異世界で俺だけレベルが上がらない！ だけど努力したら最強になれるらしいです？

連載

蜘蛛の巣、最後の戦い

　お互いを支え合いながらルチェルトラ邸を出た倉野たち。
　ゆっくりと一歩ずつグランダー邸を目指していた。
　ヴェンデッタと戦い、カタラーナを救い出した倉野とレイン。
　理不尽に呪いをかけられたレイチェルを想い、眠れぬ日々を過ごし、その身一つでルチェルトラ邸に乗り込んだグランダー伯爵。
　伯爵を守るためにヴェンデッタと戦ったノエル。
　蓄積した疲れと傷。全員が満身創痍に近い。
　だが、戦いはもう終わったのだ。
　まずはゆっくりと休みたい、そう思いながら歩いている。
　しかし、蜘蛛の巣からはそう簡単に逃れられない。願いは叶わなかった。

「どうして、貴族街に・・・・・・」

　目の前の光景に思わずグランダー伯爵はそう呟く。
　庶民街よりも圧倒的に整備された貴族街。
　立ち並ぶ屋敷は美しく装飾されており、街全体が一つの芸術作品ともいえる。
　そしてここには貴族たちが住んでいる為、警備は厳しく治安は良い。
　しかし、その芸術作品に大きな汚れが付着していた。

「・・・・・・ヴェンデッタの残党か」

　レインは言葉を吐き捨てながら、剣を握る。
　倉野たちの目の前にいたのはヴェンデッタの残党だった。
　数えきれないほどの男たちが貴族街の通路を塞ぐように待ち構えている。
　武器を持ち、殺気を放つヴェンテッタメンバー。
　対してこちらは四人とも疲れ果てていた。
　先ほどまでの安堵が嘘のように空気が重く、酸素が薄い。

「おい、めでたしめでたしってオチはつまんねぇよな。このまま消えるわけにはいかねぇんだよ、ヴェンデッタはなぁ！」

　ヴェンテッタの一人が剣の先を向けながらそう言い放った。
　そんな言葉を聞きながら倉野は口を開く。

「ノエルさん、伯爵を支えていてもらっていいですか？」

　そう言って、倉野は伯爵をノエルに預け一歩前に出た。
　そんな倉野の背中に話しかける伯爵。

「クラノ殿、まさか一人で・・・・・・」
「まだ戦えるよ、俺は」

　レインはそう言いながら踏み出そうとする。
　だが、ノエルがその肩を強く掴んだ。

「いっ・・・・・・ってぇ！」
「そんな体で何ができるのよ。信じなさいよ、ここまで一緒に戦った相棒を」
「・・・・・・ああ、確かにそうだな」

　レインは小さく微笑んでから倉野の背中に視線を送る。
　そんな倉野は心の中で呟いていた。

　弱い自分を断ち切る。
　これが本当に最後の戦いだ。
　自分の積み重ねを信じよう。
　重ねてきた努力を今、結果にする。

　一気に空気を吸い込み、唱えた。

「スキル神速発動！」

　その瞬間、倉野は時間を置き去りにするほど速くなる。
　誰よりも速く動き思考する為、自分以外の全てが停止しているように感じた。
　止まった時間の中で倉野はヴェンデッタの残党たちを一人ずつ攻撃する。その数、三百五十一人。
　命までは奪わないよう戦闘不能にする為、太ももを蹴り肩を殴る倉野。攻撃を当てた場所の骨を砕いたのだ。
　全員に一撃ずつ加えていき、倉野は三百五十一を数えた後スキル神速を解除する。

「ぐわああああああ」
「あああああ」
「がっ・・・・・・」
「いでぇ」

　あちらこちらで一気に悲鳴があがった。
　倉野以外の者から見れば一瞬の出来事である。
　倉野が消えたと思った瞬間、ヴェンデッタの残党たちがダメージを受け倒れた。