異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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対峙する蜘蛛

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「おい、まだ殺すなよ」

 そう言いながら不気味な笑みを浮かべる若い男。二十代前半くらいだろうか。
 その男は趣味の悪い、明らかに豪華な服を身に纏っている。
 紫の布地に金色の蜘蛛が刺繍されており、まるで権力を着飾っているようだった。
 男は先ほど広間にいたヴェンデッタメンバーたちに指示を出し、一人の男を囲んで殴りつけている。
 その様子を目の当たりにした倉野は思わず殴られている男の名前を叫んだ。

「グランダー伯爵!」

 そう、目の前で殴られているのはグランダー伯爵である。
 グランダー伯爵がこのルチェルトラ邸におり、ヴェンデッタの護衛たちに囲まれていたのだ。
 スキル隠密を発動しているため、倉野の声は届かない。
 すぐさま倉野は隣にいたレインに話しかける。

「レインさん。カタラーナさんのことお任せしていいですか?」
「ああ、任せてくれ。すぐに戻る」

 そう答えたレインはカタラーナを抱えたまま広間を走り抜けた。
 レインの背中を見送った後、考えが甘かった、と倉野は後悔する。
 精神的に追い詰められていたグランダー伯爵。そんな彼に犯人を教えてしまうと、無茶な行動に出ることは想定できたはずだ。
 自分の想像力のなさを後悔しながら倉野はスキル隠密を解除し、スキル神速を発動する。

「どけぇ!」

 そう叫びながら地面を蹴り、グランダー伯爵を囲んでいる男たちを蹴り飛ばした。
 その瞬間にスキル神速を解除すると、ヴェンデッタメンバーたちはまるでワープしたように広間の壁に衝突する。
 グランダー伯爵の視点からは自分を中心に爆発したように感じ、目を瞑っている。

「大丈夫ですか、伯爵」

 倉野が話しかけると、グランダー伯爵は恐る恐る目を開いた。

「ク、クラノ殿。どうしてここに」
「どうしてここに、は僕の台詞ですよ。何故一人で」
「・・・・・・すまない。苦しんでいるレイチェルの顔を見ていたら、いてもたってもいられなくなってね」

 そう言いながらグランダー伯爵は顔の痣を撫でる。
 先ほど殴られた時にできた痣だろう。
 倉野の中でどす黒い感情がふつふつと湧き上がった。
 何人傷つければ気が済むのか。どれだけの人を悲しませれば気が済むのか。

「ちょっと待っていてください、グランダー伯爵」

 倉野はそう伝えてから、護衛たちに指示を出していた男の方を向く。

「・・・・・・お前がリマスか?」
「な、なんだ貴様。気安く呼ぶな」

 男はそう答えた。
 その答えは自分がリマスだと言っているようなものである。
 倉野はかつてないほどの怒りでリマスを睨んだ。

「どうして、自分よりも爵位が上のグランダー伯爵に攻撃したんだ」
「ああ?何を言ってやがるんだ。その男がグランダー伯爵かどうかはわからないだろ。我が屋敷に侵入してきた不審者を撃退していただけだ。まぁ、護衛もつけずに一人で出歩く貴族なんていないがなぁ」

 そう言いながらリマスは不気味な笑みを浮かべる。
 確信犯か、と倉野は心の中で呟いた。
 レイチェルのために直談判に来たグランダー伯爵だと分かっていて、攻撃させていたのだろう。
 父親であるグランダー伯爵がいなくなれば、もっと簡単にレイチェルを手に入れられるとでも思ったのだろうか。

「もういい」

 倉野はそう言い放って拳を握りしめた。
 するとリマスは大声で叫び始める。

「誰か出てこい、侵入者だ!」
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