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エルフの男と触手の大樹8
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エルフの男はそれを見届けると「ふぅー」と大きく息を吐き出し、地面に刺さっていた星のエクスカリバーの前に行き、地面に突き刺さったままの黄金の剣の柄に手を伸ばす。
「だが、本来ならここにアブソーブツリーは生息してないはずなんだけど……やはりモンスターの出現場所が変わっているのか……」
そうブツブツ呟く彼の手がエクスカリバーに触れる瞬間。
『【警告】この装備は特定の人物のみに使用権が与えられています。また、使用者が死亡した場合にはそのプレイヤーに害を為したと思われる人物全てのキャラデーターを削除します。』
目の前に表示された警告のメッセージを見て、エルフの男は剣の柄に触れようとしていた手を引っ込めた。
本能的にこの武器に触れるのを避けたのだろう。そしてレイニールの方に向かって呼んだ。
「君のご主人様の剣を取りに来てくれないか? どうやら僕には触れないらしい」
レイニールは警戒しながらエルフの男にゆっくりと近付くと、地面に刺さっているエクスカリバーを抜く。
その後、エクスカリバーを両手でぶら下げて翼をいつも以上に羽ばたかせつつ、時折振り返りながら星の元へと戻っていった。
すると、今まで気を失っていた星が目を覚まして、ゆっくりと体を起こした。
目を擦ると周りを一度見渡して、不思議そうに首を傾げる。
それもそうだろう。星が気を失う前は落下していて、イソギンチャクの様な木の化け物に食べられたはずなのだ。
しかし、今の自分がいるのは化け物の腹の中ではなく。紛れもなく地面の上だった。
気を失っていた間の記憶が曖昧で『また自分の体が、別の何者かに体を乗っ取られたのではないか?』という考えまで浮かんでくる。
手の平に視線を落としながら、心ここにあらずという様子で居る星の目の前に、剣をぶら下げたレイニールが飛び込んできた。
レイニールは首を傾げながら、不思議そうに星の顔を覗き込む。
「――大丈夫か? 主。体に傷はないか?」
「……傷?」
そうレイニールに言われ、星は体全体を見て傷がないかを確認すると「うん。大丈夫」と頷いてにっこりと微笑んだ。
言葉を聞いたレイニールも満足そうに微笑むと、星にエクスカリバーを手渡す。
星とレイニールのやり取りを見守っていたエルフの男は、2人の会話が終わったのを確認してから、徐に星の方へと向かって歩いてくる。そして、星の前で止まった彼がスッと手を差し伸べた。
「僕はトールだ。よろしく!」
メリハリのある声でそう告げた彼の青い瞳は淀みがなく、とても嘘を付いているようには見えない。
星は彼の手を取って立ち上がると、膝の上に手を合わせて小さく頭を下げた。
「危ない所を助けて頂き。ありがとうございました」
丁寧にお礼を言った星の顔を見て、トールは眉をひそめて変な顔をしていたが、すぐに「君の名前は?」と言葉を返してきた。
「あっ、私の名前は星。そしてこっちがレイです」
「……レイニールじゃ」
そっぽを向きながら、レイニールが不機嫌そうに告げる。まあ、彼とは尻尾を掴まれた最悪の出会い方をしていたのだから無理もないが……。
冷たいレイニールの態度に苦笑いを浮かべつつ、トールが星と視線を合わせるように膝を折って。
「実は僕にも、君と同じくらいの年の従兄弟がいるんだ」
っと微笑んだ。その途端、星は顔を赤らめ思わず下を向く。
なんと言えばいいのか分からないが、鼓動が早くなっている。初対面の男性ということもあって、少し緊張しているのかもしれない。だが、それ以外の感情もどこかにある気がした。懐かしいような、以前の宿屋での事件の時のマントの人物の時と感覚が似ているかもしれない……。
そこにレイニールが心配そうに星の顔を覗き込んで言った。
「どうしたのだ? 主。顔が赤いのじゃ」
「――えっ!? あ、うん。ちょっと暑くて……」
その星の返答に、何故かレイニールが力強く数回頷く。
星がその理由を尋ねるよりも早く、レイニールがその答えを教えてくれる。
「なんと言っても、先程のモンスターは大量の炎で焼き落としたからな~。我輩の炎が、あやつの体を真っ赤に包むところを見せられなくて残念じゃ!」
「そうなの? ありがとうね。レイ」
星が気を失っていたのをいいことに、大きく記憶を改ざんしているのは、レイニールとしては『主は我輩が守った』と言いたかったのだろう。
まあ、以前もさらわれた星を結局は助けられなかった。あの時はライラに助け出されたが、それからの星はいつも何かしらの無理を強いられていることをレイニールは気付いていたのだろう。そして何より、自分が星を助けたかったという思いが強かったのかもしれない。だが、実際には全てトールがやったことなのだが……。
