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エルフの男と触手の大樹2

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 星はレイニールを刺激しないように、出来る限り優しく語りかける様に告げる。

「確かに『ソードマスターオーバーレイ』を使えば、安全に戦えるかもしれない。でも……あれは周りの人もかかっちゃうから、できるだけ使いたくないの」
「うーむー」

 レイニールは考え込む様に腕を組むと、難しい顔でうなりが首を捻っている。

 その様子を見つめながら、星は次に何を言おうかとレイニールに悟られない様に考えていた。するとレイニールが何かを思いついたのか、組んでいた腕を外してポンっと手の平を叩く。

「そうじゃ! なら、こういうのはどうじゃ?」
「……な、なに?」

 レイニールの突然の思い付きに嫌な予感がしながらも、星が聞き返す。

 不安そうな表情をしている星に、レイニールが胸を張っているのがそれが星の不安を更に煽る。次の言葉を固唾を呑んで見守ると、レイニールが大きく息を吸い込んで徐に告げた。

「これからは我輩を置いていくのは禁止じゃ! 起きてる時は勿論、寝る時もお風呂に入る時も一緒に居るのじゃ!」
「……ん?」
(そんなのいつもだと思うけど……)

 首を傾げながらそう考えている星に、レイニールが更に言葉を続けた。

「主は無理をしすぎるのじゃ! 我輩がいつでも着いていないと何をするか分からん! スキルを使えない時は我輩が代わりに戦うのじゃ! それなら主の悩みは解決だろう? ついでに、お菓子やご飯のおかずもくれたっていいのだ!」

 そう言い放つと、レイニールは腕を組んで仕切りに頷く。その様子を見ていた星はほっとしたのか、思わず笑いが込み上げてくる。
 正直。いつもと何ら変わらない条件を提案したレイニールの、ちゃっかりお菓子とおかずを要求する辺りが星にとってはツボにハマったのかもしれない。

 突然笑い始めた星を見て、レイニールは不満そうにそっぽを向いた。
 しかし、星が考えていることなどレイニールが知る由もない。笑われてご機嫌斜めになったレイニールはツンとした態度で星から目を逸している。

 星はそんなレイニールを見て微笑みを浮かべると、剣を腰に差してドアに向かって歩き始めた。
 それを見たレイニールは慌てて星の後ろを、近付き過ぎず離れ過ぎずの絶妙な間隔で付いてくる。

 物音が一切ないリビングの様子を窺いながらにそーっと出ると、エリエもミレイニもソファーで寝ていた。
 寝ている2人の側までレイニールが飛んでいくと、彼女達が寝ているのを確認して星の方に戻ってきた。だが、まだ不機嫌なのかそっぽを向いたまま星に告げる。

「あの様子なら当分は起きんだろう。行くなら今がチャンスじゃ、主」
「――うん。でもちょっとだけ待ってて……」

 そう言って、星はキッチンの方に行くとボードを持って帰ってくる。

 それは普段イシェルが料理の調味料なんかを書いているものだった。本来ならば数分でできる料理を、彼女は相当なことがない限りは一から調理していて、毎回調味料をどのくらい使ったのかをちくいち書き記していた。

 星はそのボードに徐にペンを走らせた――全てを書き終えた星はレイニールに向かってにっこりと微笑むと「さあ、行こっか! レイ」と告げる。

 レイニールは頷くと、嬉しそうに微笑み星の頭にちょこんと乗った。

 星はそんなレイニールの顔を見上げると、レイニールは慌ててそっぽを向く。どうやら、まだ機嫌を直したわけではないらしいが。だが星には、レイニールの考えていることが分かる気がした。       

 城から出た星は森の中を進んで行き、ちょっと開けた場所に出るとぎこちない手付きで腰に差した剣を抜く。 
 それを上段に構え、勢い良く振り下ろす。ヒュンという風切音の後にもう一度同じことを繰り返すと、星は何を思ったのか眉をひそめ首を傾げる。

 持っていた剣を鞘に戻し、徐に星はコマンドを指で操作する。すると次の瞬間。腰に差していた剣が消え、代わりに練習用にエミルに渡された木の剣が現れた。

 星はその剣を掴むと「よし」と小さく呟き、再び素振りを始めた。

 おそらく。刃の付いた剣を振り回していると危ないと感じたのだろう。しかし、辺りには自分の他にレイニールしかおらず、そのレイニールも木の上で昼寝をしており。気にしすぎと言えばそうなのだろうが、星の性格上。そういうのにも気を配ってしまうのだろう。    

 だが、木の上で寝ているレイニールが突然降りて来て、自ら剣に当たるとは考えられないが……。

 それからは、汗が流れるのも構わず。星はただただ一心不乱に練習用の木の剣を振り続けていた。
 今回は以前のような丸太という攻撃する目標もない。星は頭の中で架空の敵を想定しながらそれを斬り付けていく。

 良くプロの格闘家やスポーツ選手は、インスピレーションに自分が勝利するイメージを思い浮かべながら行うという。星が今やっているのもそれだ――だが、それは普段から己に自信のない彼女にとって最もいい練習方法なのかもしれない。
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