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呪術師の信頼

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 そこまで巨大な魔石を今すぐ用意できるかと問われれば答えは否だ。
 何の当てもない。
 転移魔法への扉が閉ざされようとしていた。

「魔石自体が貴重なもの。それなのにネージュ島にあったようなサイズを手に入れるのは不可能じゃない?」

 ノエルが諦めたようにそう話す。
 彼女の言う通りだとレインは頷いた。

「ああ。三日の差はあるが追いかけるしかないさ」

 悔しさをにじませながらレインがそう言う。
 そんな二人を見ながら倉野は自分の無力さを感じていた。
 結局、転移魔法が使えないと言う無力感。
 自分が魔力酔いさえしなければと自分を責める気持ちが心を占めていた。
 そんな倉野の頭にイスベルグの声がいきなり響く。

「優男のポケットを探ってみろ」

 突然の声に驚き聞き返す倉野。

「ど、どういうことですか。レインさんのポケット?」
「ああ、そうだ。そこに魔石の痕跡を感じる」

 イスベルグは少し呆れながらそう答えた。
 何のことだかわからない倉野だったが、言われた通りにレインに近づく。

「どうしたんだい、クラノ」

 首を傾げるレインに構わず、倉野はレインの服を漁った。

「失礼します」
「な、なんだい。ちょ、どこ触って」
「じっとしててください」

 そう言いながらレインに抱きつくような形で体に触れる倉野。

「何してるのよ二人とも」

 ノエルは赤面しながらその様子を眺めていた。
 しばらく漁った倉野はレインの上着のポケットに入っていた紙切れを見つける。

「あった。これですか、イスベルグさん」
「ああ、それだ。それが魔石につながる」

 イスベルグの答えを聞いた倉野は紙切れを広げた。
 するとレインは思い出したように口を開く。

「あ、それは」
「何なの、その紙切れ」

 ノエルがそう問いかけるとレインは小さく頷いてから言葉を続けた。

「ジュアルから受け取った紙切れさ」
「ジュアルって、あの呪術師の?」

 再び問いかけるノエル。
 ヴェンデッタのアジトでジュアルと対峙した時。倉野がジュアルの事情を知り、彼の妹を救い出すと宣言した。
 倉野の行動に心動かされたジュアルは信頼の証としてこの紙切れをレインに渡したのである。
 しかし、その後の様々な展開によってレインはその存在を失念していた。
 そう説明するレイン。
 その話を知らなかった倉野はなるほどと頷いた。

「で、それには何が書いてあるのよ」

 説明を聞いたノエルはそう問いかける。
 問いかけられたレインは倉野の手から紙切れを受け取り、書いてある文字を読み上げた。

「庶民街ベイスタリアル通り七の四・・・・・・おそらくここ、帝都内の住所さ。そして一番下にこう書いてある。宝物庫、とね」
「宝物庫っ?」

 その単語に過剰反応を見せるノエル。
 お金のために命をかけ戦う傭兵にとって宝物庫という言葉は魅力的なのだろう。かつてないほど瞳を輝かせていた。
 少し苦笑しながらレインは話を続ける。

「おそらくこれは、ヴェンデッタの宝物庫さ。帝都内に置くことで外敵から守っているんだろうね。何よりもヴェンデッタが隠したいもの。そう判断した俺はジュアルが信頼に足ると判断したのさ」
「何でそんな大切なこと忘れてたのよ」
「仕方ないだろう。その後にカタラーナ救出やリマスとの戦いがあり、クラノが意識を失ったんだから」

 レインはそう言いながら紙切れに視線を落とした。

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