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覆面の下の企み7
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彼が慣れた手付きでキーボードを叩くと、モニターに表示されていたマスター達の映像が小さく端に追いやられ、今度は剣を構えてモンスターと対峙している星の姿が大きく映し出される。
「ハハッ……さあ、イヴ。どうするのかな? 後ろの人間を犠牲にして逃げるのかい? その羽虫の様なドラゴンが元の姿に戻れば逃げられるはずだが……まあ、どちらにしても君は絶対に殺さない。君の体をモンスターなんかに傷付けさせやしない。君のその小さな体も心も傷付けていいのは私だけなのだからね……」
まるで子供が蟻の巣を突くような、好奇心と残忍さに満ちたキラキラとした瞳で星の映るモニターを見つめていた。
すると、そこに仮面の女が首を突っ込んできた。
「ふ~ん。こんな幼気な子にまで手を出すなんて……女嫌いもここまで来ると、感心するわね~。さすがは泣く子も黙るマッドサイエンティスト様ってところかしら? でも、私はそういうところも嫌いじゃないけど……」
色香を醸し出しながらも、先程のこともあるのか仮面の女も今度は少し距離を置く。
その直後、彼は彼女の予想通り声を荒らげて叫ぶ。
「イヴをお前達の様な俗物共と一緒にするな! あの子には希代の天才脳科学者。大空 融の娘にして、決して公の場に出なかったが、全ての機械工学の祖とまで呼ばれた先駆者。夜空 光永を曽祖父に持つ、言わば科学会のサラブレッドだ! 偉大なるDMAを受け継いだ存在! 言わば人類の宝! 著名な祖父を持ちながら、博士を取った出来損ないのクソ女とは違う。本物のダイヤの原石なのだ! そして、その原石を磨き上げ、本物のダイヤを完成させた暁には、私の遺伝子が博士と同じ……いや、大空と夜空の血に、僕の血が入った究極の子が生まれる! 言わば神の子だ! そして後世まで、私の名と大空博士の名が永遠と語り継がれる事になるのだ!!」
興奮した様子で力説する覆面の男が、無意識に仮面の女の両方を掴んだ。
「イヴは今のままでも、他のガキ共とは一線を画している! 私の送り込んだ試練をクリアするあの知性と判断能力は、賞賛に値する! 故に、あの子の思考力だけを残し、心を完全に屈服させねばならないのだよ!」
我に返った覆面の男が、その勢いに恐れ慄いている仮面の女の体を、慌てて地面に投げるようにして両肩から手を放す。
覆面の男は女が地面に倒れ込むのにも興味を示さず。何事もなかったかのように、モニターに映る星を見つめ直した。
* * *
街の外壁の門を背にして突如現れた、数え切れないほどの無数のモンスターに剣を向ける星。
だが、その体は彼女の心境を表しているかのように小刻みに震えていた。
っと突然。目の前にレイニールが現れ、鼻先を押し付けるほどの至近距離で叫ぶ。
「主、何をしているのじゃ! 今はエミルもエリエ達もいないのだぞ!? 早く街の中に避難するのじゃ!!」
「……で、でも」
両腕をブンブンと振って、オーバー過ぎるくらいに意思表示しているレイニール。
もちろん。星も逃げたいのはやまやまだったのだが……。
門の先で怯えきった瞳でジリジリと迫りくるモンスターの大群を前にして、恐怖と絶望感に身を凍り付かせているプレイヤー達を見ていると、どうしてもその場を動くことができなかった。
だか、たとえ星がこの場に立ち塞がったとしても、この絶望的な戦況が変わるわけではない。しかし、このまま自分が街の中に戻ってしまえば城門を閉じられ、戻ってくるはずのエミル達を見殺しにすることになってしまう。
星はエミル達の為にも、街にいる者達の為にもこの場から離れるわけにはいかない。この状況下で信じられるのは、今は亡き父親が残してくれたとライラの言っていたこのエクスカリバーだけだ――。
恐怖で震える体を落ち着けるように、星はその父親の遺品であるエクスカリバーの柄を強く握りしめる。
その時、街の外壁の上から覗き込んでトールの叫ぶ声が響く。
「何をしているんだ星ちゃん! 早く街の中へ入るんだ!」
「――ッ!!」
彼の声が耳に飛び込んで来た直後、トールとの2日間の練習の光景と、今までクラスでイジメを受けて逃げてきた自分の姿が脳裏に鮮明に甦る。
今ここで逃げ出して何もしなければ、状況は悪化するだけで何の変化もない。
何もしないというのは逃げることだ――問題を先送りにしたって、誰も救いの手を差し伸べてくれることなんかない。でもそれが、今までの人生の中で最も正しいと思ってきたやり方……。
(……そうだ。あんなに練習したのはこの時の為、エミルさんなら絶対に逃げない。それに逃げていいのは……自分が傷付いてもいい時だけ!)
