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血に濡れた手で掴む王冠

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 イスベルグの言葉を聞きながら、必死に自らの拳でフォルテの拳を止めている倉野。
 さらにイスベルグは言葉を続けた。

「クラノ、どうやら時間をかけている暇はなさそうだぞ」
「どういうことですか?」

 拳の力を緩めない様にしながら倉野が聞き返すと、イスベルグは倉野の左手を動かし、フォルテの腹部に一撃をいれる。

「ぐはっ!」

 不意を突かれたフォルテは息を漏らしながら大きく後方へと飛ばされた。
 フォルテは地面にぶつかる直前で手を伸ばし、バク転の要領で回転し着地する。
 しかし、ダメージが残っているのか腹部を押さえながら呼吸を整えていた。
 スキル読心によって相手の心を読めるが故に、不意の攻撃に慣れていないのだろう。
 その隙に、イスベルグは先程の話を進めた。

「あの優男・・・・・・レインと言ったな」
「レインさんがどうかしたんですか?」

 慌てて倉野が聞き返すと、イスベルグは冷静に説明する。

「奴の気配が遠ざかっていく。何かが起きたのだろうな」
「レインさんが・・・・・・状況が変わっているのかもしれないですね。でも、フォルテは死ぬまで諦めそうにない・・・・・・」
「ならば殺すしかないだろう」

 淡々とそう答えるイスベルグ。
 命を懸ける覚悟をしていた倉野だったが、相手の命を奪うとなれば話は別だ。
 相手の人生をこの手で終わらせる。
 そんなことが自分にできるのだろうか。
 倉野はそう自問する。だが、答えは出なかった。
 そんな倉野にイスベルグが呆れた様にため息をつく。

「お前は貪欲だなクラノ。大切なものを守りたいのに相手を殺したくない・・・・・・いいかクラノ。全ての成果は犠牲の上に成り立っている。他の生物を殺し肉を食うことで命という成果を得るものだ。勝者の裏には必ず敗者がいる。栄光とは、血に塗れた手で掴む王冠だ」

 イスベルグにそう言われた倉野は反論できなかった。
 確かに誰かが勝てば誰かが死ぬ。誰かが肉を喰らい生きている裏では死んで肉になった生物がいる。そこに間違いがないからだ。

「で、でも・・・・・・」

 けれど、殺すという行為はその先にある全ての可能性を摘む行為である。
 相手の未来、家族、知人。その全てから相手を消してしまう。
 それだけはしたくない、と倉野は首を横に振った。
 するとイスベルグはさらに呆れた様な口調で倉野に話しかける。

「くだらん正義だな。相手を殺す覚悟もなく戦場に立つなんて大馬鹿者だ・・・・・・だが、そんな大馬鹿者だけの世界だったならば・・・・・・あの子も死なずに済んだのかもしれないな。クラノ、私を信じることができるか?」
「え?」
「いや、答えは後で聞くとしよう。とにかくお前の相手を殺さない覚悟を受け取った。後は中から見ていろ」

 倉野の答えを待たずにイスベルグはそう言い放った。
 その直後、倉野はいきなり地面に穴が開き、落下したのではないかという感覚に襲われる。
 まるでバラエティー番組の罰ゲームの様だった。
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