「だが、本来ならここにアブソーブツリーは生息してないはずなんだけど……やはりモンスターの出現場所が変わっているのか……」
そうブツブツ呟く彼の手がエクスカリバーに触れる瞬間。
『【警告】この装備は特定の人物のみに使用権が与えられています。また、使用者が死亡した場合にはそのプレイヤーに害を為したと思われる人物全てのキャラデーターを削除します。』
目の前に表示された警告のメッセージを見て、エルフの男は剣の柄に触れようとしていた手を引っ込めた。
本能的にこの武器に触れるのを避けたのだろう。そしてレイニールの方に向かって呼んだ。
「君のご主人様の剣を取りに来てくれないか? どうやら僕には触れないらしい」
レイニールは警戒しながらエルフの男にゆっくりと近付くと、地面に刺さっているエクスカリバーを抜く。
その後、エクスカリバーを両手でぶら下げて翼をいつも以上に羽ばたかせつつ、時折振り返りながら星の元へと戻っていった。
すると、今まで気を失っていた星が目を覚まして、ゆっくりと体を起こした。
目を擦ると周りを一度見渡して、不思議そうに首を傾げる。
それもそうだろう。星が気を失う前は落下していて、イソギンチャクの様な木の化け物に食べられたはずなのだ。
しかし、今の自分がいるのは化け物の腹の中ではなく。紛れもなく地面の上だった。
気を失っていた間の記憶が曖昧で『また自分の体が、別の何者かに体を乗っ取られたのではないか?』という考えまで浮かんでくる。
手の平に視線を落としながら、心ここにあらずという様子で居る星の目の前に、剣をぶら下げたレイニールが飛び込んできた。
レイニールは首を傾げながら、不思議そうに星の顔を覗き込む。
「――大丈夫か? 主。体に傷はないか?」
「……傷?」
そうレイニールに言われ、星は体全体を見て傷がないかを確認すると「うん。大丈夫」と頷いてにっこりと微笑んだ。
言葉を聞いたレイニールも満足そうに微笑むと、星にエクスカリバーを手渡す。
星とレイニールのやり取りを見守っていたエルフの男は、2人の会話が終わったのを確認してから、徐に星の方へと向かって歩いてくる。そして、星の前で止まった彼がスッと手を差し伸べた。
「僕はトールだ。よろしく!」
メリハリのある声でそう告げた彼の青い瞳は淀みがなく、とても嘘を付いているようには見えない。
星は彼の手を取って立ち上がると、膝の上に手を合わせて小さく頭を下げた。
「危ない所を助けて頂き。ありがとうございました」
丁寧にお礼を言った星の顔を見て、トールは眉をひそめて変な顔をしていたが、すぐに「君の名前は?」と言葉を返してきた。
「あっ、私の名前は星。そしてこっちがレイです」
「……レイニールじゃ」
そっぽを向きながら、レイニールが不機嫌そうに告げる。まあ、彼とは尻尾を掴まれた最悪の出会い方をしていたのだから無理もないが……。
冷たいレイニールの態度に苦笑いを浮かべつつ、トールが星と視線を合わせるように膝を折って。
「実は僕にも、君と同じくらいの年の従兄弟がいるんだ」
っと微笑んだ。その途端、星は顔を赤らめ思わず下を向く。
なんと言えばいいのか分からないが、鼓動が早くなっている。初対面の男性ということもあって、少し緊張しているのかもしれない。だが、それ以外の感情もどこかにある気がした。懐かしいような、以前の宿屋での事件の時のマントの人物の時と感覚が似ているかもしれない……。
そこにレイニールが心配そうに星の顔を覗き込んで言った。
「どうしたのだ? 主。顔が赤いのじゃ」
「――えっ!? あ、うん。ちょっと暑くて……」
その星の返答に、何故かレイニールが力強く数回頷く。
星がその理由を尋ねるよりも早く、レイニールがその答えを教えてくれる。
「なんと言っても、先程のモンスターは大量の炎で焼き落としたからな~。我輩の炎が、あやつの体を真っ赤に包むところを見せられなくて残念じゃ!」
「そうなの? ありがとうね。レイ」
星が気を失っていたのをいいことに、大きく記憶を改ざんしているのは、レイニールとしては『主は我輩が守った』と言いたかったのだろう。
まあ、以前もさらわれた星を結局は助けられなかった。あの時はライラに助け出されたが、それからの星はいつも何かしらの無理を強いられていることをレイニールは気付いていたのだろう。そして何より、自分が星を助けたかったという思いが強かったのかもしれない。だが、実際には全てトールがやったことなのだが……。
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