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獅子としての意地8
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AIというシステムだけで思考のない動く機械と言ったモンスターとは違い。言うなれば、思考を持ったモンスターなのがこの固有スキルを持ったプレイヤーの特徴だろう。
「行くぞ! ミゼ。この雑魚どもを全て蹴散らして、俺達が最強のギルドだと証明してやろう!」
「……それが次の夢か。なら拙者もお前のその夢を共に見よう! ネオ!」
意志を確認する様に互いの名前を呼び合うと、2人が敵の中に飛び込んで行った。
2人は咆哮を上げながらモンスターを次々と薙ぎ倒し、攻撃を受けてもその表情は苦痛に歪むこともなく生き生きとしていて、ただ純粋に戦いを楽しんでいる様だ――。
彼等の通った後には多くのモンスターの死骸とそれに似つかわしくない光だけが残され、体に無数の傷を受けながらも敵を撃破する様はまさに無双と言った感じだった。
* * *
モニターの前で狼の覆面を付けた男が不気味な笑みを漏らしながら、両手で覆面の付けた顔を覆う。
普通なら上から圧力を掛ければ潰れるはずの覆面は、何故か型崩れせずにその形を保っている。
これがゲームの世界の不思議と言ったところだろうか……現実では避けられないことも、この世界では関係ないのだ。
「フフフッ……最高だね。最高だよこのゲームは! 私の予想を超えた事をやらかして楽しませてくれる! たった2人でLv100のモンスター1万以上も撃破するとは、イヴほどではないが、痛覚のあるこのゲームでここまでやられるとは……素晴らしい! こんなものを見せられれば、ゲームプレイヤーを見下していた自分の考えを改めなければいけないな!」
興奮冷めやらぬ様子で叫んでいた覆面の男が次の瞬間。今までの出来事が嘘のように、まるでお通夜の後のように静まり返り椅子の背凭れに身を預けた。
覆面の男は大きくため息を漏らして、モニターの明かりだけが照らす薄暗い天井を見上げ。
「――とりあえず。本来計画していた第2フェーズまでは終了した。後は向こうの世界に居る彼等の仕事だ……私はただ失意の底に落ちたイヴをこの手で、この愛で包み込んであげればいいだけだ――この度こそ手に入れる。博士の時とは違う! あの女に地獄を見せてやる! 私は負けるのが嫌いなんでね。フフフッ……ハッハッハッハッ!!」
薄暗いラボの中に彼の不気味な笑い声が響き渡っている所に、扉が開き仮面を付けた女が入ってきた。
女は含み笑いをしながら、ゆっくりと近付いてくる。そんな女に彼は不機嫌そうな声を上げる。
「……なんだ?」
「ふふっ、朗報よ。貴方にとってはね……貴方がご執心の長い黒髪のあの子。今度は千代に向かったみたいよ?」
「なにッ!? ……その情報の根拠は?」
「――根拠なんて……私の情報に今まで嘘があったかしら? それが根拠じゃいけない?」
猫撫で声で近寄ってくると狼の覆面の男の背後から腕を回した。覆面の男はそれを拒むことなく。いや、気にする素振りすら見せずに嬉しそうな声を漏らし。
「フフッ……そうか。次は千代か!」
っと、モンスター達の映っているモニターに視線を戻す。
そこには街を取り囲むようにして展開するモンスター達に対して、抵抗する者など殆ど居ない防衛戦と言うには、戦力に乏し過ぎる始まりの街の姿だった――。
* * *
大空を優雅に飛ぶワイバーンの集団の中、先頭を飛ぶ一際目立つ漆黒の巨竜。
空を飛ぶその漆黒の巨竜ファーブニルの背に乗っていたエリエは、浮かない顔で開いていたコマンドを閉じた。
そこにオカマイスターの仲間と共に乗っていたサラザが話し掛けてくる。
「さっきから何をしてるの~? エリー」
「……えっ? ああ、ライ姉にメッセージ送ってたんだ。始まりの街もあんな状況だし、間違ってエミル姉の城に行っちゃったら大変でしょ? だから、千代にいるよって――」
サラザと喋っていたエリエの方を向くエミルの鋭い視線に、エリエが思わず俯く。
ある事件を皮切りにライラのことが大嫌いになったエミルにとって、彼女の名前を耳にするだけで条件反射的に反応してしまうのだろう。
冷や汗を掻きながら、あからさまにエミルから視線を逸らすエリエ。
そんなことを知る由もなく、近くで孔雀マツザカのマジックを見ていたミレイニが、無邪気にエリエの背中に飛び付く。
「エリエ! エリエもこっち来るし。あの人の魔法は凄いんだし! 手の中から鳩出したし鳩! 超常現象だし!」
「あんた。難しい言葉知ってるわね……」
疲れた表情で息を吐くエリエの体を、つまらなさそうに口を尖らせミレイニが揺らす。
「エリエも行くし! 一緒に見るし!」
「あー、はいはい。気が向いたらね」
我が儘を言う子供をなだめるように言った彼女の態度が相当気に食わなかったのか、ミレイニが突然距離を取って大きく息を吸い込んだ。
「エリエのバーカ! デブチン!」
