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奇襲当日
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翌朝。星が目を覚ますと、すでにエミルもイシェルも居なくなっている。
のっそりと重い体を起こし、壁に立て掛けてある剣を見て不安そうな表情を浮かべると胸に手を当てた。
昨晩のこともあって、どうも心がざわついて落ち着かない。マスターの作戦を知らない星は戦いまで、まだ後1日あると信じて疑わなかった。
「あと1日……その前に自分にできること……」
小さく呟き考え込んでいると、そこに枕元で寝ていたレイニールが飛んできた。
大きくあくびをして、ふわふわと上下にフラつきながら星の顔の前にやってくる。
「なにを考えておるのじゃ? それより、今日はあの無礼者の所には行かんのか?」
「無礼者……?」
星が首を傾げて聞き返すと、今まで眠そうにしていたレイニールの目が見開く。
「あの我輩の尻尾を掴んだ奴じゃ! あの無礼者が……次同じ事をしたらただじゃおかないのじゃ!!」
怒り心頭と言った感じで空中で地団駄を踏んだレイニールは、枕の上に勢い良く飛び降りると、枕をくしゃくしゃにして放り投げた。
星はその様子を見ていて苦笑いを浮かべると、昨日のエルフの男。トールの言っていたことを思い出す。
彼は別れ際に微笑みを浮かべながら「ああ、やりたかったらまた明日もここにおいで、待ってるから」と言っていた。昨日エミルの話を聞いていて、そのことをすっかり忘れていたのだ――。
時間などの指定はなかったものの、少なくとも昨日のあの場所にいけば会えるのは間違いない。
彼のことを考えていたら、また星の頬が熱を帯びる。何故では分からないが、彼のことを考えると心が温まる感じがして、なんとも言えない懐かしさで心がいっぱいになるのだ。
もちろん。彼と以前どこかで会ったことがあるわけではない。しかし、どこか懐かしく心安らぐ感じを星はいつでも彼から受け取っていた。
その感覚は昔からどこかで感じた羨望の感情……。
動き出すのに、それを知りたいと思う心は動機として十分だった。
星は未だに怒りが治まらないのか、布団の上で地団駄を踏み続けているレイニールを尻目に白いモフモフしたパジャマから、いつもの服に袖を通し壁に立て掛けてある剣を取る。
「レイ。ちょっと出掛けてくるね?」
そう告げると、扉の方へと向かって歩き出す。
レイニールは驚き、慌てて星の前に飛び出してそれを阻止した。
「なんで我輩を連れて行かないのじゃ!」
トールに向いていた憤りも相まって、普段以上に凄みを増したレイニールの言葉に、星もただただたじろぎ。
「だって……あの人に会うのが嫌そうだから……」
っと、今にも掻き消えそうな声で伝えた。
レイニールは更に怒りを増して「我輩といつでも一緒に居ると言ったのを忘れたのか!」と憤り、両腕をブンブンっと振って怒りをアピールする。
さすがにこれには対応しなかった星は無言のまま、レイニールを無視して扉へと向かって歩みを進めた。その後をレイニールが「無視するな!」と付いてくる。
扉を開けると、すぐ目の前にはエリエが仁王立ちして立っていた。顔を引き攣らせ作り笑いを浮かべているが、エリエ全体から滲み出る怒りのオーラは隠せはしない。
「……星? いったいどこに行くつもりなの~?」
声は優しいのだが、その目は笑っていない。逆に絶対に行かせないと言わんばかりに星のことを見据えていた。それはまるで、ハンターが獲物を捕らえようとするそれと似ている。
視線を左右に泳がせ、エリエとなるべく視線を合わせないようにして、咄嗟に考えた言い訳を口にする。
「え、えっと……ちょっと、外の空気を吸おうかと……」
「へぇ~。外の空気を……ねぇ~」
俯き加減にもじもじしながら告げる星を見て、エリエは徐に窓際に進むと、勢い良く窓を開く。
直後。窓に掛かるカーテンが揺らぎ、部屋の中に柔らかな風が入ってくる。
このエリエの行動に驚いたのか、星は目を見開いて窓の方を向いて呆然とその場に立ち尽くしていた。そんな星の方に振り返ると「これで解決ね!」とにっこりと微笑んだ。
考えられないほどのその手際の良さに、驚くばかりだ――普段なら「そう? すぐ戻って来なさいよ~」くらいで許可してくれそうなものだが、今日の彼女は一味違う。
まあ、エミルに「星ちゃんを絶対に外に出さないように!」と釘を刺されたのだろう。
星は知らないが、今星達が置かれている状況は最悪だ――街の20km。周囲を30万のモンスターに囲まれており。その中に取り残されているのは2万人で、マスターに賛同しているギルドは、小規模なところも合わせて6つ……正直。このまま戦えば、容易に敵の勢いに負けて全滅に追いやられるのは必至。そのモンスターの大群に事もあろうか、マスターは今晩、先制攻撃を仕掛けるというのだ――こんな特攻とも取られそうな作戦が成功する確率は低い。その為、賛同者は少ないと予想される。
