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* * *
ミレイニと別れ、デイビッドに不服だが背おられているエリエに向かって、デイビッドが徐に尋ねた。
「――そういえば、ミレイニちゃんは連れて来なくて良かったのか?」
「えっ? ああ、あの子はいいのよ。来たって別に余計な事を言って混乱させるだけなんだから。ご飯は後で持っていけばいいし、部屋に戻ってるでしょ」
そう告げたエリエに、デイビッドは苦笑いを浮かべている。
激昂するミレイニの姿が、彼の脳裏には浮かんでいるのだろう。まあ、今の状況でも、部屋に一人にしていることに相当怒ってそうだが……。
食堂に向かう最中。廊下で辺りを注意深く見渡して、何かを探している様子のエミルを見つけた。
相当大事な物なのか、廊下の端に置いてある植木鉢の中までくまなく探している。その尋常じゃない慌て様に、エリエ達もその様子を察してか険しい表情で彼女に尋ねる。
「エミルいったい何があったんだ?」
「実は……」
「「……実は?」」
言い難そうに言葉を詰まらせたエミルが、深刻そうな表情で徐に告げた。
「――実はレイちゃんが居なくなっちゃったのよ! 昨日の夜から姿を見てないの!」
「「なんだ。そんなことか……」」
2人は声を揃えて答えると、呆れ顔で大きく息を吐き出した。
だが、エミルは本当に心配しているらしく、それほど重く受け取っていない2人に声を荒らげる。
「レイちゃんが居なくなったのよ! これは一大事だわ。星ちゃんが寝込んでしまっているのを気にして、家出したかもしれないでしょ!!」
「ちょ! エミル姉考え過ぎだよ。ほら、レイニールは星の事好きだし、どこかに行ったりしないよ。前にもこんな事あったけど、結局ひょっこり現れたじゃん」
「前と同じか分からないでしょ! もし、星ちゃんが今目を覚ましたら、レイちゃん居ない事を気にしてまたどこかに行くかもしれないでしょ!」
その言葉にエリエは『まさか……』と思いながらも、内心ではひやひやしていた。
確かに、星が今目覚めれば居なくなったレイニールを探しに行くと言いかねない。
そんなことになれば、土地鑑のない星が迷うかもしれない。いや、レイニールも現在進行形で迷っているかもしれないのだ。もしも、そんな状況で敵に襲われたりでもすれば……2人は急に険しい表情に変わり、慌ててレイニールを探し始める。
* * *
そんなことが起きているとは露知らず、当の本人達は……。
「行けーッ!! もっと速く走らんと、エリエに追いつかないのじゃ!」
「もう、頭の上でうるさい! 少し黙ってるし!」
頭の上のレイニールも上機嫌でパシパシ頭を叩く中、ミレイニが不機嫌そうに叫ぶ。
だが、レイニールは風を切って勢い良く走っていくミレイニが相当気に入ったようだ――確かに星では疾走するほどのことはない。それがレイニールには新鮮なのだろう。
廊下を疾走するミレイニは息を切らせ、徐々にスピードが遅くなり横を走るシャルルに跨がる。
彼女を背に乗せシャルルが一吼えすると、勢い良く廊下から階段へと物凄い速さで駆け抜けていく。
鼻をヒクヒクさせ、まるでエリエの匂いを探るようにして一直線にどこかに向かって行った。そして雷鳴の如く駆けていくと、階段の出口に向かって飛び出した。そこには、レイニールのことを探していた3人が居た。
シャルルがエリエの前に止まると、背中に乗っていたミレイニと突如現れた彼女達を目の当たりにしたエリエが同時に叫ぶ。
「「あっ、居た!!」」
指差しながら互いにその場に固まっている。
ミレイニが抗議するより早く、エリエが飛び上がって頭の上に乗っていたレイニールを掴む。
突然のエリエの行動に、頭の上で『?』マークを浮かべているレイニールを、今度はエミルの方に突き出す。
「ほら、レイニールを見つけたよエミル姉!」
嬉しそうに笑顔を見せるエリエからレイニールを受け取ると、エミルはほっとした様子で息を吐き出して笑顔を見せる。
レイニールは何のことか分からず。ただただキョトンとしていると、ミレイニが不満を爆発させるように「うがー!!」と天井を見上げて叫んだ。
驚いた様子で皆、彼女の方に注目すると、無言のまま下を向いているミレイニの指がビシッとエリエの方を指し。
「……シャルル、アレキサンダー。襲え……」
低い声音で命令したミレイニはアレキサンダーの背に飛び乗ると、鋭い視線をエリエに向けた。
目尻には微かに涙が浮かんでいたが、その瞳は本気そのものだ。本当にエリエを襲わせるつもりなのだ――普段の彼女とは違うハンターの様な禍々しく、それでもって鋭いオーラを全身から放っている。
身の危険を感じたエリエはブルブルっと体を震わせ、一瞬だけ青く光を放ち基本スキルのスイフトを起動して一目散に廊下をダッシュしていく。
「にーげーるーなー!!」
激昂したミレイニが命ずるままに、2匹の猛獣が逃げるエリエ目掛けて突進する。これは逃げる者を追うという、動物が持つ狩猟本能からくるものなのだろう。
