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連載
レイチェルと倉野
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素っ頓狂な声で聞き返す倉野にレイチェルは顔を近づける。
「クラノ様、お聞きしたいことがございます」
「は、はい。なんでしょうか」
「まだ・・・・・・旅を続けるつもりですか?」
レイチェルは緊張しながらも真剣な表情でそう問いかけた。
すぐに倉野はその言葉の意味に気づく。
過去に倉野はレイチェルから告白されていた。
全てを捨てて倉野について行きたい、と。
その時、倉野はレイチェルにこう言っている。
グランダー伯爵にはレイチェルが必要だ。だから、ここに残ってこの国を良くしてほしい、と。
もちろんそれも本心だったが、倉野が告白を断った一番の理由は自分が異世界人だからだった。
自分のような異質な存在がいれば、目立ち過ぎてしまい、目立ちすぎたものは排除される。
呪術師と呪いが歴史から消されてしまったように、倉野もいつしか忌み嫌われてしまうかもしれない。
そんな自分にレイチェルを巻き込みたくないという気持ちが強かった。
当時、呪術師のことは知らなかったが、そういった理由で告白を断った倉野は旅を続ける、と言ったのである。
今、レイチェルが旅を続けるかと問いかけてくるのは、気持ちが変わっていないかという確認だろう。
倉野は首を縦に振った。
「・・・・・・はい。まだ、旅を続けようと思っています。この帝都を出発してから色んな国の色んな人に出会いました。皆それぞれ、必死に戦い必死に生きて、泣いて、笑って、大切な人を守るために命をかけて・・・・・・輝いていました。そんな世界をもっと見てみたいんです」
そう話す倉野。
これが倉野の精一杯の優しさだった。
旅を続けるからずっとここにはいられない。そう伝えていた。
すぐに意味を理解したレイチェルは一瞬、涙を流しそうになるがぐっと堪えて笑顔を浮かべる。
「後悔しても知りませんからねっ。私はクラノ様に宣言した通り、この国をもっともっと良い国にします。お父様と一緒に。そして世界中に名を轟かせるくらい立派な女性になってみせますよ。その時になってから一緒にいたいと言われても、クラノ様はせいぜい執事止まりですからっ」
「ははっ、執事にはしてくれるんですね」
「だってそうすれば勝手に離れられないですから」
赤面しながら答えるレイチェル。
気がつけば空が夕日に染まっていた。
赤面なのか夕日の赤なのかわからない。
だが、その表情はまるで強がっている子猫のように見えた。
倉野はレイチェルの頭を撫でてから、口を開く。
「知っていますかレイチェルさん。世界は丸いんです。ずーっとまっすぐ進み続ければ一周してここまで戻ってきてしまう。だからこの世界にいる以上、一定距離以上は離れられないんですよ」
「ふふっ、なんですか、それ」
そう言いながらレイチェルは笑った。
倉野は夕陽を見上げながら立ち上がる。
続いてレイチェルも立ち上がると倉野の腕に抱きつき微笑んだ。
「お腹空きませんか。行きましょう」
「ちょ、え」
いきなり腕に抱きつかれて照れる倉野。
レイチェルに引っ張られるまま足を進めた。
「クラノ様、お聞きしたいことがございます」
「は、はい。なんでしょうか」
「まだ・・・・・・旅を続けるつもりですか?」
レイチェルは緊張しながらも真剣な表情でそう問いかけた。
すぐに倉野はその言葉の意味に気づく。
過去に倉野はレイチェルから告白されていた。
全てを捨てて倉野について行きたい、と。
その時、倉野はレイチェルにこう言っている。
グランダー伯爵にはレイチェルが必要だ。だから、ここに残ってこの国を良くしてほしい、と。
もちろんそれも本心だったが、倉野が告白を断った一番の理由は自分が異世界人だからだった。
自分のような異質な存在がいれば、目立ち過ぎてしまい、目立ちすぎたものは排除される。
呪術師と呪いが歴史から消されてしまったように、倉野もいつしか忌み嫌われてしまうかもしれない。
そんな自分にレイチェルを巻き込みたくないという気持ちが強かった。
当時、呪術師のことは知らなかったが、そういった理由で告白を断った倉野は旅を続ける、と言ったのである。
今、レイチェルが旅を続けるかと問いかけてくるのは、気持ちが変わっていないかという確認だろう。
倉野は首を縦に振った。
「・・・・・・はい。まだ、旅を続けようと思っています。この帝都を出発してから色んな国の色んな人に出会いました。皆それぞれ、必死に戦い必死に生きて、泣いて、笑って、大切な人を守るために命をかけて・・・・・・輝いていました。そんな世界をもっと見てみたいんです」
そう話す倉野。
これが倉野の精一杯の優しさだった。
旅を続けるからずっとここにはいられない。そう伝えていた。
すぐに意味を理解したレイチェルは一瞬、涙を流しそうになるがぐっと堪えて笑顔を浮かべる。
「後悔しても知りませんからねっ。私はクラノ様に宣言した通り、この国をもっともっと良い国にします。お父様と一緒に。そして世界中に名を轟かせるくらい立派な女性になってみせますよ。その時になってから一緒にいたいと言われても、クラノ様はせいぜい執事止まりですからっ」
「ははっ、執事にはしてくれるんですね」
「だってそうすれば勝手に離れられないですから」
赤面しながら答えるレイチェル。
気がつけば空が夕日に染まっていた。
赤面なのか夕日の赤なのかわからない。
だが、その表情はまるで強がっている子猫のように見えた。
倉野はレイチェルの頭を撫でてから、口を開く。
「知っていますかレイチェルさん。世界は丸いんです。ずーっとまっすぐ進み続ければ一周してここまで戻ってきてしまう。だからこの世界にいる以上、一定距離以上は離れられないんですよ」
「ふふっ、なんですか、それ」
そう言いながらレイチェルは笑った。
倉野は夕陽を見上げながら立ち上がる。
続いてレイチェルも立ち上がると倉野の腕に抱きつき微笑んだ。
「お腹空きませんか。行きましょう」
「ちょ、え」
いきなり腕に抱きつかれて照れる倉野。
レイチェルに引っ張られるまま足を進めた。
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