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覆面の下の企み5
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ミレイニはすっかり大人しくなったその漆黒の毛を撫でると、ゆっくりとその背中から地面に降りた。そこに、レイピアを柄に収めたエリエが恐る恐る近付いてくる。
「……ミレイニ。これってフェンリルでしょ? 大丈夫なの?」
「うん。フェンリルだし! そんなに警戒しなくても、もうだいじょぶだし! この子はペリーにするし! ねぇ~、ペリー」
前足に抱き付いたミレイニの頬を、ペリーが優しく舐める。どうやら、その名前が満更でもないらしい……。
呆れ顔のまま、左手で額を押さえた。もちろん、その理由は彼女のペットに付けるネーミングの問題である。
「あんたのそのネーミングセンスはどうにかならないの? あんたが乗ったらペリーが黒船でしょうが……」
「黒船? 黒飴と間違ってるし? あはははっ、エリエ。黒飴を黒船と間違えるとか――色しか合ってないし、ほんとバカだし!」
ミレイニが自分を指差して大声で笑い声を上げるのを見て、エリエは拳を握り締めて。
「……ミレイニ。後で見てなさいよ~」
っと呟く。まあ、こんなところでミレイニを攻撃すればフェンリルや、ミレイニの他のモンスターに攻撃されかねない。特に今もエリエに向かって鋭い視線を向けて、殺気を放っているサーベルタイガーのシャルルにだが……。
その頃、エミルとイシェル達はと言うと――。
援軍の到着にほっと胸を撫で下ろしたエミルが、大きく息を吐いてイシェルの方を振り向く。
イシェルは優しく微笑みを浮かべ、手を後ろに組んでゆっくりとエミルの隣に歩いてくる。
「なんや。もう、うちらの圧勝って感じやねぇ~」
「ええ、どうして撤退した理由はなんなのかは分からないけどね。何か裏がないといいけど……」
難しい顔で考え込むエミルの肩をイシェルが軽く叩くと、微笑みながら言った。
「エミルは考え過ぎやよ。単に急な強襲とボスの撃破やろ? 最も分厚い場所を抜いとるんよ。そら敵も焦って当たり前やし。状況を少しでも立て直すための撤退と見て間違いないんとちゃうん?」
「……そうね。私もそう思うわ」
笑顔で微笑み返すエミル。そんな彼女の頭を強引に引き寄せると、自分の胸元にぎゅと押し付け優しく抱きしめる。
突然の行動に驚いたエミルは、がらにもなく慌ててじたばたと手を振り回す。
「――頑張るんは、エミルのええとこやけど……無理だけはしたらあかんよ? うちはなにがあってもエミルの……エミルだけの味方やからね……」
「……ありがとう。イシェ……」
エミルがイシェルの背中に腕を回すと、イシェルも同じようにエミルの腰に手を回してぎゅっと体を抱き合う。
静かに瞳を閉じて抱き合うと、2人は互いの存在を確かめ合うように更にきつく抱き合っている。その直後、エミルの視界とイシェルの視界にマスターからのピピッとボイスチャットのメッセージが表示された。
不機嫌そうに眉をひそめるイシェルと、驚いたように目を見開いたエミルがボイスチャット開始のボタンを押す。
『皆、敵にしてやられたぞ! 街を囲むように配置されていた敵が全て消えた! 目の前にいる敵はフェイクだ!』
鬼気迫る彼の声音に、2人は驚きを隠せない表情をして互いに顔を見合わせる。
「……マスター。なにを言っているのか……フェイク?」
『そうだ! バロンが交戦していた敵部隊が突如、無数の魔法陣で消えたらしい! 詳細は不明だが、これ以上前方に出ないように周りの者達に通達してくれ!』
「ええ、分かりました。なんとかやってみます!」
普段のマスターの姿からは想像も付かないほどの彼の慌てた様子に、エミルは隣にいたイシェルと顔を合わせて深く頷き合う。だが、その時にはすでに全てが遅いと彼女達はすぐに知ることになる……。
マスターとの交信を切った直後、エミルとイシェルの耳にモンスター達の咆哮が聞こえ彼女達がその方角を見ると、今まで味方が走っていた後方の森の中から次々と青白い光が立ち上がり、突如として現れた魔法陣の中からモンスター達が続々と姿を現わした。
そう、敵は撤退していたのではなく。その目的は攻撃専門の部隊をなるべく始まりの街から離す為のものだったのである。
しかも、無数に召喚できる魔法陣により。街を囲む部隊の全てをエミル達の後方に召喚させることで、後衛部隊との断絶を可能にした。また、前後をエミル達を敵に挟まれた状況に陥らせ包囲殲滅戦を仕掛けることもできる。
それだけではなく、敵はこちらが即席で集めた連合軍であることも想定に入れて囮の雑魚モンスターだけを残して、連合軍を街から遠ざけて主戦となる中ボスクラスのモンスターで街を囲んでいる。
まさに変幻自在の戦法だ――だが、モンスターを召喚できるのであれば、マスターもその可能性を視野に入れていたはず。
