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死んだ呪術師

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「あ、ジュアルは・・・・・・」

 そう言いながら倉野はレイチェルの表情を窺う。
 全体的な視点で見ればジュアルは被害者だと言っていい。
 呪術師の一族として生まれたジュアル。
 利用されるか、憎まれるか。そんな生き方をしながらも彼は唯一の家族である妹、カタラーナを守って生きてきた。
 それに目をつけたリマスはカタラーナを人質に取り、ジュアルをヴェンデッタに所属させ利用したのである。
 そんなジュアルだが、レイチェルにとっては自分の命を奪おうとした相手だ。
 レイチェルにとって割り切れない部分があるのではないか、と気遣ったのである。
 しかし、レイチェルは笑顔で頷いた。

「事情はお聞きしております。確かにジュアル様は私に呪いをかけた張本人ですが、恨んではおりません。カタラーナ様を人質にとられ、ただ作業的に呪いをかけただけ・・・・・・カタラーナ様を守っただけです」

 そう言い放つレイチェル。
 どれだけの人がそう言えるだろうか、と倉野は感心する。
 自分の命を奪おうとした相手を恨んでいないと笑顔を浮かべる、それがどれだけ難しいことか。倉野はレイチェルの深い優しさを感じた。
 するとレインが捕捉するように口を開く。

「実はジュアルは自分への厳罰を望んだのさ」
「え、どういうことですか」

 すぐに聞き返す倉野。
 レインは一度頷いてから答えた。

「俺たちがグランダー邸に戻った直後、ジュアルが衛兵に連れられてやってきたのさ。そして、自らの口で全てを告白した。呪いをかけたのは自分だ、とね。そしてその上で伯爵にこう願いでたんだ」

 自分はすべての罪をこの命を持って償う。それによって呪術師の系譜をここで終わらせる。カタラーナは呪いを継承していない。だから、カタラーナが幸せに暮らせるように支援してほしい。
 ジュアルはそう願ったという。
 何も言い訳はしなかったのだと、称えるようにレインはそう話した。
 もちろん、その時点でグランダー伯爵はレインから全ての話を聞いており、ジュアルの事情も知っている。
 その上で、ある程度の嘆願は聞き入れようと考えていたのだが、罪を自分で背負うと言ったジュアルに対して伯爵は全てを赦すことを決めたのだった。
 たった今、呪術師ジュアルは死んだ。これからはカタラーナの兄としてだけ生きるのだ、と。

「その後、伯爵はジュアルとカタラーナに仕事と住む場所を用意すると約束してくださったのさ」

 レインはそう語る。
 その隣でレイチェルとシラムは頷いていた。
 これが全ての結果だという。
 レイチェルは呪いから解放され、リマスは現在牢獄にて取り調べを受けている。
 ヴェンデッタは壊滅し、ほとんどの者は投獄され裁きを待っている状況。
 ジュアルとカタラーナは平穏な暮らしを手に入れた。
 気になる点といえばバジル・インフェルノが行方不明になっているというところ。

「まだ、裁かなければならない者、是正しなければならない問題は残っておりますが、ひとまず状況が落ち着いたと言ってもいいでしょうな」

 まとめるようにシラムがそう言った。
 倉野たちは小さく頷き笑顔を浮かべる。

「そうですね」
「はい」
「ああ、そうだな」
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