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消えたマスター7

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 もしも、マスターに周囲の探索を依頼したのなら、マスターが居ないのは納得できるが、彼等は逸早くエミル達と接触するはずだ。しかも、当事者であるはずのマスターからも連絡がない。

 弟子であるカレンの姿も見えないことから、彼女も一緒に行った可能性があるのも捨てきれないだろう。

 イシェルは後から合流して、ちゃっかりエミルの席の横に腰を下ろしている。すると、食堂にメルディウスと紅蓮。それと剛と言う男だった。

 彼等は簡易的に容易された最前列のテーブルに着く、その様子はさながら記者会見のようだ――。

 席に着いて大きく息を吐いた紅蓮が、隣に腕を組みながら座るメルディウスの変わりに少し間隔を空けて口を開く。 

「……この場に集まって頂いた方々は、我々に味方してくれる方々であると信じております。今回はお願いがあってこの場を設けました。剛さん説明を……」

 その言葉に頷くと、彼女が座ったのと入れ替わるように立ち上がった。

「私はこのギルドの軍師的な役割を担っている。剛・里羅です。今回皆さんにお願いしたいのは、この街に入って気付いたと思いますが、まだこの街の防衛網は完璧ではない。殆どのモンスターは聖水には近付けない――それを利用して、今は一時的に侵入を阻んでいる状況です。ですが、突破される事がないとは言い切れません。その為、一日でも早く千代の防御を完成させる必要があります。その為に、明日の深夜に我々のギルドと一緒に伐採の手伝いと運搬時の護衛をお願いしたいのです。敵に感知させる危険を最低限にする為、1つのギルドのみにお願いしたい。立候補するギルドはお手を……」

 剛の話を聞いて、各ギルドマスター達が静かに手を上げる。さすがと言うべきか、全てのギルドが立候補という素晴らしい結果となった。

 いや、拳帝という絶対的な強者が消えた以上。それぞれが自分のギルドが最強であると確信に似た自信を持っているのだろう。
 その表情は皆真剣そのもので、こんな状況で先程と同じようにじゃんけんで……なんてことを言える状況ではない。何故なら、それぞれに自分達のギルドでなければ作戦の成功はないと考えているからだ……。

 互いを牽制する様に激しい視線をぶつけ合っている彼等に、今までだんまりを決め込んでいたメルディウスが徐に口を開く。

「――丁度いい。この気にそれぞれのギルドの長の実力を測っておくのもいいだろう。丁度、今日一日あるんだ――俺を含め、誰が一番なのかはっきりと準備を付けておこうぜ!」

 ほくそ笑むメルディウスの言葉を、皆無言のまま頷いて受け入れる。

 現実世界ならば、性別、年齢などで絶対的に不利になるプレイヤーが出てくるのだが、ここはゲームの中の世界――今の体は現実の肉体をトレースして作り上げたアバターに過ぎず。多少の変化は、システムのアシスト機能でプラマイゼロにそれぞれのステータスを調整される。
 
 っとなれば、老若男女。大人でも子供でも公平に勝負ができるということになるのだ――それならば、誰もわざわざ下手に出る者などこの場にはいない。
 何故ならこの場に居るギルドマスター、サブギルドマスターはそれぞれのギルドの看板と仲間達の名誉をその肩に背負っているのだから……。

 だが、紅蓮はそれに反対のようでむっとしている。しかし、今は何かを言うことはない。いや、できないと言ったほうがいいかもしれない。
 それもそうだろう。少なくとも皆納得した様子で手を下げたからに他ならなかった。確かにこの場で優越を付けるには実際に戦闘を行って決めるのが確実な方法だろう。

 しかし、逆を言えば一時的とはいえ、ギルドを指揮する者達が著しく疲労するのに変わりはなく。ここでもし敵が水に囲まれた城壁を突破してくるようならば、戦力と士気の低下は著しいものになってしまうのは明白だ。
 おそらく。メルディウス本人もその戦闘に参加するということだから、ただ単に自分がこの場に集まっている強敵達と戦ってみたいというところから来るものなのだろうが、問題は戦闘のルールを決めることだ。

 勝敗はHPを削り切った者の勝利というのは言うまでもないが、勝ち抜き戦にするのか総当たり戦にするのかということでも大きく結果は変わってくるだろうし。何より、武器の使用にも大きな問題がある。

 手に馴染んだ武器が最も扱いやすいということには違いがないが、このフリーダムの世界の中には『トレジャーアイテム』と言われる武器や防具、装飾品などのアイテムがある。それぞれに強力な付属効果を持ち、己の固有スキルとも相性のいいアイテムを持っている者も大勢いる。

 メルディウスの武器『ベルセルク』もその1つで、本人の固有スキルの爆発の能力を大斧状態のベルセルクの爆発効果に付加させることができるのだ。これにより、武器の攻撃力は何倍にも跳ね上がる。確かにチート級の能力だが、それが彼だけの特権と言うわけではない。

 この世界で『トレジャーアイテム持ち』の人間は珍しいわけではなく。逆に固有スキルという初期で有無を言わさずにランダムで決定するそれを単純に強化するには、トレジャーアイテムが最も適しているのだから。

 すると、ギルド『メルキュール』のギルドマスター。ダイロスが手を上げて提案する。

「ギルドは個人ではなく集団だ――その集団の長であるギルドマスターは勿論。連携も見なければ分からない。ルールは二対ニでの勝ち抜き戦でどうだ? 総当たり戦では疲労が大きくなる分ペース配分を考え、全力を出しきれないだろう。皆、手練揃いだからこそ全力で戦えなければ意味はない」
「全力と言うのなら、武器も自由に使えると言うことで良いな?」 

 メルディウスの言葉にもちろんと言わんばかりに、皆が頷く。どうやら、今回のことは本当に対決によって決定する様だ――。

「分かった……組み合わせは追って連絡する。全力を出し切っていい試合にしようぜ!」

 ガタガタと音を出して席を立つと、メルディウス達はいったんその場を離れた。
 それを見送ると、各ギルドマスター、サブギルドマスター達も自分達のギルドの部屋へと戻っていった。
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