のっそりと重い体を起こし、壁に立て掛けてある剣を見て不安そうな表情を浮かべると胸に手を当てた。
昨晩のこともあって、どうも心がざわついて落ち着かない。マスターの作戦を知らない星は戦いまで、まだ後1日あると信じて疑わなかった。
「あと1日……その前に自分にできること……」
小さく呟き考え込んでいると、そこに枕元で寝ていたレイニールが飛んできた。
大きくあくびをして、ふわふわと上下にフラつきながら星の顔の前にやってくる。
「なにを考えておるのじゃ? それより、今日はあの無礼者の所には行かんのか?」
「無礼者……?」
星が首を傾げて聞き返すと、今まで眠そうにしていたレイニールの目が見開く。
「あの我輩の尻尾を掴んだ奴じゃ! あの無礼者が……次同じ事をしたらただじゃおかないのじゃ!!」
怒り心頭と言った感じで空中で地団駄を踏んだレイニールは、枕の上に勢い良く飛び降りると、枕をくしゃくしゃにして放り投げた。
星はその様子を見ていて苦笑いを浮かべると、昨日のエルフの男。トールの言っていたことを思い出す。
彼は別れ際に微笑みを浮かべながら「ああ、やりたかったらまた明日もここにおいで、待ってるから」と言っていた。昨日エミルの話を聞いていて、そのことをすっかり忘れていたのだ――。
時間などの指定はなかったものの、少なくとも昨日のあの場所にいけば会えるのは間違いない。
彼のことを考えていたら、また星の頬が熱を帯びる。何故では分からないが、彼のことを考えると心が温まる感じがして、なんとも言えない懐かしさで心がいっぱいになるのだ。
もちろん。彼と以前どこかで会ったことがあるわけではない。しかし、どこか懐かしく心安らぐ感じを星はいつでも彼から受け取っていた。
その感覚は昔からどこかで感じた羨望の感情……。
動き出すのに、それを知りたいと思う心は動機として十分だった。
星は未だに怒りが治まらないのか、布団の上で地団駄を踏み続けているレイニールを尻目に白いモフモフしたパジャマから、いつもの服に袖を通し壁に立て掛けてある剣を取る。
「レイ。ちょっと出掛けてくるね?」
そう告げると、扉の方へと向かって歩き出す。
レイニールは驚き、慌てて星の前に飛び出してそれを阻止した。
「なんで我輩を連れて行かないのじゃ!」
トールに向いていた憤りも相まって、普段以上に凄みを増したレイニールの言葉に、星もただただたじろぎ。
「だって……あの人に会うのが嫌そうだから……」
っと、今にも掻き消えそうな声で伝えた。
レイニールは更に怒りを増して「我輩といつでも一緒に居ると言ったのを忘れたのか!」と憤り、両腕をブンブンっと振って怒りをアピールする。
さすがにこれには対応しなかった星は無言のまま、レイニールを無視して扉へと向かって歩みを進めた。その後をレイニールが「無視するな!」と付いてくる。
扉を開けると、すぐ目の前にはエリエが仁王立ちして立っていた。顔を引き攣らせ作り笑いを浮かべているが、エリエ全体から滲み出る怒りのオーラは隠せはしない。
「……星? いったいどこに行くつもりなの~?」
声は優しいのだが、その目は笑っていない。逆に絶対に行かせないと言わんばかりに星のことを見据えていた。それはまるで、ハンターが獲物を捕らえようとするそれと似ている。
視線を左右に泳がせ、エリエとなるべく視線を合わせないようにして、咄嗟に考えた言い訳を口にする。
「え、えっと……ちょっと、外の空気を吸おうかと……」
「へぇ~。外の空気を……ねぇ~」
俯き加減にもじもじしながら告げる星を見て、エリエは徐に窓際に進むと、勢い良く窓を開く。
直後。窓に掛かるカーテンが揺らぎ、部屋の中に柔らかな風が入ってくる。
このエリエの行動に驚いたのか、星は目を見開いて窓の方を向いて呆然とその場に立ち尽くしていた。そんな星の方に振り返ると「これで解決ね!」とにっこりと微笑んだ。
考えられないほどのその手際の良さに、驚くばかりだ――普段なら「そう? すぐ戻って来なさいよ~」くらいで許可してくれそうなものだが、今日の彼女は一味違う。
まあ、エミルに「星ちゃんを絶対に外に出さないように!」と釘を刺されたのだろう。
星は知らないが、今星達が置かれている状況は最悪だ――街の20km。周囲を30万のモンスターに囲まれており。その中に取り残されているのは2万人で、マスターに賛同しているギルドは、小規模なところも合わせて6つ……正直。このまま戦えば、容易に敵の勢いに負けて全滅に追いやられるのは必至。そのモンスターの大群に事もあろうか、マスターは今晩、先制攻撃を仕掛けるというのだ――こんな特攻とも取られそうな作戦が成功する確率は低い。その為、賛同者は少ないと予想される。
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