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未知なる力の解放4
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その曇りのないレイニールの声に、エミルも苦笑いを浮かべて続けて「全部って?」と聞く。自信満々にレイニールは胸を張ると、じっと自分の方を見つめているエミルに堂々と言い放つ。
「主は我輩を外の世界に連れ出してくれた張本人だ。それに優しいし、どんな時でも自分より他人を気にかけ、いつでも人の為に一生懸命なのじゃ! さっきだって人を助ける為に飛び降りるなんて、そうそう真似できる事ではないぞ? 我輩は、主が我輩の主なのを誇りに思っているのじゃ!」
「――誇りか……そうね。その言葉を星ちゃんにも聞かせてあげたかったわね」
そう呟くと、エミルは寝ている星の頭を優しく撫でた。
すると、突然レイニールがパタパタと翼をはためかせ空中に浮き上がり、険しい表情で遠くの方を見つめた。
不思議に思ったエミルもレイニールの見ている方向を見るが、そこには見渡す限り雲海が見えるだけで他には何も見えない。
「どうしたの?」
「…………いや、なんでもないのじゃ」
レイニールのいつになく暗い声にエミルが首を傾げていると自分の城が目に入り、リントヴルムに地上に降りるように指示を出す。
地上に降り立ったリントヴルムを消すと、エミルは星を抱きかかえたまま部屋に戻った。
部屋に戻ったエミルは星を寝室に運ぶと、リビングへと向かう。
リビングでは、椅子に座ったエリエが申し訳なさそうに俯きながら、肩身が狭い思いをしながらココアを飲んでいた。
その隣に座っていたミレイニは、何食わぬ顔でカステラを摘んでいる。
すでに先程まで食べ過ぎて倒れていたことなんて、綺麗さっぱり忘れているような晴れ晴れとした表情で、彼女は口の中いっぱいにカステラを頬張っていた。
エミルはエリエの向かい側に座ると、微笑みながらイシェルがお茶の入った湯呑みを目の前に置く。
その湯呑みのお茶を口に運ぶと、再び湯呑みをテーブルに置いて小さくため息を漏らす。
エミルの顔色を窺うように、エリエが数回チラッと見て口を開いた。
「あの……い、いやぁ~、大変だったみたいだね。エミル姉」
「…………」
バツが悪そうに頭を掻きながらエリエがそう告げると、無言のままエミルは鋭い視線をエリエに向けた。
エリエはビクッと体を震わせると、慌ててエミルから視線を逸らす。
「全く、エリー。お菓子を食べるのはいいけど、動けなくなるくらい食べるなんて!」
「――ひっ! ご、ごめんなさい!」
急に大きな声を出されて驚いたエリエが頭を押さえて咄嗟に謝る。
その横でミレイニが口の中に含んでいたカステラを飲み込んで、落ち着いた様子でビクついているエリエに言い放つ。
「本当にエリエは仕方ないし……そんなんじゃ、一緒にいるあたしまで恥ずかしいから止めてほしいし」
呆れながらそう言い終えて、ミレイニが次のカステラに手を伸ばそうとしたその時、その手をエリエの腕ががっしりと捕まえた。
「……なんですって~!! 元はと言えば、あんたがどっちが多く食べれるか競おうって言ったのが原因でしょうが!!」
怒り狂ったエリエは隣に座っているミレイニの手を引っ張ると、強引に自分の方に引き寄せて自分の前に持ってくると素早く両手で彼女の頬をつねりながら引っ張った。
「いはいひ~。いいはありだひ~」
「なにが言い掛かりですって~。このこの~」
ミレイニの両頬を思い切り引っ張っているエリエを見て、エミルは呆れ顔で大きなため息をつく。
その横でイシェルが「本当に元気な子達やねぇ~」と楽しそうな微笑みを浮かべていた。
それから数時間が経過し、太陽が真上に到達した頃。
精も根も尽き果てて疲れきった表情で、マスターとカレンが部屋に戻ってくる。
少し遅れるようにしてメルディウスと小虎。そしてエミルが街で見た全身に黒い鎧を身にまとった青年とその後ろから少女が入って来た。
エミルはリビングに招き入れると、彼等の労をねぎらう為、お茶とお菓子を振る舞う。まあ、それをせっせと作っているのはエリエなのだが……。
テーブルに置かれた緑茶とカステラを前にして、マスターはそれに手を付けることもなく、何か考え事をしているのか静かに腕を組んだまま瞼を閉じている。
師匠が手を付けないのに自分が食べるわけにはいかないと、マスターの姿を見守っているカレンもお茶だけに口を付けて目の前に置かれたカステラにはいっさい手を付けようとしない。
だが、時折生唾を呑み込んでいるところを見ると、カレンとしては食べたいという食欲を理性で我慢しているのだろう。無理もない。事件発生からずっと動きっぱなしで、空腹のゲージは相当減っているはずだ。
それとは対称的に、メルディウスは欲望のままにカステラをバクバクと食べ進め。
「おう! これは美味いぞ! シェフを呼べ!」
「……ちょ、止めてよ。人の家だよ兄貴」
大声でそう叫ぶ横で、小虎が恥ずかしそうにしている。
まあ、これが名を轟かせている大規模なギルドのギルドマスターだとは、言われても誰も信じてはくれないだろう。更にその隣の黒い鎧を着た男性と身軽な革鎧の少女はというと……。