しかし、今回はまんまと敵の術中にハマってしまったのは、元々フリーダムにプレイヤーを特定の場所に転移するシステムはあっても、モンスターを意図した場所に召喚できるシステムがなかったからだ。
「……ミレイニ。これってフェンリルでしょ? 大丈夫なの?」
「うん。フェンリルだし! そんなに警戒しなくても、もうだいじょぶだし! この子はペリーにするし! ねぇ~、ペリー」
前足に抱き付いたミレイニの頬を、ペリーが優しく舐める。どうやら、その名前が満更でもないらしい……。
呆れ顔のまま、左手で額を押さえた。もちろん、その理由は彼女のペットに付けるネーミングの問題である。
「あんたのそのネーミングセンスはどうにかならないの? あんたが乗ったらペリーが黒船でしょうが……」
「黒船? 黒飴と間違ってるし? あはははっ、エリエ。黒飴を黒船と間違えるとか――色しか合ってないし、ほんとバカだし!」
ミレイニが自分を指差して大声で笑い声を上げるのを見て、エリエは拳を握り締めて。
「……ミレイニ。後で見てなさいよ~」
っと呟く。まあ、こんなところでミレイニを攻撃すればフェンリルや、ミレイニの他のモンスターに攻撃されかねない。特に今もエリエに向かって鋭い視線を向けて、殺気を放っているサーベルタイガーのシャルルにだが……。
その頃、エミルとイシェル達はと言うと――。
援軍の到着にほっと胸を撫で下ろしたエミルが、大きく息を吐いてイシェルの方を振り向く。
イシェルは優しく微笑みを浮かべ、手を後ろに組んでゆっくりとエミルの隣に歩いてくる。
「なんや。もう、うちらの圧勝って感じやねぇ~」
「ええ、どうして撤退した理由はなんなのかは分からないけどね。何か裏がないといいけど……」
難しい顔で考え込むエミルの肩をイシェルが軽く叩くと、微笑みながら言った。
「エミルは考え過ぎやよ。単に急な強襲とボスの撃破やろ? 最も分厚い場所を抜いとるんよ。そら敵も焦って当たり前やし。状況を少しでも立て直すための撤退と見て間違いないんとちゃうん?」
「……そうね。私もそう思うわ」
笑顔で微笑み返すエミル。そんな彼女の頭を強引に引き寄せると、自分の胸元にぎゅと押し付け優しく抱きしめる。
突然の行動に驚いたエミルは、がらにもなく慌ててじたばたと手を振り回す。
「――頑張るんは、エミルのええとこやけど……無理だけはしたらあかんよ? うちはなにがあってもエミルの……エミルだけの味方やからね……」
「……ありがとう。イシェ……」
エミルがイシェルの背中に腕を回すと、イシェルも同じようにエミルの腰に手を回してぎゅっと体を抱き合う。
静かに瞳を閉じて抱き合うと、2人は互いの存在を確かめ合うように更にきつく抱き合っている。その直後、エミルの視界とイシェルの視界にマスターからのピピッとボイスチャットのメッセージが表示された。
不機嫌そうに眉をひそめるイシェルと、驚いたように目を見開いたエミルがボイスチャット開始のボタンを押す。
『皆、敵にしてやられたぞ! 街を囲むように配置されていた敵が全て消えた! 目の前にいる敵はフェイクだ!』
鬼気迫る彼の声音に、2人は驚きを隠せない表情をして互いに顔を見合わせる。
「……マスター。なにを言っているのか……フェイク?」
『そうだ! バロンが交戦していた敵部隊が突如、無数の魔法陣で消えたらしい! 詳細は不明だが、これ以上前方に出ないように周りの者達に通達してくれ!』
「ええ、分かりました。なんとかやってみます!」
普段のマスターの姿からは想像も付かないほどの彼の慌てた様子に、エミルは隣にいたイシェルと顔を合わせて深く頷き合う。だが、その時にはすでに全てが遅いと彼女達はすぐに知ることになる……。
マスターとの交信を切った直後、エミルとイシェルの耳にモンスター達の咆哮が聞こえ彼女達がその方角を見ると、今まで味方が走っていた後方の森の中から次々と青白い光が立ち上がり、突如として現れた魔法陣の中からモンスター達が続々と姿を現わした。
そう、敵は撤退していたのではなく。その目的は攻撃専門の部隊をなるべく始まりの街から離す為のものだったのである。
しかも、無数に召喚できる魔法陣により。街を囲む部隊の全てをエミル達の後方に召喚させることで、後衛部隊との断絶を可能にした。また、前後をエミル達を敵に挟まれた状況に陥らせ包囲殲滅戦を仕掛けることもできる。
それだけではなく、敵はこちらが即席で集めた連合軍であることも想定に入れて囮の雑魚モンスターだけを残して、連合軍を街から遠ざけて主戦となる中ボスクラスのモンスターで街を囲んでいる。
まさに変幻自在の戦法だ――だが、モンスターを召喚できるのであれば、マスターもその可能性を視野に入れていたはず。
しかし、今回はまんまと敵の術中にハマってしまったのは、元々フリーダムにプレイヤーを特定の場所に転移するシステムはあっても、モンスターを意図した場所に召喚できるシステムがなかったからだ。
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