・・・・・・好都合だ、と思っている様だな。何度でも言おう・・・・・・舐めるな、小僧」

 言いながらイスベルグは倉野の目でフォルテを睨みつける。
 その眼光はドラゴンのそれ、そのものだった。
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