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エルフの男と触手の大樹6
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だが、レイニールの熱意とは裏腹に、星の体に巻き付いていた木の根は更に強く締まり、一向に緩む気配すら見せない。その様子に痺れを切らしたレイニールが一度木の根から手を放し、空中でパタパタと翼をはためかせ叫んだ。
「この! こんなもの我輩の炎で焼き払ってやるのじゃ!!」
口いっぱいに炎を溜め込み火炎放射を放つ準備に入ったその時。突然、森の中から男性の声が響く。
「――炎を使っちゃダメだ! 君達も丸焦げになるぞ!!」
どこからともなく聞こえてきたその声に、レイニールが「誰じゃ!」と言葉を返す。
だが、次に返ってきたのは返事ではなく2本の矢だった。
風を切り裂き一直線に飛んで来たその矢は、的確に星の足に巻き付いていた木の根に突き刺さり、次の瞬間には小さな爆発音とともに木の根を吹き飛ばす。
星とレイニールがそれに驚いていると、再び飛んで来た矢が今度は星の右手と左手の木の根を吹き飛ばし、支えをなくした星の体は重力に従い落下した。
落下していく先には、赤紫色の触手達が伸びて待ち構えている。
急速に落下する星を追いかけるが、星の落ちる速度には不意を突かれたレイニールも追いつかない。
「――きゃあああああああああああッ!!」
「くッ! 早くて追いつかないのじゃ!」
落ちる星を猛追するレイニールの前を何かが横切った。
っと気が付くと、目の前を降下していたはずの星の姿がなくなっていた。
直後。レイニールの視界が天と地が入れ変わった状態になる。また、尻尾の方が物凄く痛い。
今まで星を追って下を見ていたはずなのだが、今は天地が反転した様に空を見ていたレイニールの視線が、今度は逆さに立っているようにと、高速で回転しているかの如く一瞬で目まぐるしく変わる。
そこに先程の聞いたことのない男性の声が再び聞こえてきた。
「――間に合って良かったよ」
「誰じゃお前は! 主に気安く触るな!」
「うわっ! な、なんだこれ。ぬいぐるみじゃないのか!?」
突然言葉を発したレイニールに驚きを隠せない表情を見せたエルフの男。
一瞬でエルフと分かったのは、言うまでもなく彼の耳が長く鋭かったからだ。しかも、弓を使うプレイヤーの大半はエルフというのが、フリーダムの通例になっているのも影響していたのかもしれない。
レイニールの視界に逆さまに映るエルフの男の顔は、まるでありえない物を見ているかの様に目を見開いていて、口をあんぐりと開けた間抜けな感じだった。
まあ、彼が驚くのは無理もない。本来はレイニールのような、イレギュラーな存在がこの世界に存在するはずがないのだ――また、フリーダム内でも珍しい子供の星の近くにあったことで完全にぬいぐるみだと勘違いしたのだろう。
でもそんなことよりも……。
「なんで我輩の尻尾を掴んでおるのだ!!」
エルフの男は驚いた様に跳び上がると、レイニールの尻尾を更に強く握る。
「――あんっ! な……なにを……するのじゃ!」
レイニールはブンブンと体を振ると、その反動を利用してエルフの男の腕に噛み付いた。
エルフの男が突然噛み付かれたことに驚き手を放した不意を突き、レイニールは男の手から抜け出ると、パタパタと男の顔の前にいきビシッと指差して告げる。
「良いか! 我輩の尻尾はデリケートなのじゃ! 主を助けてくれたことには礼を言うが、初対面でドラゴンの尻尾を掴むとは無礼だろう!」
目を吊り上げ、鼻息を荒くして激昂するレイニールを見ていたエルフの男の表情が一瞬で険しくなったかと思った直後、尻尾を掴まれて抗議していたレイニールの視界がグルッと回り、再び空を見たまま高速で移動を始めた。
案の定レイニールの尻尾の先に掴まれている感覚と、付け根の部分に引き裂かれるような鋭い痛みが走る。
それもそうだろう。レイニールと会話していた直後、今までは人間の手の部分に相当するであろう木の根の部分を吹き飛ばされて悶絶していたモンスターが正気を取り戻し、地中から新たに現れた木の根で攻撃を仕掛けてきたのだ。
エルフの男は気を失っている星を右腕にしっかりと抱き締めたまま、レイニールの尻尾を強く左手で握り締めていた。
自分を捕らえようと向かってくる木の根を巧みに避けながら、エルフの男は攻撃を避けつつモンスターと距離を取った。
地面という死角から次々に現れる木の根をかわすのはそうたやすいことではなく、彼もレイニールのことまで構っている暇はない。
地底から現れる前進しながら左右に大きく動いてかわしているその間、ぶらんとなされるがままに振られているレイニールの姿を見ていると、どうやらドラゴンは尻尾を掴まれると力が抜ける習性があるようだ――レイニールだけかもしれないが……。
