オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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未知なる力の解放5

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 しかし、男の方はそれを口にするどころか、腕組みしたままそっぽを向いた。

「ふんっ! こんな得体も知れない奴等の作った物など食えるか! 俺様を誰だと思ってやがるんだ! テスターだぞ! テ・ス・タァ! 日本には4人しかいない存在の俺様が庶民の口にする物など食えるかよ!」
「もう。お兄ちゃん! またそんな事言って……ダメでしょ? 失礼だよ!」

 偉ぶる兄を妹がたしなめている。

 エミルはそれを見て、この兄妹はこの関係が最も自然体なのだろうっと悟った。

 エミルにも妹がいたが、こんな微笑ましいと思える喧嘩をしていた記憶は全くなく、言い合いと言えるようないざこざもなかった。それが彼女には、喧嘩する2人が少し羨ましく映っていたのかもしれない。

 何気なく少女にエミルが話し掛ける。

「あの、貴女方もマスターの仲間の方ですか?」
「えっ? あ、はい! でも、私じゃなくてお兄ちゃんが。ですけど……」

 予想通りというか、予想以上に気さくに言葉を返してくれた彼女に、緊張が取れたエミルがスッと自分の手を差し出した。

 少女は一瞬きょとんとした表情をしたものの、慌ててその手を掴む。

「私はエミル。よろしくね!」

 にっこりと笑うと、少し表情が硬かった彼女も笑顔を見せ。
 
「あっ、はい! 私はフィリスです。お兄ちゃんはバロンです。よろしくお願いします!」
「おい! どうして俺様の紹介をしてるんだ妹よ!」

 彼は自己紹介などする気がなかったのだろう。突如自分の紹介もされたことにうろたえている。

 そんな兄に向かって、フィリスが強めの口調で言った。

「だってお兄ちゃんはこうでもないと、誰とも仲良くなれないでしょ!」
「だから、俺様は誰とも――」

 そう口を開こうとしたバロンを放置して、フィリスはエミルににっこりと微笑み掛け。

「あんな事言ってますが、兄とも仲良くして下さいね!」

 っと、エミルの手を両手で包み込むようにしてぎゅっと力を込めて握り返した。

 熱い視線を向ける彼女に、エミルも軽く微笑み返す。
 すると、エミルの視界に、突如として何者からのメッセージが表示された。

 それは他の皆も同じなようで、その場に居た全員が一斉に指を動かしている。
 エミルも視界に映し出されたメッセージを指で押すと、目の前に大きくウィンドウが開く。

【今晩8時、各街の広場のモニターにて重大発表がございます。どなたも、この放送をお聴き逃しのないようお願いします。】

 表示を見たエミルは、その不可解な文章に首を傾げていた。
 それもそのはずだ。このメッセージを送ってきたのはVRMMORPG【FREEDOM】の運営ではない。

 運営ならば、まずは今回のログアウトできなくなった事件に対してのお詫びの文面が添えられていなければおかしい。
 しかし、この文面にはそのような内容のことは、一文字たりとも書かれていない。また、このタイミングで運営を装ってこのメッセージがくるというのは不自然だ。

 そうなると、今回の村正事件を起こしたのは彼ではないのか?っという疑問が生まれる……いや、まだ彼と断定するのも早急過ぎるだろう。
 それはこの規模の事件を起こせるシルバーウルフは、彼1人と断定するのは難しいからだ――何故なら、彼はいつでも覆面を被っている為、その素顔は誰も見ていない。

 そうなると、覆面だけ使い回して他の人物と入れ替わっているという可能性もある。
 モニター越しに映る彼は痩せ型ではあるが、一般的にどこにでも居そうな体型をしていたし、音声もこのデータの世界ではいくらでも改変できる。

 っとなれば、狼の覆面を使い回せば背格好の似た者なら誰でも彼に成り済ませるということでもあるのだ。
 いや、そうでなくてもデータとして表示するだけならば、わざわざ人が変わらなくても架空の人物をでっち上げることなど造作もないだろう。

 そう考えると、今までの問題の規模と迅速な対応をふまえて、彼は単独犯ではなく複数犯の可能性の方が高いと言ってもいい。
 そうなると『今回の事件は彼ではない他の者の偽装工作なのか?』エミルがそんなことを考えていると、横に居たイシェルが不思議そうな顔でエミルを覗き込んできた。

「どないしたん? 上の空で」
「えっ? ああ、ちょっと考え事をね……それより、何か大事な話をしていた?」

 何やら会話をしているマスターとメルディウスの姿が目に入り、エミルがイシェルに尋ねる。

 すると、イシェルはにこっと微笑み返してその言葉に答えた。

「大丈夫やよ。ただ、重大発表の前にしっかり準備を整えておこうって話をしてただけやよ」
「なるほど……そうね。昨晩は突然だったから何もできなかったものね。やっぱり備品を少し多めに持っていかないと、私達の回復分だけじゃ不十分だものね」
「そうなん? 言うてくれれば持って行ったんやけど……」

 不満そうな表情をしているイシェル。
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