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拠点を千代へ4

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 イシェルは夜景の見える大きな窓を眺めながら、椅子の背もたれに寄り掛かり。

「……エミル。あん時と同じ顔しとった。岬ちゃんが亡くなった時と同じ……うちにできることは、見守ってるしかでけへんいうのは分かっとるけど……歯痒いわ~」

 テーブルの上に蹲ると、イシェルは大きなため息を吐いた。

 イシェルはリアルの世界でもエミルと長い付き合いということもあり、エミルの妹が亡くなった直後の彼女をよく知っているのだろう。 

 それは憂鬱な表情をしているイシェルの様子を見れば、すぐに察することができる。だが、その表情の奥には悲しみも感じる。エミルと付き合いがあるということは妹とも、イシェルは会ったことがあるのかもしれない。

 明らか今日の彼女はおかしい。普段ならエミルにべったりと付いて離れない彼女が、今日は……と言うか、始まりの街を離れてからというもの、近寄ることもそうだが、会話すらしていないのだ。

 今もいつもならエミルと同じ部屋じゃないとダメだというイシェルが、大人しく個室に落ち着いている。これは、通常のイシェルなら考えられない異常なことだろう。その理由はすぐに分かることになる。それは……。

「……エミルは強がる子やから。人が近くにおると、自分のことは後回しにしてまう癖がある。そやから普段から自分の弱みを表に出せへん。こういう時こそ、1人にしてあげなあかん。あの時もそうやった…………」

 背もたれに身を任せると相当疲れていたのか、そのままイシェルは眠ってしまった。  数億ユールを消費したにも関わらず、紅蓮はいつもと全く変わらない表情でエレベーターに乗っている。
 本来ならば、相当ショックを受ける。いや、再起不能なほどのダメージを受けるはずなのだが、彼女は冷静そのものだった。

 普段から無表情なのはいつものことだが、この四方を敵の軍勢に囲まれた緊急時でも平静を保っていられるのは凄いことだろう。
 っと、エミルが無言のままエレベーター内にいるのが気まずいのか、そのことを気遣っているのか、おそらくはその両方なのか、操作パネルの前で真顔で佇む彼女に尋ねる。

「ねえ、紅蓮ちゃ――」
「――さんです」

 言葉を遮ってすぐに言葉を返してきた彼女に苦笑いを浮かべながらも、もう一度始めから聞き直す。

「紅蓮さんは、この敵に囲まれた状況が怖くはないの?」
「…………」

 まさかの無言で返され、エミルもどうしていいのか分からないまま前を向き直す。

 それをちらりと横目で見た紅蓮が重い口を開く。

「……怖いですよ。仲間達を失うかもしれないと考えると、とても怖いです。ですが、それが戦いです。私は最善を尽くして彼等を守るだけですから」

 そう告げた紅蓮の表情は微かに緊張している様に思えたが、エミルはそれ以上言葉を掛けることを止めた。いや、言葉を掛けられなかった……本来なら、年上の自分がしっかりしないといけないのに、自分は星一人守ることができなかったのだ――。

 実際には大学生の紅蓮の方がエミルよりも数歳年上なのだが、この容姿では勘違いされて当然だろう……。

 だとしても、小学生の様な華奢なその小さな体で、彼女は全てのメンバーを守ろうとしているのは凄いことだ。そんな彼女に向かってこれ以上、心配する様な言葉を掛けるのは野暮だとエミルも感じたのだろう。

 今回の件で、どんなに自分が無力であるかを思い知らされた。やはり、身を守る最低限の防衛術くらいは星に教えておくべきだったと、今は後悔しているくらいだ――背中で寝息を立てている星を見ると、エミルは表情を曇らせた。

 それを知ってか、紅蓮もそれ以上言葉を発することはなく。2人は無言のまま、エレベーターが上に向かって動いていく。すると、しばらくしてドアが開くとオレンジ色の柔らかい間接照明の光が、カーペットの敷き詰められた廊下を照らし出す。

 紅蓮は慣れた様子で一歩踏み出すと、エミルの方を微かに振り向く。
 促される様にエミルも前に出ると、紅蓮はゆっくりと歩き出した。

 廊下を進んでいくと、ある部屋の白い扉の前で彼女がピタリと止まる。

「この部屋を使って下さい。2人で使えるほどの広いお部屋なので、貴女もその子と一緒にゆっくり休むといいです。お風呂は大浴場もありますし、部屋にもシャワールームがあります。そこでお食事も備え付けの受話器からコールすれば、NPCが持って来てくれます。ああ、ですが明日の朝は食堂で取るようにお願いします。今後の話もありますので……それではごゆっくり」

 一方的に告げた紅蓮は軽く会釈をして、その場を後にする。彼女の有無を言わさぬ隙のない言葉運びに、お礼を言う暇もなかった……。
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