オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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黒い刀と黒い思惑6

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 徐々に近付いてくるカレンを、エミルは微笑みながら迎えた。しかし、カレンは表情は曇らせながら彼女にしては珍しく、掻き消えそうな声で告げる。

「――エミルさんすみません。本当は俺達でなんとかするつもりだったんですが……」

 申し訳なさそうに下を向くカレンの肩を、エミルが元気付けるようにポンっと叩く。

「いいのよ。こんな状況だものね……それに、武闘大会の前連続優勝者が戦っているのに。現連続優勝者が戦わないわけにはいかないじゃない」

 そう言って敵を見据えたエミルの優しい顔が、一気に真面目な表情へと変わる。
 避難してくる者は手負いの者が多く、そしてその全てに例外なく黒い甲冑に身を包んだ兵士達が護衛していた。

 その兵士達はどこか機械的で、襲われても一切攻撃を返さない。だからこそ、エミルは『機械的』と思ったのだろう。本来、攻撃されれば身を守る為に全てではないにしても、数回は攻撃を返すものだ――しかし、兵士達はまるで逃げて来る者達の盾になるように、襲ってくる攻撃を剣で防ぐか鎧で受けている。

 その無気力とも積極的とも取れる身を挺した行動に、疑問を持ったエミルがカレンに尋ねた。

「カレンさん。あの黒い兵士達はなんなの?」
「ああ、あれはマスターの戦友の固有スキルで出した兵士です。その方の名前はバロンって言うらしいですよ」
「へぇ~。便利な固有スキルもあるのね」

 素直に感心していたエミルの耳に、何者かが怒鳴る声が飛び込んでくる。

 その声の主の方を向くと少女と馬に跨がったまま、不機嫌そうに目を吊り上げている黒い甲冑を身に纏っている男の姿が見えた。

「なんで俺様の兵士達を、こんな虫みたいな奴等の為に消費しないといけないんだ! もうこのゴミ共を斬り殺した方が早いだろ!」
「お前の固有スキルは、PVPじゃ相手のHPを『0』にできないだろうが! それに、こんな状況なんだ。なるべく反感を買うような言動は慎めよ!」

 激しく反論しているのは、同じく馬に乗った赤い甲冑を身に着けたメルディウスだった。

 2人は相当仲が悪いのか、互いに側に付けた馬から足を突き出して蹴り合っている。
 それを見て、黒い鎧の男性の方に乗っている少女が頭を押さえながら、呆れた様子で大きなため息を吐いていた。

 まあ、こんな危機的な状況下の中で喧嘩できるのが凄いと言ったところだろう。だが、今はそんなことに構っている余裕はない。

「カレンさん。あなたは後方に下がってプレイヤー達の回復と護衛をお願い。人手が足りないようだから」
「は、はい!」

 カレンは頷くと、街の角地に集まっている多くのプレイヤー達の方へと駆けていく。  
 そしてエミルは腰に差したロングソードを抜くと、避難してくる人々の方へと急いだ。      

 正直な話。エミル1人が戦闘に参加したところで、どうこうなる状態ではない。
 外壁の隅で身を寄せ合っているのは負傷が酷い者か低レベルのプレイヤー達で戦力にはならない。また、街のプレイヤー達の多くも防衛に参加しているが、彼等の殆どはレベル100に満たない中堅プレイヤー達だ。

 始まりの街は一番初めにくる街だ。その為、ゲームを始めて日が浅いプレイヤー達が必然的に多くなってしまう。だが、高レベルプレイヤーがいないわけではない。しかし、そんな腕に覚えのある彼等も次々に負傷し下がってくる。

 モンスター相手ならば負傷したら、別の者が回復用のヒールストーンを投げれば、疲労は残るのもののHPは即座に回復する。
     
 だが、PVPではより公正を期す為、戦闘中のHP回復はできない仕様になっていた。もちろん。武器破壊に成功していればPVPは解除され、回復アイテムの使用も可能になる。

 本来の正常な時のPVPでは、プレイヤの対戦人数は双方共同じで異常状態の装備、アイテムは使用禁止などの規制がある。
 その機能も、残念なことにシステムが改悪された今となっては無意味に近い――いや、逆に事態の悪化に拍車をかけているとも言ってもいい。

 素早く巻物を取り出したエミルは巻物を地面に開き笛を吹く。その直後、今度は煙の中からソードアーマードラゴンが出現した。

 その背中に無数の剣身が剥き出しになった姿は、いつ見ても近付いただけで串刺しにされそうだ。

「ブレイクファング!」

 ――グオォォォォォォッ!!

 突如そう叫んだエミルに応える様にソードアーマードラゴンが咆哮を上げ、空中に2本の剣が撃ち出された。

 空中を舞って地面に突き刺さった。その後、2本の剣をエミルが抜き取る。しかし不可解なことに、エミルの持つその剣には剣として最も重要な刃が付いていない。

 いや、剣先に刃が付いているが、剣身はまるで分厚い鉄板の様だった。

「――あんまり長引かせると……また星ちゃんが何を考えるか分からないからね。本気でいくわよ!」

 刃のない剣を両手に持ち、エミルは目の前で交戦していたプレイヤーの方へと走っていく。
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