異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬

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帝都再び

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 どれくらいの時間だったのだろうか。
 数分にも一瞬にも感じる時間を光と浮遊感の中で過ごした後、どこかに着地するような衝撃を受けた。
 どうやら転移魔法が完了したらしい。
 強い光に眩んでいた目を開くと、大きな壁が見える。
 倉野にとって見覚えのある壁だ。

「ここはどこだろうか。転移魔法の目的地をエスエ帝国にしていたから、エスエ帝国内であることは確かだが」

 倉野の背後で同じタイミングで目を開いたレインがそう呟く。
 その声に反応した倉野が振り返ると、一緒にいた全員がそこにいた。
 一番後ろにいるアルフォロッソはすでに絶望を通り過ぎ、抵抗する元気すらない様子だ。
 全員、転移魔法の光で目が眩んでいたらしく、眩しそうに目を開いている。
 倉野は壁を指差して自分の記憶と照らし合わせ、言葉にした。

「この壁はエスエ帝国の帝都を囲む壁ですよ。一度来たことがあります」
「じゃあ、ここが帝都か。エスエ帝国の皇帝の城がある場所ね」

 ノエルがそう言いながら壁を眺める。
 この帝都は大きな壁に囲まれた都市だ。
 円形の都市で中心に皇帝の城があり、城を囲むように貴族が住んでいる貴族街がある。
 そしてその周囲に庶民街があり、貴族と庶民は区分けされていた。
 倉野は過去にレイチェルとシラムの護衛として帝都に訪れている。
 帝都にて命を狙われていたレイチェルとその父グランダー伯爵を倉野が救ったのだ。
 壁を眺めながらその時を懐かしむ倉野。
 隣でハウンドが口を開いた。

「とにかく、転移魔法は成功したようだな」
「ああ、全員無事に転移できたようだよ」

 レインはそう言いながら頷き、言葉を続ける。

「とにかく、帝都の中に入ろう。クラノ、例の伯爵の名前はグランダー伯爵だったか?」

 そう問いかけられ倉野は頷き返す。

「では、門でその名前を使わせてもらおう。事情を正直に話しても不審がられる可能性があるからね」

 レインはそう言ってから、全員を連れて帝都を囲む壁に沿って歩き、街に入る門を目指した。
 しばらく歩くと門が見える。奇しくも過去に倉野が通った門で、さらに懐かしくなった。

「少し待っていてくれ」

 レインはそう言い残し、倉野たちから離れて門に立っている衛兵に近づいていく。
 しばらく話をした後、レインは倉野に近づいた。

「どうしたんですか?」

 そう倉野が問いかけるとレインは不思議そうな表情を浮かべて答える。

「いや、ちょっと話が通じなくてな」
「話が通じない?」
「ああ、何故か医者だと思われているんだ」

 倉野は頭の上に疑問符を三つほど浮かべながらレインの姿を上から眺めた。
 その服装や装備はどう見ても騎士そのものである。
 どう見ても医者には見えない。
 一言で表すならば無駄に顔面偏差値が高い騎士。
 その視線に気づいたレインはため息をついて話を続ける。

「言いたいことはわかる。どう見ても医者には見えないだろう?」
「ええ、まぁ。比較的というか絶望的に医者には見えません」
「絶望的とは・・・・・・いや、まぁ確かにそうなのだが、グランダー伯爵の名前を出した途端、医者認定されてな。とにかく一緒に話を聞いてくれるか」

 レインにそう言われた倉野は一緒に衛兵のもとに向かった。
 倉野が近づくと衛兵は驚きの声をあげる。

「あ!」
「え?」
「あの時の貧相な男」

 衛兵は倉野を指差してそう言った。
 その言葉で倉野もその衛兵を思い出す。レイチェルと一緒に門を通った時にも立っていた衛兵である。
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