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唇、近く
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一連の呪いに関する事件について話し終えると、レインが椅子から立ち上がり口を開いた。
「さて、と。じゃあ、俺は少し散歩でもするとしよう」
「え、じゃあ、僕も行きますよ」
レインに続き倉野がそう言うとシラムが口を挟む。
「あ、クラノ様は病み上がりですので、まだゆっくりなされてはどうかな」
その言葉に乗っかるようにレインも頷いた。
「ああ、シラムさんの言うとおりさ。休める時は休んでおくんだ」
「え、でも、三日も寝てましたし・・・・・・」
倉野がそう答えるとレインは呆れた顔でため息をつく。
「はぁ・・・・・・ほら、お姫様がお待ちかねのようだよ」
言いながらレインはレイチェルに視線を送ってから部屋を出た。
その後ろを小さく笑いながらシラムがついて行く。
「あ、えっ?」
情けない声を出しながら見送る倉野。
二人がいなくなると倉野とレイチェルはお互いに目を合わせられず沈黙してしまう。
しばし沈黙した後、倉野は深呼吸してから口を開いた。
「あの」
すると、同時にレイチェルも同じ言葉を発し、言葉の二重奏を奏でてしまう。
その同時発言がなぜかおかしく、二人は笑ってしまった。
「ははは、なんかお互いに緊張してしまいますね」
倉野がそう言うとレイチェルは笑顔のまま小さく頷く。
「ええ、言いたいことは沢山あったのですが、いざとなると胸がドキドキしてしまって、言葉が出てきませんでした。でも一番言いたいことは一つ・・・・・・生きていてくれてありがとうございます」
その言葉に倉野はポカンとしてしまった。
助けてくれてありがとう、ではなく生きていてくれてありがとうと言われたからである。
彼女は自分の命よりも倉野の命に感謝をしたのだ。
一瞬、停止してしまった倉野だがすぐ我に返り言葉を返す。
「それは僕の台詞ですよ、レイチェルさん。生きていてくれてありがとうございます。本当に助けられて良かったです」
「クラノ様・・・・・・」
「レイチェルさん」
そう言いながら見つめ合う二人。
まるで引力が発生しているかのように自然と顔の距離が近づいていく。
するといきなり部屋の扉が勢いよく開いた。
バンッという音に反応して倉野はすぐにレイチェルから離れる。
今、自分は何をしようとしていたんだ、と自問しながら息を整え、扉の方を見るとグランダー伯爵が立っていた。
「クラノ殿が目覚められたと聞いたので急いで来たのだが、取り込み中だったかね」
「あ、いえ、そんなことは」
慌てて否定する倉野。
それに対してグランダー伯爵は笑いながらこう言った。
「はっはっは、もし取り込み中だったならばクラノ殿をグランダー家に取り込めたのだがな」
「もう、お父様!」
一気に赤面し、少し怒って見せるレイチェル。
そんな表情に倉野も思わず口元が緩んでしまう。
すぐに伯爵はレイチェルの隣の椅子に座り、倉野に話しかけた。
「改めて、クラノ殿。もう、レイチェルやシラムから礼を言われていると思うが、伯爵家当主として正式に言わせてほしい。本当にありがとう。クラノ殿とレイン殿がいなければグランダー家は・・・・・・いやこの国は終わっていたかもしれない。国民の規範たるべき貴族が犯罪者組織を己の利益のために使っていたのだからね。それは国が破綻してもおかしくない出来事だよ」
「いえ、できることをしただけです」
そう答える倉野にグランダー伯爵は微笑みを向ける。
「クラノ殿ならそう言うと思ったよ。だから私も伯爵ではなく、娘を持つ父として礼を言いたい。そして、伯爵としてでも一人の男としてでも、クラノ殿の頼みならば何でも聞こう」
「さて、と。じゃあ、俺は少し散歩でもするとしよう」
「え、じゃあ、僕も行きますよ」
レインに続き倉野がそう言うとシラムが口を挟む。
「あ、クラノ様は病み上がりですので、まだゆっくりなされてはどうかな」
その言葉に乗っかるようにレインも頷いた。
「ああ、シラムさんの言うとおりさ。休める時は休んでおくんだ」
「え、でも、三日も寝てましたし・・・・・・」
倉野がそう答えるとレインは呆れた顔でため息をつく。
「はぁ・・・・・・ほら、お姫様がお待ちかねのようだよ」
言いながらレインはレイチェルに視線を送ってから部屋を出た。
その後ろを小さく笑いながらシラムがついて行く。
「あ、えっ?」
情けない声を出しながら見送る倉野。
二人がいなくなると倉野とレイチェルはお互いに目を合わせられず沈黙してしまう。
しばし沈黙した後、倉野は深呼吸してから口を開いた。
「あの」
すると、同時にレイチェルも同じ言葉を発し、言葉の二重奏を奏でてしまう。
その同時発言がなぜかおかしく、二人は笑ってしまった。
「ははは、なんかお互いに緊張してしまいますね」
倉野がそう言うとレイチェルは笑顔のまま小さく頷く。
「ええ、言いたいことは沢山あったのですが、いざとなると胸がドキドキしてしまって、言葉が出てきませんでした。でも一番言いたいことは一つ・・・・・・生きていてくれてありがとうございます」
その言葉に倉野はポカンとしてしまった。
助けてくれてありがとう、ではなく生きていてくれてありがとうと言われたからである。
彼女は自分の命よりも倉野の命に感謝をしたのだ。
一瞬、停止してしまった倉野だがすぐ我に返り言葉を返す。
「それは僕の台詞ですよ、レイチェルさん。生きていてくれてありがとうございます。本当に助けられて良かったです」
「クラノ様・・・・・・」
「レイチェルさん」
そう言いながら見つめ合う二人。
まるで引力が発生しているかのように自然と顔の距離が近づいていく。
するといきなり部屋の扉が勢いよく開いた。
バンッという音に反応して倉野はすぐにレイチェルから離れる。
今、自分は何をしようとしていたんだ、と自問しながら息を整え、扉の方を見るとグランダー伯爵が立っていた。
「クラノ殿が目覚められたと聞いたので急いで来たのだが、取り込み中だったかね」
「あ、いえ、そんなことは」
慌てて否定する倉野。
それに対してグランダー伯爵は笑いながらこう言った。
「はっはっは、もし取り込み中だったならばクラノ殿をグランダー家に取り込めたのだがな」
「もう、お父様!」
一気に赤面し、少し怒って見せるレイチェル。
そんな表情に倉野も思わず口元が緩んでしまう。
すぐに伯爵はレイチェルの隣の椅子に座り、倉野に話しかけた。
「改めて、クラノ殿。もう、レイチェルやシラムから礼を言われていると思うが、伯爵家当主として正式に言わせてほしい。本当にありがとう。クラノ殿とレイン殿がいなければグランダー家は・・・・・・いやこの国は終わっていたかもしれない。国民の規範たるべき貴族が犯罪者組織を己の利益のために使っていたのだからね。それは国が破綻してもおかしくない出来事だよ」
「いえ、できることをしただけです」
そう答える倉野にグランダー伯爵は微笑みを向ける。
「クラノ殿ならそう言うと思ったよ。だから私も伯爵ではなく、娘を持つ父として礼を言いたい。そして、伯爵としてでも一人の男としてでも、クラノ殿の頼みならば何でも聞こう」
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