「なにこれ! お店で売ってるのより美味しい! ほら、美味しいよお兄ちゃん!」
少女の方がカステラをフォークで刺し、兄と呼ぶ黒い鎧を着た男の顔に近付けた。
「主は我輩を外の世界に連れ出してくれた張本人だ。それに優しいし、どんな時でも自分より他人を気にかけ、いつでも人の為に一生懸命なのじゃ! さっきだって人を助ける為に飛び降りるなんて、そうそう真似できる事ではないぞ? 我輩は、主が我輩の主なのを誇りに思っているのじゃ!」
「――誇りか……そうね。その言葉を星ちゃんにも聞かせてあげたかったわね」
そう呟くと、エミルは寝ている星の頭を優しく撫でた。
すると、突然レイニールがパタパタと翼をはためかせ空中に浮き上がり、険しい表情で遠くの方を見つめた。
不思議に思ったエミルもレイニールの見ている方向を見るが、そこには見渡す限り雲海が見えるだけで他には何も見えない。
「どうしたの?」
「…………いや、なんでもないのじゃ」
レイニールのいつになく暗い声にエミルが首を傾げていると自分の城が目に入り、リントヴルムに地上に降りるように指示を出す。
地上に降り立ったリントヴルムを消すと、エミルは星を抱きかかえたまま部屋に戻った。
部屋に戻ったエミルは星を寝室に運ぶと、リビングへと向かう。
リビングでは、椅子に座ったエリエが申し訳なさそうに俯きながら、肩身が狭い思いをしながらココアを飲んでいた。
その隣に座っていたミレイニは、何食わぬ顔でカステラを摘んでいる。
すでに先程まで食べ過ぎて倒れていたことなんて、綺麗さっぱり忘れているような晴れ晴れとした表情で、彼女は口の中いっぱいにカステラを頬張っていた。
エミルはエリエの向かい側に座ると、微笑みながらイシェルがお茶の入った湯呑みを目の前に置く。
その湯呑みのお茶を口に運ぶと、再び湯呑みをテーブルに置いて小さくため息を漏らす。
エミルの顔色を窺うように、エリエが数回チラッと見て口を開いた。
「あの……い、いやぁ~、大変だったみたいだね。エミル姉」
「…………」
バツが悪そうに頭を掻きながらエリエがそう告げると、無言のままエミルは鋭い視線をエリエに向けた。
エリエはビクッと体を震わせると、慌ててエミルから視線を逸らす。
「全く、エリー。お菓子を食べるのはいいけど、動けなくなるくらい食べるなんて!」
「――ひっ! ご、ごめんなさい!」
急に大きな声を出されて驚いたエリエが頭を押さえて咄嗟に謝る。
その横でミレイニが口の中に含んでいたカステラを飲み込んで、落ち着いた様子でビクついているエリエに言い放つ。
「本当にエリエは仕方ないし……そんなんじゃ、一緒にいるあたしまで恥ずかしいから止めてほしいし」
呆れながらそう言い終えて、ミレイニが次のカステラに手を伸ばそうとしたその時、その手をエリエの腕ががっしりと捕まえた。
「……なんですって~!! 元はと言えば、あんたがどっちが多く食べれるか競おうって言ったのが原因でしょうが!!」
怒り狂ったエリエは隣に座っているミレイニの手を引っ張ると、強引に自分の方に引き寄せて自分の前に持ってくると素早く両手で彼女の頬をつねりながら引っ張った。
「いはいひ~。いいはありだひ~」
「なにが言い掛かりですって~。このこの~」
ミレイニの両頬を思い切り引っ張っているエリエを見て、エミルは呆れ顔で大きなため息をつく。
その横でイシェルが「本当に元気な子達やねぇ~」と楽しそうな微笑みを浮かべていた。
それから数時間が経過し、太陽が真上に到達した頃。
精も根も尽き果てて疲れきった表情で、マスターとカレンが部屋に戻ってくる。
少し遅れるようにしてメルディウスと小虎。そしてエミルが街で見た全身に黒い鎧を身にまとった青年とその後ろから少女が入って来た。
エミルはリビングに招き入れると、彼等の労をねぎらう為、お茶とお菓子を振る舞う。まあ、それをせっせと作っているのはエリエなのだが……。
テーブルに置かれた緑茶とカステラを前にして、マスターはそれに手を付けることもなく、何か考え事をしているのか静かに腕を組んだまま瞼を閉じている。
師匠が手を付けないのに自分が食べるわけにはいかないと、マスターの姿を見守っているカレンもお茶だけに口を付けて目の前に置かれたカステラにはいっさい手を付けようとしない。
だが、時折生唾を呑み込んでいるところを見ると、カレンとしては食べたいという食欲を理性で我慢しているのだろう。無理もない。事件発生からずっと動きっぱなしで、空腹のゲージは相当減っているはずだ。
それとは対称的に、メルディウスは欲望のままにカステラをバクバクと食べ進め。
「おう! これは美味いぞ! シェフを呼べ!」
「……ちょ、止めてよ。人の家だよ兄貴」
大声でそう叫ぶ横で、小虎が恥ずかしそうにしている。
まあ、これが名を轟かせている大規模なギルドのギルドマスターだとは、言われても誰も信じてはくれないだろう。更にその隣の黒い鎧を着た男性と身軽な革鎧の少女はというと……。
「なにこれ! お店で売ってるのより美味しい! ほら、美味しいよお兄ちゃん!」
少女の方がカステラをフォークで刺し、兄と呼ぶ黒い鎧を着た男の顔に近付けた。
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