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黒い刀と黒い思惑2
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そんなことを思いながらホットケーキを食べていると、エミルが驚いたように目を見開き。その後、険しい表情で指を動かすと、すぐ隣にいたイシェルの方を見た。
星はすぐにエミルの変化を察して、真っ先に先程のマスターの言葉を思い出す。
『案ずるな。こうなった以上、急いでも仕方がない。お前達は儂の連絡を待て、必要になったら呼ぶ……』
その言葉通り、不測の事態に陥ったと考えるのが自然である。
エミルとイシェルは星達に聞こえないように短く何か会話を終えると、エミルが星に向かってあからさまににっこりと微笑んだ。
「星ちゃん。ちょっと出掛けてくるけど、イシェと一緒に待っててもらってもいい?」
彼女の口から出たその言葉で、星の予想は確信へと変わる。しかし、俯き加減に表情を曇らせながら星は首を横に振って、そのエミルの申し出を拒む。
エミルは少し困り顔のまま、もう一度今度はゆっくりと、星に言い聞かせるように告げる。
「――もう隠さないで言うけど……今、マスターから連絡があって、ちょっと、思っていたより状況が良くないみたいなの……だから、私も行かないといけないの。分かるでしょ?」
星はそれを聞いても、激しく首を横に振った。
それを見たエミルは困り果てたように大きくため息も漏らす。
だが、ここまで頑なに星が拒むのも珍しい。星本人も上手く説明できないが、何か物凄い胸騒ぎを感じているからだった。
この感覚は富士のダンジョンで、がしゃどくろとの戦いの前にも感じたものだ。あの時もギリギリで勝てたが、エミルは致命的なダメージを受けて戦闘不能にまで追い込まれた。
しかしそれを直接エミルに伝えれば、きっと今よりも強く星を置いていこうとするのは分かっていた。
俯きながら、星が必死に思考を回して導き出した答えは「また、ライラさんが来たら……」だった。
咄嗟に出た言葉に内心ひやひやしながら、そっとエミルの顔色を窺う。
星の口から突然出た『ライラ』という言葉を聞いた瞬間、エミルは驚愕しながら目を見開いていた。
そんな彼女の様子から、エミルが今までにないほど動揺しているのが見て取れる。
次の瞬間、今までの言動が嘘のように「そうね。ライラが来たら危ないものね」と深く頷く。
エミルは星に向かって、もう一度にっこりと笑みを浮かべる。
「それじゃ、一緒に行きましょうか。ううん、一緒の方がいいわね!」
「……は、はい」
彼女のあまりの変わりように、言った星の方がぽかんと口を開けたまま面食らってしまう。
それもそうだろう。こんな子供騙しの様な口車に乗って来るなんて、言った本人ですら思っていなかったのだ。
だが、一つ分かったことは、エミルにとって彼女の存在がそれほどの脅威だということだろう……。
そこにホットケーキを食べ終えたレイニールが胸を張って叫ぶ。
「はっはっはっ! 我輩が一緒なら、なにも心配する事などないのじゃ!」
自信満々に言い放つレイニールだったが、その手に握られている自分の体程の大きさのフォークのせいで、まるで金色の小さな悪魔が高笑いしているようにしか見えない。しかも、ほっぺたには飛び散った生クリームが付いている。
「レイ。生クリームが付いてるよ?」
「うむ。主、取ってほしいのじゃ!」
星に指摘されたレイニールは目を瞑ると、星がハンカチでレイニールの顔を拭く。
丁寧にレイニールの顔を拭いている向かい側で、エミルとイシェルが話している。
「それじゃ、イシェはエリー達をお願いね」
「そうやね。今回は、うちが行ってもあんまり戦力にならんし……」
急に耳に飛び込んできたイシェルの話を聞いて、不思議そうな顔で星は首を傾げた。
それもそうだろう。イシェルの固有スキルは『ソニックブーム』その名の通り。衝撃波を作り出すスキルでその効果範囲も他のスキルよりも遥かに大きく、しかも彼女の持っている『神楽鈴』を使用すればその破壊力は何倍になるはず。
本来ならば、エリエとミレイニも参加できず、現状戦力の乏しい状況で彼女をメンバーから外すのは考えられない。しかし、イシェルはいかないと言っているし、エミルもそれを容認しているように見えた。
「――イシェルさんは行かないんですか?」
その疑問が、自然と星の口から漏れ出した。その直後、イシェルが星を鋭く突き刺さるような目で睨む。
