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飛び交う悪意

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 誰にも気づかれない状態で村を奥へとしばらく進むと、一際大きな木造の建物が見えた。
 そしてその建物には酒の入ったグラスのようなもの描かれている。
 どうやら、その建物がアジトとなっている酒場のようだ。

「あれみたいですね」

 倉野が話しかけるとレインが頷く。

「ああ、そのようだね。外から見た感じだと一階建てだ。中から話し声が聞こえてくる・・・・・・この感じだと、ある程度の人数がいるはずだ」

 そう言いながらレインは酒場の様子を伺っていた。
 確かに酒場からは何人もの話し声が漏れており、その様子からヴェンデッタのメンバーが集合していると予測できる。
 しかし、倉野にとって何人いようが問題ではない。
 スキル隠密があれば、何人いるとしても認識されることはないのだ。

「とにかく中に入りましょう。中の様子を見て、レックレスだけを拘束できればいいのですが」

 倉野がそう提案すると再びレインは頷く。

「ああ、そうだな。認識されないのならば、そうするのがいいだろう」

 了承を得た倉野はそのまま歩き出した。
 酒場に近づき、扉の前に立つ二人。
 誰にも認識されないことを前提としているとはいえ、やはり緊張感はあった。
 この扉の向こうには闇ギルド、ヴェンデッタに所属する犯罪者たちがいる。
 悪意と邪気に満ちた気配は扉を超えてひしひしと伝わってきた。
 そんな空気の中、倉野はゆっくりと扉を押す。

「開けますよ」
「ああ、何が起きてもいいように覚悟は決めたよ」

 そう答えたレインは剣を構えていた。
 扉を開くと、異様な熱気が流れるように押し寄せてくる。
 酒場自体は広い。だが、中には百近くの男たちが幾つも並んでいる机を囲んでおり、その影響で狭く感じた。
 想像していた以上の人数に一瞬怯む倉野。

「思っていたよりも多いですね」
「ああ、だが、認識されていないようだ」

 レインはそう答えた。
 確かに、扉を開けて入ったのにも関わらず、扉の方を見るものは一人もいない。
 スキル隠密の効果もあるが、語らいながら酒を飲んでいるという状況もあり、扉の開閉を気にしていないようだ。
 倉野たちはその状況を利用して、酒場を奥に進む。

「人を殺すなら剣に限るぜ!たまんねぇよな、切り裂く時の感触はよ」
「殺すくらいなら奴隷にして売っぱらっちまおうぜ」
「金と酒さえあればいいんだよ」
「あの女の悲鳴が忘れらんねぇよな」
「次はどこの街を襲うんだ」
「人間には奪う者と奪われる者しかいない。俺たちはいつでも奪う側だ!」

 聞くに耐えない言葉が飛び交う中、倉野とレインは人をかき分けて進んだ。
 周囲を見渡すが、ボスであるレックレスらしき人物は見当たらない。
 部屋の奥、壁際まで進んだ倉野は足を止めて、振り返る。

「ボスらしい態度の人は見つかりませんね」

 そう倉野が呟くとレインは少し考えてから口を開いた。

「ボスとは言え、丁重に扱われているわけではないのかもしれないな。この中に紛れ込んでいる可能性もある」
「確かにそうですね。もう一度詳しい場所を調べてみましょう。スキル説明発動。レックレス・クロウの居場所」

 倉野が唱えると説明画面が現れる。
 レックレス・クロウの居場所。アジトにしている廃村の奥にある酒場の中。酒場の奥にもう一部屋あり、幹部たちとそこにいる。
 そう表示されていた。

「奥に部屋があるみたいです」

 倉野が伝えるとレインは辺りを見渡す。
 すると、壁沿いに進んだところに違う部屋へと繋がる扉があった。

「あったぞ、クラノ。あそこに扉がある」

 レインはそう言って扉を指差す。
 そちらを確認した倉野は頷いて、歩き出した。
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