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覆面の下の企み10
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閉まった扉を叩いていたレイニールだったが無駄だと悟ったのか、すぐに倒れている星の所まで戻ってきた。
本来、街の門はプレイヤー保護の為、外部からのモンスターの侵入は原則としてできない仕様になっている。
その機能も弱体化しているとはいえ、レイニールが本気で叩いても扉はびくともしないというところは、つまりはその防衛機能は健在ということだろう。
扉を破るのを諦めたレイニールは星の元へ戻ると、服を引っ張って宙へと持ち上げる。どうやら、星を空中に持ち上げたままこの場所から離脱する考えのようだが。
「うぅ~。主、今日は少し重いのじゃ~」
「……レイ。私は大丈夫だから、逃げて……」
何故か今の星の体は、普段の彼女の数十倍も重く感じる。
顔を真っ赤にして何とか持ち上げようと、翼を素早く羽ばたかせているレイニールに、星が今にも掻き消えそうな弱々しい声で告げた。
だが、レイニールは首を横に全力で振ると、もう一度、バタバタと全力で小さな翼を動かす。
「そんなことできるか! 主は絶対に連れていくのじゃ!!」
「……レイ」
レイニールのその言葉が、星には嬉しかった……。
その直後、目の前に弓を構えるゴブリンの姿が目に飛び込んできた。
角度から見て、その弓の照準は間違いなくレイニールに向いている。それに気付いた星が慌てて叫ぶ。
「レイ……レイ! 私を放して! 早く飛び上がって!」
彼女の言う通りにすれば、レイニールだけならこの場から容易に離脱することができる。
しかし、レイニールは一向に星の服を放そうとはしない。
「嫌じゃ! 絶対に嫌なのじゃ!」
渾身の力を振り絞って出したその叫び声の直後、放たれた矢がレイニールに向かって飛んでいく。
星が『もうダメだ!』と思った瞬間、前に何者かが敵との間に割って入った。
「――ぐッ!!」
苦痛に歪むその声に星が顔を上げると、そこには苦痛に耐えながら微笑むトールの姿があった――。
星が驚き目を丸くしていると見上げている星の頭を、トールの大きな手が優しく撫でる。だが、星はどうして彼が自分を庇ってくれたのか分からなかった。
それもそうだろう。星はこの世界にいる多くのプレイヤーの1人で、トールとも2日間一緒にいただけで、それほど親しい間柄というわけでもない。
そんな自分を、彼が身を挺してまで守る理由が星には見つからなかった……。
「……ど、どうして……ですか?」
満面の笑みで微笑んで星の体を優しく抱きしめたトールの背に、追い打ちを掛けるようにその背中に無数の矢が突き刺さる。
「――くっ……うぐっ! がぁっ! ……ど、どうして? そんなの……簡単だよ。守りたいから……守っただけさ……僕はもうダメみたいだ…………君は、死ぬんじゃないよ?」
そのまま、HPがなくなったトールの体が光になって空へと昇っていく。
目の前から消えていくその光を見つめながら、星は自分の心の中で抱いていた気持ちが何だったのかを再確認した。
そう。それは恋愛感情とは全く違ったその感情は…………。
「――お父さん……」
咄嗟に出た言葉は、星が今までの人生でそれほど多く口にしたものではなかった。そして、今まで彼に抱いていた安心感と懐かしさは、これが理由だったのかと悟った時にはすでに光も消えていた。
星は彼の人当たりのいい優しい人柄と男性特有の大きく逞しい手に、会ったことのない父親を重ね合わせていたのだろう。それも現実には存在しない。周りの子供の父親をベースに創り上げた、自分の理想の父親という幻想を――。
直後に星が意識を失うと、今まで全く動かなった体が急に少し軽くなり。レイニールが重そうに宙へと持ち上げると、ふらふらとフラつきながらどこに逃げようかと右往左往していた。
* * *
モニターの前でその光景を見ていた覆面の男が、感情を剥き出しにして操作盤を叩いて声を荒らげた。
「何たる事だ!! 誰がイヴに矢を放っていいと命令した!! あのバカがいなければ、間違いなくイヴに当たっていたぞ!! くっ……」
覆面の男はもの凄い勢いでキーボードを叩くと、次々に画面にウィンドウが表示されては消えていく。
そのタイピングスピードもそうだが、常人ではウィンドウに表示されている英語の羅列は何のことか分からない。
おそらく。プログラミング言語なのだろう……覆面の男は素早くモニターと一体となっているキーボードを叩くと、即座にウィンドウを閉じていく。
その早業は彼がその作業に精通していることを裏付ける唯一のものだろう。しかし、どんなに優秀な人物だとしても。彼が稀代のマッドサイエンティストであることに変わりがないのだが……。
「そうか……あの竜に反応して……ならば、あの竜も戦闘対象から除外すれば……」
ブツブツと独り言を呟きつつ、キーボードを叩き続けていた彼の手がやっと止まる。
作業が終わったのだろう。最後のウィンドウも閉じ、椅子の背もたれに体を任せ大きく息を吐き出した。
