578 / 586
鍛冶場で・・・3
しおりを挟む
すると、奥にいたデイビッドがリコットに尋ねる。
「それはいいんだけど、俺達は紅蓮さんに呼ばれてここに来たんだ。彼女はどこにいるの?」
その真剣な表情に、リコットも平静を取り戻して神妙な面持ちになると。
「ああ、サブマスならあの中だよ。付いてきな!」
リコットはそう告げると、先陣を切って人垣を掻き分けて中へと消えていく。
皆互いの顔を見合わせ意を決したようで頷きそれに続く。人を掻き分けて中へと強引に入っていくと、中には自分ほどの大きな金槌を手にした紅蓮が真っ赤に熱せられた鉄を打っている。
白装束を纏った紅蓮が金槌を振り落とす度に、その長く美しい銀髪が揺れ、額から玉のような汗が真っ赤に弾けた鉄の火花と一緒に周囲に飛び散っていた。
その光景が何故か神々しく見えたのは、その場に集まった皆が思っていたのだろう。一定のリズムでカンカンと音が響く中、ギャラリー達はその様子を見守っているだけだった。
紅蓮が最後と言わんばかりに大きく振り上げた金槌が熱せられた鉄に当たり。直後、金色の光を放つ。
光が収まると、そこにはメルディウスのいつも持っている柄に刃の付いた大剣『ベルセルク』が置かれていた。
額を流れる汗を拭った紅蓮は「ほっ」と大きく息を吐くと、金槌を隣にいたメルディウスに渡して、やってきたエリエ達を出迎える。
「皆さん。お忙しい中、来てくれてありがとうございます。実は明日の件でお話があるのです。ああ――」
そこまで口にすると、思い出した様にエリエ達と一緒にいたリコットの方を向いて「後はよろしく……」と短く告げると、リコットも「了解。サブマス!」とにっこりと微笑みを浮かべて親指を立てた。
だが、何故か紅蓮は彼女の発言に不満そうに眉をひそめる。
それを察して、エリエが恐る恐る彼女に尋ねた。すると、意外とあっさり紅蓮がエリエに小声で呟くように言った。
「……本当はメルディウスより下に思われるのは不満なんです。ですが、彼ほど皆を率いるのに相応しい人物もいません。私にはメルディウスほど、人を集める人徳はありませんから……」
少し悲しげな表情をした紅蓮の話を聞いたエリエは、彼女の気持ちが分かる気がした――たとえ個々の能力で上回っていても、結局は集団の中でのコミュニケーション能力に左右されてしまう。
特に紅蓮の固有スキルは『イモータル』不死の能力で、痛覚までは遮断できないのだが、それでも死なないというアドバンテージは大きい。それに比べてメルディウスの固有スキル『ビッグバン』は、それとは正反対の固有スキルだ――彼にとっては、紅蓮は天敵とも言える相対関係に属している。
また、紅蓮は彼と対等の立場でいたいと考えているが、結局は口下手なところもあり。ギルドメンバーからも少し距離を置かれているのかもしれない。
エリエも現実世界では家柄上。様々な人と交流しなければいけないのだが、元々それほど人付き合いが上手い性格ではなく。現実世界の人付き合いは広く浅くを貫いてきたのだが、唯一心を許せるのはエミル達。元ギルドメンバーぐらいなものだ。
でも時折、自分よりも凄い固有スキルを持っているメンバーに囲まれていると、どうしてもいつか『自分が用無しになる日が来るのではないか……』と不安になる時もある。
おそらく。彼女も同じ気持ちなのだろうと、一瞬だけ見せた紅蓮の表情の変化に自分の心境を重ねてしまったのである。
「それはいいんだけど、俺達は紅蓮さんに呼ばれてここに来たんだ。彼女はどこにいるの?」
その真剣な表情に、リコットも平静を取り戻して神妙な面持ちになると。
「ああ、サブマスならあの中だよ。付いてきな!」
リコットはそう告げると、先陣を切って人垣を掻き分けて中へと消えていく。
皆互いの顔を見合わせ意を決したようで頷きそれに続く。人を掻き分けて中へと強引に入っていくと、中には自分ほどの大きな金槌を手にした紅蓮が真っ赤に熱せられた鉄を打っている。
白装束を纏った紅蓮が金槌を振り落とす度に、その長く美しい銀髪が揺れ、額から玉のような汗が真っ赤に弾けた鉄の火花と一緒に周囲に飛び散っていた。
その光景が何故か神々しく見えたのは、その場に集まった皆が思っていたのだろう。一定のリズムでカンカンと音が響く中、ギャラリー達はその様子を見守っているだけだった。
紅蓮が最後と言わんばかりに大きく振り上げた金槌が熱せられた鉄に当たり。直後、金色の光を放つ。
光が収まると、そこにはメルディウスのいつも持っている柄に刃の付いた大剣『ベルセルク』が置かれていた。
額を流れる汗を拭った紅蓮は「ほっ」と大きく息を吐くと、金槌を隣にいたメルディウスに渡して、やってきたエリエ達を出迎える。
「皆さん。お忙しい中、来てくれてありがとうございます。実は明日の件でお話があるのです。ああ――」
そこまで口にすると、思い出した様にエリエ達と一緒にいたリコットの方を向いて「後はよろしく……」と短く告げると、リコットも「了解。サブマス!」とにっこりと微笑みを浮かべて親指を立てた。
だが、何故か紅蓮は彼女の発言に不満そうに眉をひそめる。
それを察して、エリエが恐る恐る彼女に尋ねた。すると、意外とあっさり紅蓮がエリエに小声で呟くように言った。
「……本当はメルディウスより下に思われるのは不満なんです。ですが、彼ほど皆を率いるのに相応しい人物もいません。私にはメルディウスほど、人を集める人徳はありませんから……」
少し悲しげな表情をした紅蓮の話を聞いたエリエは、彼女の気持ちが分かる気がした――たとえ個々の能力で上回っていても、結局は集団の中でのコミュニケーション能力に左右されてしまう。
特に紅蓮の固有スキルは『イモータル』不死の能力で、痛覚までは遮断できないのだが、それでも死なないというアドバンテージは大きい。それに比べてメルディウスの固有スキル『ビッグバン』は、それとは正反対の固有スキルだ――彼にとっては、紅蓮は天敵とも言える相対関係に属している。
また、紅蓮は彼と対等の立場でいたいと考えているが、結局は口下手なところもあり。ギルドメンバーからも少し距離を置かれているのかもしれない。
エリエも現実世界では家柄上。様々な人と交流しなければいけないのだが、元々それほど人付き合いが上手い性格ではなく。現実世界の人付き合いは広く浅くを貫いてきたのだが、唯一心を許せるのはエミル達。元ギルドメンバーぐらいなものだ。
でも時折、自分よりも凄い固有スキルを持っているメンバーに囲まれていると、どうしてもいつか『自分が用無しになる日が来るのではないか……』と不安になる時もある。
おそらく。彼女も同じ気持ちなのだろうと、一瞬だけ見せた紅蓮の表情の変化に自分の心境を重ねてしまったのである。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる