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最良の選択

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 フォルテが魔法を発動させようとしている状態で倉野の速度が上がり、相対的に周囲が停止する。正確には停止しているように感じるほどの速度で周囲は動き続けているのだが、倉野にとって時間停止と変わらない。
 スキル神速を発動させた倉野は恐る恐るイスベルグに話しかける。

「スキル神速発動しましたけど・・・・・・イスベルグさん?」

 これまで何度かスキル神速を発動してきたが、発動中にイスベルグが話しかけてきたことはない。
 そのことから、スキル神速はイスベルグすらも停止しているものだと思っていた。
 しかし、その予測を裏切りイスベルグの声が帰ってくる。

「これでいい。クラノ、お前は今、覚悟をしたな。死ぬ覚悟でもう一度私の魔法に頼ろうとした」
「・・・・・・はい。そうじゃなければあの男、フォルテを倒すことができないんです。それどころかレインさんたちにあの魔法が放たれる」

 倉野は目の前で魔法を放とうとしているフォルテに視線を送りながらそう言い返した。
 するとイスベルグは冷静に言葉を響かせる。

「そうしたとしよう。魔力酔いによりお前は死ぬかもしれない。死なないまでも再び昏睡状態には陥るだろう。そうなればこの戦いからお前という駒が落ちるんだぞ。先のことを考えてみろ」
「先のこと・・・・・・」
「相手の全貌はまだ見えない。それどころか味方になる戦力すら把握していないだろう。それなのにクラノという戦力が戦場から消えてしまえば、フォルテに勝ったとしても全体で考えれば負けることになる。それでいいのか?」
「よくないですよ。でも、この魔法を止めなければ全てが終わってしまうんです」

 切実に語りかける倉野。
 それとは対照的にイスベルグは落ち着いていた。

「わかっている。私が言っているのは、落ち着いて考えろということだ。本当にそれが最良の選択なのか。クラノがそう判断するのならば、私は力を貸す。だが、もう一度考えてみろ」

 イスベルグにそう諭された倉野は深い深い呼吸をし、自分を落ち着かせる。
 戦いという特殊な状況。命がけという重圧。守るべきものの重み。
 そんなものが重なり、普段の自分じゃ無くなっていることに気づいた倉野。

「そうだ・・・・・・僕にできることは考え続けること。努力を結果にすることだ。僕が積み重ねてきた経験を全て活かさなければ勝てない・・・・・・そうだ、落ち着け」
「落ち着いたようだな、クラノ。その状態のお前に提案がある」

 イスベルグがそう言うと倉野は首を傾げる。

「提案ですか?」
「ああ、そうだ。先程お前はこう考えたな。スキル神速中に私との会話が可能なのか、と」
「は、はい。確かに違和感を感じました。スキル神速中に動けるのは僕だけだったので」

 倉野はそう答えた。
 するとイスベルグは少し声のトーンを上げて言葉を続ける。

「これは私とお前がシンクロし始めている証拠だ」
「シンクロ?」

 再び聞き返す倉野。
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