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黒い刀と黒い思惑3
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2人の会話を聞いていた星は、間もなく出発するのを察して、レイニールをテーブルから抱き上げると胸にぎゅっと抱きしめる。だが、レイニールを抱き上げた星のその手は微かに震えていた。
それはレイニールも感じたのか、星の顔を不安げに見上げ。
「大丈夫か? 主。震えておるぞ?」
「……えっ? うん。あはは、どうしてかな」
笑って誤魔化す星の顔を見上げながら、レイニールはそれ以上追求しようとしなかった。
きっとレイニールは、星の心境を察していたのだろう。星にとっては、今回が前線で戦うのは始めてなのだ。恐怖を感じても仕方のないことだ――。
装備品やアイテムを確認すると「よし!」と呟き、星に向かって微笑みかけた。
「さあ、行きましょうか!」
「はっ、はい!」
エミルの声を聞いてその場でビクッ!と飛び上がりそうになりながらも、星が返事を返す。
微笑みを浮かべたまま身を翻し、徐に歩き出すエミルの後を星が慌てて追いかけていった。
廊下を抜けて外に出ても、星の胸の高鳴りは収まるどころか更に強くなっていく。
巻物でリントヴルムを召喚するエミルの少し後ろで、星は自分の胸の前で両手を合わせていた。
その隣で空を飛びながら、星を心配そうに見つめていたレイニールが小声でささやいた。
「――主。怖いなら早く言った方がいいのだ。今なら、まだ行かなくてすむのじゃ……」
しかし、星は首を横に振ってレイニールの忠告を断った。
驚いた様子で目を見開いているレイニール。
レイニールは気を利かせて言ってくれたのは、星にもすぐに分かった。だが、星にはどうしても退けない理由があったのだ。
それは……。
「もし。ここで逃げ出したら、次も同じように逃げちゃうし。それに……もう誰も傷付くのを見たくないから……」
「……主。なら、我輩が頑張って主を守るしかないな! 任せるのじゃ!」
星の決意を聞いて、俄然やる気になったレイニールが自信満々に自分の胸をポンっと叩く。
そんなレイニールが、今までで一番頼もしく見えて星は思わず顔を綻ばせた。すると、話をしている2人をエミルが星達を呼んだ。
エミルは星の手を取ると、地に這いつくばる様にして低く伏せているリントヴルムの背に乗った。
2人を乗せたリントヴルムはむくっと立ち上がり、大きく白い翼を大きく上下に動かす。
徐々に早くなる翼の動きに比例して、リントヴルムの巨体がゆっくりと宙に浮いていく。
星は間もなく進むのが分かって、自分の近くを飛んでいたレイニールを掴まえる。その直後、星の予想通り、リントヴルムがゆっくりと前に向かって動き出した。
街に向かって進んでいく途中、眉をひそめて不安そうな顔で遠くを見つめていたエミルの瞳が星に向けられている。
「星ちゃん。街に行ったら、私の側を離れちゃだめよ? 無理も絶対だめ! とりあえず。私の攻撃の間合い5m以上は離れないこと! いいわね?」
「はい。でも――」
「――いいわね?」
星が言葉を返そうとして口を開いた瞬間。エミルが念を押すように先程より強めに言った。さすがに星も、それにはただただ頷くしかない。
頷いた星を見て、安堵した表情になったエミルは再び前を向き直す。
最初から星を連れていくことに、あまり乗り気じゃなかったエミルは土壇場にきて少し後悔しているのだろう。
星を城に残すと、ライラがくるかもしれないと思い。勢いで連れていくのを了承したところが大きい。
まあ、どちらにしても星にしてみれば、この状況に持っていければ良かったのだから、なんの不満もない――あるのは微かな不安と胸騒ぎだけだ。そして、その不安は現実に変わる……。
街の近くまできて、高度を落とすリントヴルムの背中に乗っていた星達にも街の惨状が入ってくる。
街の至る所から上がる悲鳴、怒号、武器の当たり合う金属音、それらが入り混じってまるで戦場だった。
その光景を冷静に見つめると、エミルは徐に口を開く。
「これは街に降りるのは止めた方がいいわね……少し離れた場所に降りるわ――」
「――ッ!?」
その時、星の目に飛び込んできたのは、今まさに黒い刀を持った男に斬りつけられようとしている少女の姿だった。
「レイ!」
もうそう口に出した時には、星はリントヴルムの背から飛び降りていた。
レイニールは驚き目を見開いたが、すぐに星を追い掛けるように急降下を開始し、星の服を掴むとパタパタと忙しなく翼を動かしてゆっくりと地面に向かって降りていく。
だが、その星の行動に一番驚いたのはエミルだ。
「――あの子はもう!」
星は落下しながらコマンドを操作してエクスカリバーを取り出す。
(……お願い。間に合って!)
