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白獅子4

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 いつものこととはいえ、これには星も呆れていた。子供が見ていて呆れるほどの口喧嘩なのだから、本当にどうしようもないものだったのだろう。その横では、レイニールとミレイニはこの期に乗じて、必死に大皿に残っているバームクーヘンを取り合っている。

 堪らず星は席を立つと、荒く息を繰り返し再び言い合いを始めたエリエとデイビッドに声を掛けた。

「エミルさんの所には行かないんですか?」
「「あっ……」」

 星の言葉を聞いて2人は思い出したのか、ポカンと互いの顔を見合わせると、空中で指を動かし固まったかと思うと、その表情が次第に青く染まっていく。
 おそらく。2人にエミルからのメッセージが届いていたのだろう。大体の内容は2人の表情を見ていれば察しが付くが……。

 慌てた様に星の手を掴むと、エリエは最後のバームクーヘンを巡っていがみ合っているレイニールとミレイニの方を向いて叫ぶ。

「いつまで食べてるの! 早く行くわよ!!」

 互いの注意がエリエに向いた直後、その前を高速の旋風が通過して、次の瞬間には大皿の上に乗っていたバームクーヘンが消えていた。

 最後のバームクーヘンはギルガメシュの元に渡り、ギルガメシュが一瞬のうちに自分の口の中に強引に押し込んだ。

 レイニールもミレイニも唖然とした様子でその一部始終を目撃し。次の瞬間には何事もなかったかのようにテーブルから離れ、レイニールは星の頭の上に。

 ミレイニはエリエの側にくると、星達は部屋を出て街へと向かった。

 もうすっかり日も沈み、夜の帳が落ちた街の中を歩いていくと、モニターのある大きな広場近くで何者かが声を荒らげていた。
 星もエリエも他の誰もがその声に聞き覚えはなく。小走りで広場まで急ぐと、広場では大勢の人が集まり、マスターと向かい側にフルプレートアーマーの見知らぬ男性プレイヤーが立っていた。

 顔まで覆っているフルプレートで、どうして男性だと分かったかというと、今まさに声を張り上げていたのが彼だったからだ――。

 彼はどうやら、マスターの作戦に不満があるらしく、周りを巻き込もうと懸命に声を張っている。

「俺は納得できない! 先制攻撃を仕掛けるというのもそうだが、どうしてわざわざ強化した外壁の門から打って出て攻めないといけない! 防衛戦の方が守りやすく敵が疲弊するのを待てばいいだけだろう。そうすれば、相手もさすがに落とせないと諦めるはずだ! 今こそ敵からの譲歩案を引き出せる絶好のチャンスだろう!」

 彼の意見を聞いた周りの人集りからも次々に声が上がり――。

「そうだそうだ! 守りきればいいだけなんだから、わざわざリスクを冒す必要なんてない!」「被害の出ない遠距離から、敵を倒せばいいだけじゃないか!」「攻めきれなかった時の責任はどうするんだ!」

 など、様々な反対意見が飛んでいる。

 しかし、反対意見だけではなく。こちらに賛同する者も頻りに声を上げる。

「無雑作に湧くモンスター相手に防衛戦は不利だ! 拳帝が正しい!」「守り切れる確証もない以上。あくまでこちらから攻撃的に行くべきだ!」「攻めてから、無理そうなら防衛戦に移行してもいい! ひとまず攻めてみるべきだろ!」

 などと言った、マスター達に賛同する意見も出ていた。

 賛成派、反対派。どちらの意見もまばらで殆どの者はどうすればいいのか決め兼ねていると言った感じだ。
 それも無理はないだろう。昨日の『村正事件』で人間不信になっている者も多く出ている。その中で、不死身とも言えるモンスターで大攻勢を掛けられれば誰に従うのが正しいのか分からなくなる者が多く出るのも肯ける。

 正直。無気力とは言えないまでも、結局は大多数の方に付くという人間本来の心理が働くのだろう……。

 そこに多くの群衆の中から、煙管を咥えたライオンの毛皮を纏った派手な格好の黒いバンダナに金髪サングラスを掛けた男と落ち着いた袴姿に長刀を腰に差した男が現れた。

 彼等はギルド『LEO』のギルドマスター、ネオとサブギルドマスターのミゼだ。
 人集りの前に出たネオは龍の形を象った煙管を口から放すと、口内に含んだ煙を吐き出してゆっくりとした口調で話し出す。

「……おいお前。拳帝の意見に異を唱えるなら、それ相応の力量があるんだろうな。……本当はビビってるだけなんじゃないのか?」

 挑発する様なネオの言葉に、鎧を纏った男性プレイヤーは怒り心頭といった感じで声を荒らげた。

「はあっ!? なんだお前等! ゲーム内だけで格好付けてるだけの中二病の癖に、出しゃばってるんじゃないぞ! なんだその見慣れない煙草にグラサンにバンダナ。おまけにライオンの毛皮を背負った格好は!」

 彼の言葉を聞いて、ネオは口元に微かな笑みを浮かべた。

 その表情には余裕さえ感じられる。しかし、彼の余裕の理由はすぐに分かることになる。
 
「――フンッ、中二病ねぇ……確かにそうかもしれないな。だが、そういうお前のフルプレートも相当な物だと思うがな……」

 ネオの思わぬ反論に彼はたじろぎ、周りからはクスクスと笑う声が聞こえてきた。
 男が「笑うな!」と声を張り上げると、ネオの隣のミゼがクスリと小さく笑いをこぼす。それを聞き逃さず、男はミゼを鋭く睨み付けた。

 刀に手を掛けたミゼの前を左腕で遮ると、ネオがニヤリと不敵な笑みを浮かべ。

「――どうだ? 俺と勝負してみるか? 他の奴等も拳帝の策に異論のある奴は前に出ろ! 俺が勝ったら拳帝の案を採用する! 俺は何人がかりでも構わないぞ?」

 その言葉にミゼは驚き身構えたが、ネオは刀の柄に手を掛けようとするミゼの方を睨みつけ。

「おい。ネオ」
「……手出しはするなよ? ミゼ。こいつは俺の道楽だ」

 苦虫を噛み潰した様な顔をして、小さくため息を漏らしたミゼが一歩後ろに下がる。それを見たネオは不気味な笑み浮かべ、周りを見渡すと6人の男性プレイヤー達が前に出た。

 彼の不気味な笑みが更に強くなり、全身から殺気を漲らせている。 
 ネオの体から滲み出るオーラに気付きつつも、彼等は引き下がる様子はない。

 まあ、リスクを冒したくない彼等にとっては、意地でも今回の作成を防衛戦にしたいのだろう。
 戦わずに相手の意見を飲むくらいなら、6対1で負ける可能性の低さに賭けたというところだろうか……。
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