オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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星とミレイニの真剣勝負3

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 この時点ですでに泣きそうになっているミレイニを見ていて、星は何かを思いついたようにポンと手の平を叩く。すると、ミレイニは警戒した様子で「何させるつもりだし……」と星への不信感から目を細めている。

「なんでもいいって言うなら、私と仲良くしてください」   
「……は? そんなのでいいし?」

 星の放った一言に、驚きを隠せないと言った表情を見せているミレイニ。

 まあ、星にとってはこの場を収めるにはそれが一番だろうと考えた結果の言動なのだろう。彼女としては、トランプを他の人とできて楽しかったというだけで良かったのかもしれない。    
 
 がっしりと星とミレイニが手を握り締めているのを見て、エリエが呆れ顔で独り言のように呟く。

「……全く。欲がないというか……まあ、その方が星らしいけどね」

 温かい目で彼女達を見守っていたエリエが、思い出したように2人に向かって声を掛ける。

「頭を使って疲れたでしょ。おやつに私がケーキを作ってあげる!」
「本当ですか!?」
「やったし! あたしショートケーキがいいし!」

 嬉しそうに両手を挙げているミレイニに、エリエが少し呆れ顔でため息を漏らす。

「はぁ~、いいけど。そのかわり、あんたもちゃんと手伝いなさいよ?」
「分かってるし!」
「あっ、私もやります! レイ!」

 星は未だにソファーの近くで、ギルガメシュといがみ合いを続けているレイニールを呼ぶ。
 その声に反応したレイニールは「後でしっかり決着をつけるのだ!」と、ギルガメシュに向かって宣戦布告とも言える言葉を投げつけて目の前のイタチに対してビシッと指差す。

 ギルガメシュの言葉は分からないものの、互いに譲れないものがあるのだろう。そういえば、この2匹は以前にも技をぶつけ合っていた。

 その時はおやつを何にするかという単純でくだらない内容だったが、元々この二匹は相容れないのかもしれない。
 ギルガメシュもその言葉を聞いて「キュ! キュキュ!」と両手をブンブンと上下に振りながら鳴くと、ミレイニの方へと駆けていった。

 翼を羽ばたかせ星の肩に舞い降りたレイニールは、明らかに不機嫌そうに目を吊り上げている。
 それはギルガメシュの方も同じで、ミレイニの元に着いた直後、ミレイニの首に巻き付いた。だが、互いに鋭い睨み合い激しい視線を飛ばす。

 それから1時間近く経って、ようやくミレイニが要望したショートケーキが完成した。
 本来ならばもっと1時間程度で完成できるものではないのだが、途中の焼く工程などは数分もあればできるので、これだけ早く作れるのだ。

 ミレイニは出来立てほやほやのホールケーキを持ってテーブルに向かう。
 その後を星も続いて席に着くと、そこにエリエがティーセットを持ってやって来た。

 ティーセットに紅茶を入れ、胸を張って鼻高々のエリエは自慢げに言い放つ。

「レシピ経由で作ったんじゃないから、味は確かなはずよ! お菓子作りに関しては私は手を抜かないからね!」

 誇らしげに胸を叩くエリエに、星は苦笑いを浮かべていた。
 まあ、以前食べたエリエの甘ったるいスープなどもそうだが、エリエの味覚は若干というか、かなり変わっている。

 お菓子は絶品に美味しいのだが、それ以外の料理が全滅というのは普通に珍しいと言わざるを得ないだろう。
 ふと見ると、ミレイニが上機嫌でケーキを切り分けている。しかし、明らかに1つだけ大きく切り分けられた物がある。

 いや、大きいと言うより、真っ二つにしたホールケーキの半分をただ切り分けた感じだ。
 星がその行末を見守っていると、ミレイニが自分の前に置いている。やはり、あの大きなケーキは自分の分だったらしい……。

 すると、その一部始終を見ていたエリエのチョップがミレイニの頭上に炸裂し、両手でミレイニが頭を押さえた。

「いった~。なにするし!」
「「なにするし!」じゃない! あんたはまた目を離すとそんな事ばかりして! 皆で食べるんだから均等に分けなさい!」

 怒って声を荒らげるエリエに、ミレイニは口を尖らせながら小声で言い返す。

「均等だし~。エリエの目が悪くなっただけだし~」

 だが、そんな独り言の様な言い訳をエリエが聞き逃すはずもなく。エリエの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
 それをひやひやしながら星が見守っていると、やはり思っていた通り。怒ったエリエが、ミレイニの前に置いてあるケーキを素早く取り返した。

 ミレイニは慌てて奪い取られたケーキを取り返そうと手を伸ばすが、何度伸ばしても素早くケーキを移動され、皿にすら指一つ触れられない。

 だが、星はその一部始終を見ながら『どうして、残っているケーキの方にいかないんだろう』と思っていた。
 しかし、ミレイニには目の前のケーキしか見えてないのか、それとも譲れない何かがあるのかは分からないが、エリエが両手を上げて掲げているケーキを、ミレイニがエリエの周りをぴょんぴょんと跳び回り、必死に何とかそのケーキを取ろうと頑張っていた。
  
 ぼーっと2人のやり取りを見ていると、肩に乗っていたレイニールが星の頬をつんつんと突く。

「主。あの2人は何をしているのだ? まだケーキを食べないのか? もうはらぺこなのじゃ」
「うーん。でも……」

 だが、そのレイニールの言葉に、困ったように眉を寄せている。それもそうだろう。エリエとミレイニのケーキ争奪戦は未だに、終止符を打つ気配すらない。
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