徐に剣の先を、黒刀を振り上げている男に向けながら大きく叫ぶ。
「ソードマスターオーバーレイ!!」
すると、胸の辺りで何かが強い光を放つ。
それはさっきライラから渡された鳩を象ったシルバーのペンダントだった。
直後。星の剣先が向いていた男の足場が金色に輝く光の柱が立ち上がり、男の振り下ろされた黒い刀のダメージが『1』で固定される。
地面に着地した星が剣を握り締めながら走り出そうとしたその時、耳元で誰かがささやく。
『ほら、そっちだけじゃない……向こうも、あっちも危ないよ?』
脳の中を何度も反響する声、それは幼い女の子の声だった。
それはレイニールも感じたのか、星の顔を不安げに見上げ。
「大丈夫か? 主。震えておるぞ?」
「……えっ? うん。あはは、どうしてかな」
笑って誤魔化す星の顔を見上げながら、レイニールはそれ以上追求しようとしなかった。
きっとレイニールは、星の心境を察していたのだろう。星にとっては、今回が前線で戦うのは始めてなのだ。恐怖を感じても仕方のないことだ――。
装備品やアイテムを確認すると「よし!」と呟き、星に向かって微笑みかけた。
「さあ、行きましょうか!」
「はっ、はい!」
エミルの声を聞いてその場でビクッ!と飛び上がりそうになりながらも、星が返事を返す。
微笑みを浮かべたまま身を翻し、徐に歩き出すエミルの後を星が慌てて追いかけていった。
廊下を抜けて外に出ても、星の胸の高鳴りは収まるどころか更に強くなっていく。
巻物でリントヴルムを召喚するエミルの少し後ろで、星は自分の胸の前で両手を合わせていた。
その隣で空を飛びながら、星を心配そうに見つめていたレイニールが小声でささやいた。
「――主。怖いなら早く言った方がいいのだ。今なら、まだ行かなくてすむのじゃ……」
しかし、星は首を横に振ってレイニールの忠告を断った。
驚いた様子で目を見開いているレイニール。
レイニールは気を利かせて言ってくれたのは、星にもすぐに分かった。だが、星にはどうしても退けない理由があったのだ。
それは……。
「もし。ここで逃げ出したら、次も同じように逃げちゃうし。それに……もう誰も傷付くのを見たくないから……」
「……主。なら、我輩が頑張って主を守るしかないな! 任せるのじゃ!」
星の決意を聞いて、俄然やる気になったレイニールが自信満々に自分の胸をポンっと叩く。
そんなレイニールが、今までで一番頼もしく見えて星は思わず顔を綻ばせた。すると、話をしている2人をエミルが星達を呼んだ。
エミルは星の手を取ると、地に這いつくばる様にして低く伏せているリントヴルムの背に乗った。
2人を乗せたリントヴルムはむくっと立ち上がり、大きく白い翼を大きく上下に動かす。
徐々に早くなる翼の動きに比例して、リントヴルムの巨体がゆっくりと宙に浮いていく。
星は間もなく進むのが分かって、自分の近くを飛んでいたレイニールを掴まえる。その直後、星の予想通り、リントヴルムがゆっくりと前に向かって動き出した。
街に向かって進んでいく途中、眉をひそめて不安そうな顔で遠くを見つめていたエミルの瞳が星に向けられている。
「星ちゃん。街に行ったら、私の側を離れちゃだめよ? 無理も絶対だめ! とりあえず。私の攻撃の間合い5m以上は離れないこと! いいわね?」
「はい。でも――」
「――いいわね?」
星が言葉を返そうとして口を開いた瞬間。エミルが念を押すように先程より強めに言った。さすがに星も、それにはただただ頷くしかない。
頷いた星を見て、安堵した表情になったエミルは再び前を向き直す。
最初から星を連れていくことに、あまり乗り気じゃなかったエミルは土壇場にきて少し後悔しているのだろう。
星を城に残すと、ライラがくるかもしれないと思い。勢いで連れていくのを了承したところが大きい。
まあ、どちらにしても星にしてみれば、この状況に持っていければ良かったのだから、なんの不満もない――あるのは微かな不安と胸騒ぎだけだ。そして、その不安は現実に変わる……。
街の近くまできて、高度を落とすリントヴルムの背中に乗っていた星達にも街の惨状が入ってくる。
街の至る所から上がる悲鳴、怒号、武器の当たり合う金属音、それらが入り混じってまるで戦場だった。
その光景を冷静に見つめると、エミルは徐に口を開く。
「これは街に降りるのは止めた方がいいわね……少し離れた場所に降りるわ――」
「――ッ!?」
その時、星の目に飛び込んできたのは、今まさに黒い刀を持った男に斬りつけられようとしている少女の姿だった。
「レイ!」
もうそう口に出した時には、星はリントヴルムの背から飛び降りていた。
レイニールは驚き目を見開いたが、すぐに星を追い掛けるように急降下を開始し、星の服を掴むとパタパタと忙しなく翼を動かしてゆっくりと地面に向かって降りていく。
だが、その星の行動に一番驚いたのはエミルだ。
「――あの子はもう!」
星は落下しながらコマンドを操作してエクスカリバーを取り出す。
(……お願い。間に合って!)
徐に剣の先を、黒刀を振り上げている男に向けながら大きく叫ぶ。
「ソードマスターオーバーレイ!!」
すると、胸の辺りで何かが強い光を放つ。
それはさっきライラから渡された鳩を象ったシルバーのペンダントだった。
直後。星の剣先が向いていた男の足場が金色に輝く光の柱が立ち上がり、男の振り下ろされた黒い刀のダメージが『1』で固定される。
地面に着地した星が剣を握り締めながら走り出そうとしたその時、耳元で誰かがささやく。
『ほら、そっちだけじゃない……向こうも、あっちも危ないよ?』
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