異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

宝物庫の防衛

　レインの言葉に従う様に目の前の建物を見上げる倉野とノエル。
　周囲の雰囲気に溶け込んだ民家が目に入った。
　外壁は汚れており、所々破損しているその建物はまるで廃墟の様にも見える。
　だが、扉だけは新品同様に綺麗で、強固な鍵がかけられていた。
　その様子を見ながらノエルは呟く。

「外壁に似合わない扉ね。嫌な空気を感じるわ」
「ああ、そうだね。ヴェンデッタは壊滅状態にあるとはいえ、宝物庫を警備している人間がいてもおかしくはないだろう。警戒しておいて損はないさ」

　レインはそう言いながら扉に触れた。
　すると、扉に拒絶されるかの様にレインの手が勢いよく弾かれる。

「痛っ・・・・・・これは、結界魔法か」

　自分の右手に走る痛みを冷静に分析しながら呟くレイン。
　レインの行動を見ていたノエルは呆れた様にため息をつく。

「はぁ。今、自分で警戒しようって言ったばかりじゃないの。でも結界魔法は厄介ね」

　そんなノエルの言葉を聞いたレインは苦笑しながら右手の痛みを払う様に振った。
　帝都の中に堂々と存在する宝物庫。何かしらの侵入者対策をしているだろうと予測していたが、その中でも結界魔法は一番厄介な対策である。
　全ての物理衝撃を遮断し、全ての魔法を受け流すとされている結界魔法。
　それほど強力な魔法故に、飛行船や船の航路、大きな街の防衛に採用されている。
　冷静さを取り戻したレインは自分の顎に触れながら、結界について言葉にした。

「結界魔法か。物理攻撃や魔法攻撃では破ることはできない。突破するには結界破壊魔法が必要になるってことさ」
「結界破壊ってルーズさんが使っていた？」

　思い出しながら倉野がそう問いかける。
　飛行船の航空路にワイバーンが侵入してきた原因。
　アルフォロッソに復讐を企んでいたルーズが魔石に溜められていた結界破壊魔法を発動し、航空路を守っていた結界を破壊した話である。
　その時にもレインが話をしていたが、結界破壊魔法は結界魔法を理解し分解する高度魔法。
　結界魔法を使用できる者はそういない。
　少なくともレインやノエルは使用できない。もちろん倉野もである。

「ああ、そうさ。高度な専門魔法だよ」

　レインがそう答えるとノエルが首を傾げて疑問を口にした。

「ルーズの結界破壊？」
「いや、その話はあとでしよう。今はこの結界をどうするかだよ」

　ノエルの疑問にそう返したレインは目の前の扉を睨む。
　そんな背中を背後から見ながら、倉野は思ったことをそのまま言葉にした。

「結界魔法が全てを遮断するなら、ヴェンデッタのメンバーはどうやって宝物庫に入ってたんでしょうか？」

　倉野の言葉を聞いたレインとノエルは呆れと驚きを混ぜた様な表情を浮かべる。
　まるで初めて見る生物に遭遇した様な表情から徐々に哀れみに変わっていった。　

「なんですか、その可哀想なやつを見る目は」

　そう倉野が尋ねるとレインが苦笑しながら口を開く。

「いいかい、クラノ。結界の中に入るには鍵が必要なのさ」
「鍵？」
「ああ、結界魔法発動時に設定した鍵をかざせば結界に入ることができる様になるのさ。だが、その鍵は鍵の形をしているとは限らない。例えば、指輪の様なものを設定し、常に身につけている者もいる」
「じゃあ、何が鍵か分からないってことですね」

　レインの説明に対して倉野が頷きながら話すと、ノエルが言葉を挟んだ。

「本当にクラノは何も知らないのね。だからこそ結界を突破するのは難しいのよ。何が鍵で誰が持っているのかを正確に知らなければ突破できないのよ。都合よく何でも見通すことができる人間がいれば話は別だけど・・・・・・って」

　ノエルの言葉の直後。レインとノエルは同時に倉野の顔を指差しながら、叫びに近い声量で声を上げる。

「あ！」
「え？」