異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

文字の大きさ
上 下
91 / 729
連載

姫のヒメゴト

しおりを挟む
 とっさにレイチェルの前に飛び出す倉野。
 考えるよりも体が先に動いていた。
 飛来する何かと向かい合った瞬間に倉野は違和感を感じる。
 敵意も殺意も悪意も感じない。それどころか感じるのは柔らかな愛情だった。

「クー!」
「って、ツクネ!」

 そう飛来していたのはツクネである。
 弾丸のような速度で倉野の胸に飛び込んで来た。
 柔らかく温かい弾丸を受け止めながら倉野は口元を緩める。

「ツクネ、起きてたのか。てっきり鞄の中で眠っているのかと」
「ククッ!」

 嬉しそうに頬擦りするツクネ。
 そんな姿を見たレイチェルは微笑みながら口を開いた。

「ツクネちゃんはずっとクラノ様の枕元で守るように眠っていたそうですよ。それを見ていたシラムがツクネちゃんを説得したのです。何かあってもレイン様やシラムがクラノ様をお守りするので食事をされてはどうか、と。最初は渋っていたそうなのですが、レイン様に説得されたことで納得したツクネちゃんは我が家の使用人に連れられ、食事をしていたんですよ」

 そう言いながらレイチェルはツクネが飛んで来た方向を見る。
 おそらく使用人だと思われる男が立っており、ツクネを見守っていた。
 その男にレイチェルは微笑みかけて、指示する。

「ツクネちゃんを連れてきてくださりありがとうございます。後は大丈夫ですよ」
「は、はい。失礼します」

 使用人はそう答えてから立ち去った。
 すぐに倉野はツクネを抱きしめて話しかける。

「そうか、眠っているところを守ってくれていたのかツクネ」
「ククク!」
「ありがとうな。今回もツクネに助けられた」
「クー」

 ツクネは嬉しそうに返事をしてから、倉野の首に巻きついた。

「ふふっ、どうやら眠たいようですね。ツクネちゃん」

 レイチェルはツクネの表情を見ながらそう微笑む。
 倉野の首に巻き付いたツクネは眠そうに大きなあくびをして尻尾で顔を隠した。
 そんなツクネを撫でながら倉野は再び口元を緩める。

「お腹一杯になって眠くなったのかな。ゆっくりお休み」

 そう言ってから倉野はレイチェルの方を見て言葉を続けた。

「じゃあ、行きましょうか」
「はい。こちらです」

 レイチェルは頷いてから歩き出す。
 しばらく敷地内を歩くと、綺麗に植木が並んでいる場所に出た。
 まるで壁のように植木が並び、通路のようになっている。
 その先には植木に囲まれた空間があり、白い石で作られた屋根が見えた。
 西洋風あずまやと呼ばれる、外壁のない柱だけの小屋のような物である。
 その下には小さな二人がけのベンチが設置されていた。

「ここがお気に入りなんです」

 そう言いながらベンチに腰掛けるレイチェル。

「いい場所ですね」

 どうしていいか分からずそう答える倉野にレイチェルは自分の隣を手で指し示し、座るように促した。
 促されるままベンチに座る倉野に微笑みを向けながらレイチェルは口を開く。

「ここに来るとなんでも話せるんです。一人で抱えてる悩みでもなんでも。この植木たちが隠してくれるんですよね」
「確かに、一人になりたい時ちょうど良いかもしれませんね」

 そう答える倉野にレイチェルはこう問いかけた。

「一人になりたい時にも良い場所なのですが、二人っきりになりたい時にもちょうど良いと思いませんか?」
「え?」
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。