ミレイニと別れ、デイビッドに不服だが背おられているエリエに向かって、デイビッドが徐に尋ねた。
「――そういえば、ミレイニちゃんは連れて来なくて良かったのか?」
「えっ? ああ、あの子はいいのよ。来たって別に余計な事を言って混乱させるだけなんだから。ご飯は後で持っていけばいいし、部屋に戻ってるでしょ」
そう告げたエリエに、デイビッドは苦笑いを浮かべている。
激昂するミレイニの姿が、彼の脳裏には浮かんでいるのだろう。まあ、今の状況でも、部屋に一人にしていることに相当怒ってそうだが……。
食堂に向かう最中。廊下で辺りを注意深く見渡して、何かを探している様子のエミルを見つけた。
相当大事な物なのか、廊下の端に置いてある植木鉢の中までくまなく探している。その尋常じゃない慌て様に、エリエ達もその様子を察してか険しい表情で彼女に尋ねる。
「エミルいったい何があったんだ?」
「実は……」
「「……実は?」」
言い難そうに言葉を詰まらせたエミルが、深刻そうな表情で徐に告げた。
「――実はレイちゃんが居なくなっちゃったのよ! 昨日の夜から姿を見てないの!」
「「なんだ。そんなことか……」」
2人は声を揃えて答えると、呆れ顔で大きく息を吐き出した。
だが、エミルは本当に心配しているらしく、それほど重く受け取っていない2人に声を荒らげる。
「レイちゃんが居なくなったのよ! これは一大事だわ。星ちゃんが寝込んでしまっているのを気にして、家出したかもしれないでしょ!!」
「ちょ! エミル姉考え過ぎだよ。ほら、レイニールは星の事好きだし、どこかに行ったりしないよ。前にもこんな事あったけど、結局ひょっこり現れたじゃん」
「前と同じか分からないでしょ! もし、星ちゃんが今目を覚ましたら、レイちゃん居ない事を気にしてまたどこかに行くかもしれないでしょ!」
その言葉にエリエは『まさか……』と思いながらも、内心ではひやひやしていた。
確かに、星が今目覚めれば居なくなったレイニールを探しに行くと言いかねない。
そんなことになれば、土地鑑のない星が迷うかもしれない。いや、レイニールも現在進行形で迷っているかもしれないのだ。もしも、そんな状況で敵に襲われたりでもすれば……2人は急に険しい表情に変わり、慌ててレイニールを探し始める。
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そんなことが起きているとは露知らず、当の本人達は……。
「行けーッ!! もっと速く走らんと、エリエに追いつかないのじゃ!」
「もう、頭の上でうるさい! 少し黙ってるし!」
頭の上のレイニールも上機嫌でパシパシ頭を叩く中、ミレイニが不機嫌そうに叫ぶ。
だが、レイニールは風を切って勢い良く走っていくミレイニが相当気に入ったようだ――確かに星では疾走するほどのことはない。それがレイニールには新鮮なのだろう。
廊下を疾走するミレイニは息を切らせ、徐々にスピードが遅くなり横を走るシャルルに跨がる。
彼女を背に乗せシャルルが一吼えすると、勢い良く廊下から階段へと物凄い速さで駆け抜けていく。
鼻をヒクヒクさせ、まるでエリエの匂いを探るようにして一直線にどこかに向かって行った。そして雷鳴の如く駆けていくと、階段の出口に向かって飛び出した。そこには、レイニールのことを探していた3人が居た。
シャルルがエリエの前に止まると、背中に乗っていたミレイニと突如現れた彼女達を目の当たりにしたエリエが同時に叫ぶ。
「「あっ、居た!!」」
指差しながら互いにその場に固まっている。
ミレイニが抗議するより早く、エリエが飛び上がって頭の上に乗っていたレイニールを掴む。
突然のエリエの行動に、頭の上で『?』マークを浮かべているレイニールを、今度はエミルの方に突き出す。
「ほら、レイニールを見つけたよエミル姉!」
嬉しそうに笑顔を見せるエリエからレイニールを受け取ると、エミルはほっとした様子で息を吐き出して笑顔を見せる。
レイニールは何のことか分からず。ただただキョトンとしていると、ミレイニが不満を爆発させるように「うがー!!」と天井を見上げて叫んだ。
驚いた様子で皆、彼女の方に注目すると、無言のまま下を向いているミレイニの指がビシッとエリエの方を指し。
「……シャルル、アレキサンダー。襲え……」
低い声音で命令したミレイニはアレキサンダーの背に飛び乗ると、鋭い視線をエリエに向けた。
目尻には微かに涙が浮かんでいたが、その瞳は本気そのものだ。本当にエリエを襲わせるつもりなのだ――普段の彼女とは違うハンターの様な禍々しく、それでもって鋭いオーラを全身から放っている。
身の危険を感じたエリエはブルブルっと体を震わせ、一瞬だけ青く光を放ち基本スキルのスイフトを起動して一目散に廊下をダッシュしていく。
「にーげーるーなー!!」
激昂したミレイニが命ずるままに、2匹の猛獣が逃げるエリエ目掛けて突進する。これは逃げる者を追うという、動物が持つ狩猟本能からくるものなのだろう。
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