覚悟を決めたように剣を握り締めると、凛とした表情に変わった。
「ハハッ……さあ、イヴ。どうするのかな? 後ろの人間を犠牲にして逃げるのかい? その羽虫の様なドラゴンが元の姿に戻れば逃げられるはずだが……まあ、どちらにしても君は絶対に殺さない。君の体をモンスターなんかに傷付けさせやしない。君のその小さな体も心も傷付けていいのは私だけなのだからね……」
まるで子供が蟻の巣を突くような、好奇心と残忍さに満ちたキラキラとした瞳で星の映るモニターを見つめていた。
すると、そこに仮面の女が首を突っ込んできた。
「ふ~ん。こんな幼気な子にまで手を出すなんて……女嫌いもここまで来ると、感心するわね~。さすがは泣く子も黙るマッドサイエンティスト様ってところかしら? でも、私はそういうところも嫌いじゃないけど……」
色香を醸し出しながらも、先程のこともあるのか仮面の女も今度は少し距離を置く。
その直後、彼は彼女の予想通り声を荒らげて叫ぶ。
「イヴをお前達の様な俗物共と一緒にするな! あの子には希代の天才脳科学者。大空 融の娘にして、決して公の場に出なかったが、全ての機械工学の祖とまで呼ばれた先駆者。夜空 光永を曽祖父に持つ、言わば科学会のサラブレッドだ! 偉大なるDMAを受け継いだ存在! 言わば人類の宝! 著名な祖父を持ちながら、博士を取った出来損ないのクソ女とは違う。本物のダイヤの原石なのだ! そして、その原石を磨き上げ、本物のダイヤを完成させた暁には、私の遺伝子が博士と同じ……いや、大空と夜空の血に、僕の血が入った究極の子が生まれる! 言わば神の子だ! そして後世まで、私の名と大空博士の名が永遠と語り継がれる事になるのだ!!」
興奮した様子で力説する覆面の男が、無意識に仮面の女の両方を掴んだ。
「イヴは今のままでも、他のガキ共とは一線を画している! 私の送り込んだ試練をクリアするあの知性と判断能力は、賞賛に値する! 故に、あの子の思考力だけを残し、心を完全に屈服させねばならないのだよ!」
我に返った覆面の男が、その勢いに恐れ慄いている仮面の女の体を、慌てて地面に投げるようにして両肩から手を放す。
覆面の男は女が地面に倒れ込むのにも興味を示さず。何事もなかったかのように、モニターに映る星を見つめ直した。
* * *
街の外壁の門を背にして突如現れた、数え切れないほどの無数のモンスターに剣を向ける星。
だが、その体は彼女の心境を表しているかのように小刻みに震えていた。
っと突然。目の前にレイニールが現れ、鼻先を押し付けるほどの至近距離で叫ぶ。
「主、何をしているのじゃ! 今はエミルもエリエ達もいないのだぞ!? 早く街の中に避難するのじゃ!!」
「……で、でも」
両腕をブンブンと振って、オーバー過ぎるくらいに意思表示しているレイニール。
もちろん。星も逃げたいのはやまやまだったのだが……。
門の先で怯えきった瞳でジリジリと迫りくるモンスターの大群を前にして、恐怖と絶望感に身を凍り付かせているプレイヤー達を見ていると、どうしてもその場を動くことができなかった。
だか、たとえ星がこの場に立ち塞がったとしても、この絶望的な戦況が変わるわけではない。しかし、このまま自分が街の中に戻ってしまえば城門を閉じられ、戻ってくるはずのエミル達を見殺しにすることになってしまう。
星はエミル達の為にも、街にいる者達の為にもこの場から離れるわけにはいかない。この状況下で信じられるのは、今は亡き父親が残してくれたとライラの言っていたこのエクスカリバーだけだ――。
恐怖で震える体を落ち着けるように、星はその父親の遺品であるエクスカリバーの柄を強く握りしめる。
その時、街の外壁の上から覗き込んでトールの叫ぶ声が響く。
「何をしているんだ星ちゃん! 早く街の中へ入るんだ!」
「――ッ!!」
彼の声が耳に飛び込んで来た直後、トールとの2日間の練習の光景と、今までクラスでイジメを受けて逃げてきた自分の姿が脳裏に鮮明に甦る。
今ここで逃げ出して何もしなければ、状況は悪化するだけで何の変化もない。
何もしないというのは逃げることだ――問題を先送りにしたって、誰も救いの手を差し伸べてくれることなんかない。でもそれが、今までの人生の中で最も正しいと思ってきたやり方……。
(……そうだ。あんなに練習したのはこの時の為、エミルさんなら絶対に逃げない。それに逃げていいのは……自分が傷付いてもいい時だけ!)
覚悟を決めたように剣を握り締めると、凛とした表情に変わった。
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