ひとまず、茂みの裏の地面に抱きかかえていた星を下ろした、エルフの男はレイニールの尻尾から手を放す。
「この! こんなもの我輩の炎で焼き払ってやるのじゃ!!」
口いっぱいに炎を溜め込み火炎放射を放つ準備に入ったその時。突然、森の中から男性の声が響く。
「――炎を使っちゃダメだ! 君達も丸焦げになるぞ!!」
どこからともなく聞こえてきたその声に、レイニールが「誰じゃ!」と言葉を返す。
だが、次に返ってきたのは返事ではなく2本の矢だった。
風を切り裂き一直線に飛んで来たその矢は、的確に星の足に巻き付いていた木の根に突き刺さり、次の瞬間には小さな爆発音とともに木の根を吹き飛ばす。
星とレイニールがそれに驚いていると、再び飛んで来た矢が今度は星の右手と左手の木の根を吹き飛ばし、支えをなくした星の体は重力に従い落下した。
落下していく先には、赤紫色の触手達が伸びて待ち構えている。
急速に落下する星を追いかけるが、星の落ちる速度には不意を突かれたレイニールも追いつかない。
「――きゃあああああああああああッ!!」
「くッ! 早くて追いつかないのじゃ!」
落ちる星を猛追するレイニールの前を何かが横切った。
っと気が付くと、目の前を降下していたはずの星の姿がなくなっていた。
直後。レイニールの視界が天と地が入れ変わった状態になる。また、尻尾の方が物凄く痛い。
今まで星を追って下を見ていたはずなのだが、今は天地が反転した様に空を見ていたレイニールの視線が、今度は逆さに立っているようにと、高速で回転しているかの如く一瞬で目まぐるしく変わる。
そこに先程の聞いたことのない男性の声が再び聞こえてきた。
「――間に合って良かったよ」
「誰じゃお前は! 主に気安く触るな!」
「うわっ! な、なんだこれ。ぬいぐるみじゃないのか!?」
突然言葉を発したレイニールに驚きを隠せない表情を見せたエルフの男。
一瞬でエルフと分かったのは、言うまでもなく彼の耳が長く鋭かったからだ。しかも、弓を使うプレイヤーの大半はエルフというのが、フリーダムの通例になっているのも影響していたのかもしれない。
レイニールの視界に逆さまに映るエルフの男の顔は、まるでありえない物を見ているかの様に目を見開いていて、口をあんぐりと開けた間抜けな感じだった。
まあ、彼が驚くのは無理もない。本来はレイニールのような、イレギュラーな存在がこの世界に存在するはずがないのだ――また、フリーダム内でも珍しい子供の星の近くにあったことで完全にぬいぐるみだと勘違いしたのだろう。
でもそんなことよりも……。
「なんで我輩の尻尾を掴んでおるのだ!!」
エルフの男は驚いた様に跳び上がると、レイニールの尻尾を更に強く握る。
「――あんっ! な……なにを……するのじゃ!」
レイニールはブンブンと体を振ると、その反動を利用してエルフの男の腕に噛み付いた。
エルフの男が突然噛み付かれたことに驚き手を放した不意を突き、レイニールは男の手から抜け出ると、パタパタと男の顔の前にいきビシッと指差して告げる。
「良いか! 我輩の尻尾はデリケートなのじゃ! 主を助けてくれたことには礼を言うが、初対面でドラゴンの尻尾を掴むとは無礼だろう!」
目を吊り上げ、鼻息を荒くして激昂するレイニールを見ていたエルフの男の表情が一瞬で険しくなったかと思った直後、尻尾を掴まれて抗議していたレイニールの視界がグルッと回り、再び空を見たまま高速で移動を始めた。
案の定レイニールの尻尾の先に掴まれている感覚と、付け根の部分に引き裂かれるような鋭い痛みが走る。
それもそうだろう。レイニールと会話していた直後、今までは人間の手の部分に相当するであろう木の根の部分を吹き飛ばされて悶絶していたモンスターが正気を取り戻し、地中から新たに現れた木の根で攻撃を仕掛けてきたのだ。
エルフの男は気を失っている星を右腕にしっかりと抱き締めたまま、レイニールの尻尾を強く左手で握り締めていた。
自分を捕らえようと向かってくる木の根を巧みに避けながら、エルフの男は攻撃を避けつつモンスターと距離を取った。
地面という死角から次々に現れる木の根をかわすのはそうたやすいことではなく、彼もレイニールのことまで構っている暇はない。
地底から現れる前進しながら左右に大きく動いてかわしているその間、ぶらんとなされるがままに振られているレイニールの姿を見ていると、どうやらドラゴンは尻尾を掴まれると力が抜ける習性があるようだ――レイニールだけかもしれないが……。
ひとまず、茂みの裏の地面に抱きかかえていた星を下ろした、エルフの男はレイニールの尻尾から手を放す。
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