そしてしばらくモニターの光で薄っすらと照らし出されている天井を見上げ、狂気じみた笑い声を上げると、再びモニターと向き合いキーボードを叩く。
本来、街の門はプレイヤー保護の為、外部からのモンスターの侵入は原則としてできない仕様になっている。
その機能も弱体化しているとはいえ、レイニールが本気で叩いても扉はびくともしないというところは、つまりはその防衛機能は健在ということだろう。
扉を破るのを諦めたレイニールは星の元へ戻ると、服を引っ張って宙へと持ち上げる。どうやら、星を空中に持ち上げたままこの場所から離脱する考えのようだが。
「うぅ~。主、今日は少し重いのじゃ~」
「……レイ。私は大丈夫だから、逃げて……」
何故か今の星の体は、普段の彼女の数十倍も重く感じる。
顔を真っ赤にして何とか持ち上げようと、翼を素早く羽ばたかせているレイニールに、星が今にも掻き消えそうな弱々しい声で告げた。
だが、レイニールは首を横に全力で振ると、もう一度、バタバタと全力で小さな翼を動かす。
「そんなことできるか! 主は絶対に連れていくのじゃ!!」
「……レイ」
レイニールのその言葉が、星には嬉しかった……。
その直後、目の前に弓を構えるゴブリンの姿が目に飛び込んできた。
角度から見て、その弓の照準は間違いなくレイニールに向いている。それに気付いた星が慌てて叫ぶ。
「レイ……レイ! 私を放して! 早く飛び上がって!」
彼女の言う通りにすれば、レイニールだけならこの場から容易に離脱することができる。
しかし、レイニールは一向に星の服を放そうとはしない。
「嫌じゃ! 絶対に嫌なのじゃ!」
渾身の力を振り絞って出したその叫び声の直後、放たれた矢がレイニールに向かって飛んでいく。
星が『もうダメだ!』と思った瞬間、前に何者かが敵との間に割って入った。
「――ぐッ!!」
苦痛に歪むその声に星が顔を上げると、そこには苦痛に耐えながら微笑むトールの姿があった――。
星が驚き目を丸くしていると見上げている星の頭を、トールの大きな手が優しく撫でる。だが、星はどうして彼が自分を庇ってくれたのか分からなかった。
それもそうだろう。星はこの世界にいる多くのプレイヤーの1人で、トールとも2日間一緒にいただけで、それほど親しい間柄というわけでもない。
そんな自分を、彼が身を挺してまで守る理由が星には見つからなかった……。
「……ど、どうして……ですか?」
満面の笑みで微笑んで星の体を優しく抱きしめたトールの背に、追い打ちを掛けるようにその背中に無数の矢が突き刺さる。
「――くっ……うぐっ! がぁっ! ……ど、どうして? そんなの……簡単だよ。守りたいから……守っただけさ……僕はもうダメみたいだ…………君は、死ぬんじゃないよ?」
そのまま、HPがなくなったトールの体が光になって空へと昇っていく。
目の前から消えていくその光を見つめながら、星は自分の心の中で抱いていた気持ちが何だったのかを再確認した。
そう。それは恋愛感情とは全く違ったその感情は…………。
「――お父さん……」
咄嗟に出た言葉は、星が今までの人生でそれほど多く口にしたものではなかった。そして、今まで彼に抱いていた安心感と懐かしさは、これが理由だったのかと悟った時にはすでに光も消えていた。
星は彼の人当たりのいい優しい人柄と男性特有の大きく逞しい手に、会ったことのない父親を重ね合わせていたのだろう。それも現実には存在しない。周りの子供の父親をベースに創り上げた、自分の理想の父親という幻想を――。
直後に星が意識を失うと、今まで全く動かなった体が急に少し軽くなり。レイニールが重そうに宙へと持ち上げると、ふらふらとフラつきながらどこに逃げようかと右往左往していた。
* * *
モニターの前でその光景を見ていた覆面の男が、感情を剥き出しにして操作盤を叩いて声を荒らげた。
「何たる事だ!! 誰がイヴに矢を放っていいと命令した!! あのバカがいなければ、間違いなくイヴに当たっていたぞ!! くっ……」
覆面の男はもの凄い勢いでキーボードを叩くと、次々に画面にウィンドウが表示されては消えていく。
そのタイピングスピードもそうだが、常人ではウィンドウに表示されている英語の羅列は何のことか分からない。
おそらく。プログラミング言語なのだろう……覆面の男は素早くモニターと一体となっているキーボードを叩くと、即座にウィンドウを閉じていく。
その早業は彼がその作業に精通していることを裏付ける唯一のものだろう。しかし、どんなに優秀な人物だとしても。彼が稀代のマッドサイエンティストであることに変わりがないのだが……。
「そうか……あの竜に反応して……ならば、あの竜も戦闘対象から除外すれば……」
ブツブツと独り言を呟きつつ、キーボードを叩き続けていた彼の手がやっと止まる。
作業が終わったのだろう。最後のウィンドウも閉じ、椅子の背もたれに体を任せ大きく息を吐き出した。
そしてしばらくモニターの光で薄っすらと照らし出されている天井を見上げ、狂気じみた笑い声を上げると、再びモニターと向き合いキーボードを叩く。
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