「……だっ、誰がデブチンだーッ!!」
勢い良く立ち上がりミレイニに向かって駆け出すと、ミレイニもその場で跳ねた後一目散に逃げて行く。
「行くぞ! ミゼ。この雑魚どもを全て蹴散らして、俺達が最強のギルドだと証明してやろう!」
「……それが次の夢か。なら拙者もお前のその夢を共に見よう! ネオ!」
意志を確認する様に互いの名前を呼び合うと、2人が敵の中に飛び込んで行った。
2人は咆哮を上げながらモンスターを次々と薙ぎ倒し、攻撃を受けてもその表情は苦痛に歪むこともなく生き生きとしていて、ただ純粋に戦いを楽しんでいる様だ――。
彼等の通った後には多くのモンスターの死骸とそれに似つかわしくない光だけが残され、体に無数の傷を受けながらも敵を撃破する様はまさに無双と言った感じだった。
* * *
モニターの前で狼の覆面を付けた男が不気味な笑みを漏らしながら、両手で覆面の付けた顔を覆う。
普通なら上から圧力を掛ければ潰れるはずの覆面は、何故か型崩れせずにその形を保っている。
これがゲームの世界の不思議と言ったところだろうか……現実では避けられないことも、この世界では関係ないのだ。
「フフフッ……最高だね。最高だよこのゲームは! 私の予想を超えた事をやらかして楽しませてくれる! たった2人でLv100のモンスター1万以上も撃破するとは、イヴほどではないが、痛覚のあるこのゲームでここまでやられるとは……素晴らしい! こんなものを見せられれば、ゲームプレイヤーを見下していた自分の考えを改めなければいけないな!」
興奮冷めやらぬ様子で叫んでいた覆面の男が次の瞬間。今までの出来事が嘘のように、まるでお通夜の後のように静まり返り椅子の背凭れに身を預けた。
覆面の男は大きくため息を漏らして、モニターの明かりだけが照らす薄暗い天井を見上げ。
「――とりあえず。本来計画していた第2フェーズまでは終了した。後は向こうの世界に居る彼等の仕事だ……私はただ失意の底に落ちたイヴをこの手で、この愛で包み込んであげればいいだけだ――この度こそ手に入れる。博士の時とは違う! あの女に地獄を見せてやる! 私は負けるのが嫌いなんでね。フフフッ……ハッハッハッハッ!!」
薄暗いラボの中に彼の不気味な笑い声が響き渡っている所に、扉が開き仮面を付けた女が入ってきた。
女は含み笑いをしながら、ゆっくりと近付いてくる。そんな女に彼は不機嫌そうな声を上げる。
「……なんだ?」
「ふふっ、朗報よ。貴方にとってはね……貴方がご執心の長い黒髪のあの子。今度は千代に向かったみたいよ?」
「なにッ!? ……その情報の根拠は?」
「――根拠なんて……私の情報に今まで嘘があったかしら? それが根拠じゃいけない?」
猫撫で声で近寄ってくると狼の覆面の男の背後から腕を回した。覆面の男はそれを拒むことなく。いや、気にする素振りすら見せずに嬉しそうな声を漏らし。
「フフッ……そうか。次は千代か!」
っと、モンスター達の映っているモニターに視線を戻す。
そこには街を取り囲むようにして展開するモンスター達に対して、抵抗する者など殆ど居ない防衛戦と言うには、戦力に乏し過ぎる始まりの街の姿だった――。
* * *
大空を優雅に飛ぶワイバーンの集団の中、先頭を飛ぶ一際目立つ漆黒の巨竜。
空を飛ぶその漆黒の巨竜ファーブニルの背に乗っていたエリエは、浮かない顔で開いていたコマンドを閉じた。
そこにオカマイスターの仲間と共に乗っていたサラザが話し掛けてくる。
「さっきから何をしてるの~? エリー」
「……えっ? ああ、ライ姉にメッセージ送ってたんだ。始まりの街もあんな状況だし、間違ってエミル姉の城に行っちゃったら大変でしょ? だから、千代にいるよって――」
サラザと喋っていたエリエの方を向くエミルの鋭い視線に、エリエが思わず俯く。
ある事件を皮切りにライラのことが大嫌いになったエミルにとって、彼女の名前を耳にするだけで条件反射的に反応してしまうのだろう。
冷や汗を掻きながら、あからさまにエミルから視線を逸らすエリエ。
そんなことを知る由もなく、近くで孔雀マツザカのマジックを見ていたミレイニが、無邪気にエリエの背中に飛び付く。
「エリエ! エリエもこっち来るし。あの人の魔法は凄いんだし! 手の中から鳩出したし鳩! 超常現象だし!」
「あんた。難しい言葉知ってるわね……」
疲れた表情で息を吐くエリエの体を、つまらなさそうに口を尖らせミレイニが揺らす。
「エリエも行くし! 一緒に見るし!」
「あー、はいはい。気が向いたらね」
我が儘を言う子供をなだめるように言った彼女の態度が相当気に食わなかったのか、ミレイニが突然距離を取って大きく息を吸い込んだ。
「エリエのバーカ! デブチン!」
「……だっ、誰がデブチンだーッ!!」
勢い良く立ち上がりミレイニに向かって駆け出すと、ミレイニもその場で跳ねた後一目散に逃げて行く。
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