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拠点を千代へ2

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 だが、まだ街全体の3割程度、実用化にはまだまだ程遠いと言ってもいい状況だった。
 防護柵を完成させるのが先か、外壁を囲む水の流れる堀を突破され城門を抉じ開けられるのが先か、勝負はこのどちらかと言っても過言ではないだろう。

 紅蓮がマスターに向かって駆けていく。

「マスター。ご無事で何よりです」
「ああ、お前も無事で何よりだ……さっそく話をしたいのだが良いか?」

 真剣なその眼差しに、マスターの顔を見上げていた紅蓮が深く頷いた。

 その後、マスターの後ろにいる多くの者達を見渡す。

「――了解です。ですが、まずはゲストの皆様をお連れします。マスターはその間、ギルドホールの私の部屋に――」
「――何だとッ!? どうしてジジイをお前の部屋に入れるって事になるんだよ! なら俺の部屋に来い!」

 強引にマスターの手を引くと、メルディウスは城の中へと入って行った。  

 紅蓮は少し不機嫌そうな顔をしながら、ワイバーンに乗っていたプレイヤーの方へと歩いていくと、疲れ切っている彼等を労うように深々とお辞儀をする。

「皆さんお疲れ様でした。私はこの千代のギルド『THE STRONG』のサブギルドマスターです。こちらでは拳帝の要請で、皆さんの今後の宿泊場所や食事の準備はできています。今は戦いの疲れを癒やして下さい」

 前に手を合わせて、淡々と喋る銀髪に白い着物の小学生の様な女の子に、男性プレイヤーも女性プレイヤーも歓喜の声を上げた。

 まあ、透き通るような長い銀髪に紅の瞳、白地に桜の刺繍の入った着物の和装幼女だ。男女問わず、ゲーム好きだけじゃなくアニメ好きにも彼女は人気があるだろう。その年齢はすでに成人なのだが、それを知っているのはギルドのメンバーとごく一部の人間だけだ――。

 だが、当の本人は不思議そうに小首を傾げるだけで、特に好感も嫌悪感も抱いていない表情で立ち尽くしている。

 紅蓮にジリジリと迫る人集りを、小虎が懸命に押し返す中、星を抱いたエミルが近付いてきた。

「……この子を寝かせられる場所はない?」
 
 表情を曇らせたまま尋ねるエミルの姿に、紅蓮の表情も険しいものに変わり。

「小虎、後はおまかせします。中に入れば白雪が居ますから、詳しい事は聞いて下さい。貴女はこちらに……」

 そう短く告げた紅蓮は身を翻して、ギルドホールの方へと歩いていく。
 エミルもその後を続いていくと、困惑した様子で右往左往している小虎を残して、2人は日本の城を模したギルドホールの中へ入っていった。 

 ギルドホールに入ると相変わらず外見とは全く違う、高級ホテルのロビーの様な内装に、日本の城の中とは思えないほどの洋風な作りになっている。

 初めて千代のギルドホールに入ったエミルは、この日本の城とは比べ物にならないというより。かけ離れたその違いに、驚きを隠しきれない様子で辺りを頻りに見渡していた。

 城の中を見渡しているエミルの前を紅蓮はスタスタと歩いていく。
 まあ、歩幅の差があるのと星を背負っているのもあって、少しゆっくり歩いてくれているのだろう。距離が離れることはなく、丁度いいくらいだ。

 ロビーを横切ってエレベーターの場所までいくと、階を設定するボタンを押さず。機器に付いている差し込み口にアイテム内にしまっていたカードを射し込む。

 始まりの街で紅蓮が購入したホテルとこの仕様は同じだ――まあ、もう始まりの街には戻れないので、掛かった費用の回収はこのゲームから無事に抜け出して、元の正常な状態に戻ってからではなければ不可能だろうが……。

 数億ユールを消費したにも関わらず、紅蓮はいつもと全く変わらない表情でエレベーターに乗っている。
 本来ならば資産を溶かしたわけだから相当ショックを受ける。いや、再起不能なほどのダメージを受けるはずなのだが、彼女は冷静そのものだった。

 普段から無表情なのはいつものことだが、この四方を敵の軍勢に囲まれた緊急時でも平静を保っていられるのは凄いことだろう。
 っと、エミルが無言のままエレベーター内にいるのが気まずいのか、そのことを気遣っているのか、おそらくはその両方なのか、操作パネルの前で真顔で佇む彼女に尋ねる。

「ねえ、紅ちゃ――」
「――さんです」

 言葉を遮ってすぐに言葉を返してきた彼女に苦笑いを浮かべながらも、もう一度始めから聞き直す。

「紅蓮さんは、この敵に囲まれた状況が怖くはないの?」
「…………」

 まさかの無言で返され、エミルもどうしていいのか分からないまま前を向き直す。

 それをちらりと横目で見た紅蓮が重い口を開く。

「……怖いですよ。仲間達を失うかもしれないと考えると、とても怖いです。ですが、それが戦いです。私は最善を尽くして彼等を守るだけですから」

 そう告げた紅蓮の表情は微かに緊張している様に思えたが、エミルはそれ以上言葉を掛けることを止めた。いや、言葉を掛けられなかった……本来なら、年上の自分がしっかりしないといけないのに、自分は星一人守ることができなかったのだ――。
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