まるで敵を見る様な瞳に、星の背筋に悪寒が走った。心臓を鷲掴みにされたような圧迫感に、星は微動だにできなかった。
「まあ、そうね。イシェの固有スキルは、力のコントロールが難しいから仕方ないのよね」
イシェルの様子に全く気付く素振りも見せず、エミルが言った。
その後、エミルがイシェルの方を向いて「そうよね」と聞き返すと、今までの形相が嘘のように晴れやかな表情で頷く。
「まあ、うちのスキルは多人数向きで、微妙な力加減が難しいんよ。そやから、今回は残念やけどお留守番やね」
「そういうこと……それじゃ、エリー達をお願いね。イシェ」
「うん。エミルも気を付けてな」
「ええ、必ず帰ってくるわ!」
不安げにそう言ったイシェルに、エミルは力強く答えた。
星はすぐにエミルの変化を察して、真っ先に先程のマスターの言葉を思い出す。
『案ずるな。こうなった以上、急いでも仕方がない。お前達は儂の連絡を待て、必要になったら呼ぶ……』
その言葉通り、不測の事態に陥ったと考えるのが自然である。
エミルとイシェルは星達に聞こえないように短く何か会話を終えると、エミルが星に向かってあからさまににっこりと微笑んだ。
「星ちゃん。ちょっと出掛けてくるけど、イシェと一緒に待っててもらってもいい?」
彼女の口から出たその言葉で、星の予想は確信へと変わる。しかし、俯き加減に表情を曇らせながら星は首を横に振って、そのエミルの申し出を拒む。
エミルは少し困り顔のまま、もう一度今度はゆっくりと、星に言い聞かせるように告げる。
「――もう隠さないで言うけど……今、マスターから連絡があって、ちょっと、思っていたより状況が良くないみたいなの……だから、私も行かないといけないの。分かるでしょ?」
星はそれを聞いても、激しく首を横に振った。
それを見たエミルは困り果てたように大きくため息も漏らす。
だが、ここまで頑なに星が拒むのも珍しい。星本人も上手く説明できないが、何か物凄い胸騒ぎを感じているからだった。
この感覚は富士のダンジョンで、がしゃどくろとの戦いの前にも感じたものだ。あの時もギリギリで勝てたが、エミルは致命的なダメージを受けて戦闘不能にまで追い込まれた。
しかしそれを直接エミルに伝えれば、きっと今よりも強く星を置いていこうとするのは分かっていた。
俯きながら、星が必死に思考を回して導き出した答えは「また、ライラさんが来たら……」だった。
咄嗟に出た言葉に内心ひやひやしながら、そっとエミルの顔色を窺う。
星の口から突然出た『ライラ』という言葉を聞いた瞬間、エミルは驚愕しながら目を見開いていた。
そんな彼女の様子から、エミルが今までにないほど動揺しているのが見て取れる。
次の瞬間、今までの言動が嘘のように「そうね。ライラが来たら危ないものね」と深く頷く。
エミルは星に向かって、もう一度にっこりと笑みを浮かべる。
「それじゃ、一緒に行きましょうか。ううん、一緒の方がいいわね!」
「……は、はい」
彼女のあまりの変わりように、言った星の方がぽかんと口を開けたまま面食らってしまう。
それもそうだろう。こんな子供騙しの様な口車に乗って来るなんて、言った本人ですら思っていなかったのだ。
だが、一つ分かったことは、エミルにとって彼女の存在がそれほどの脅威だということだろう……。
そこにホットケーキを食べ終えたレイニールが胸を張って叫ぶ。
「はっはっはっ! 我輩が一緒なら、なにも心配する事などないのじゃ!」
自信満々に言い放つレイニールだったが、その手に握られている自分の体程の大きさのフォークのせいで、まるで金色の小さな悪魔が高笑いしているようにしか見えない。しかも、ほっぺたには飛び散った生クリームが付いている。
「レイ。生クリームが付いてるよ?」
「うむ。主、取ってほしいのじゃ!」
星に指摘されたレイニールは目を瞑ると、星がハンカチでレイニールの顔を拭く。
丁寧にレイニールの顔を拭いている向かい側で、エミルとイシェルが話している。
「それじゃ、イシェはエリー達をお願いね」
「そうやね。今回は、うちが行ってもあんまり戦力にならんし……」
急に耳に飛び込んできたイシェルの話を聞いて、不思議そうな顔で星は首を傾げた。
それもそうだろう。イシェルの固有スキルは『ソニックブーム』その名の通り。衝撃波を作り出すスキルでその効果範囲も他のスキルよりも遥かに大きく、しかも彼女の持っている『神楽鈴』を使用すればその破壊力は何倍になるはず。
本来ならば、エリエとミレイニも参加できず、現状戦力の乏しい状況で彼女をメンバーから外すのは考えられない。しかし、イシェルはいかないと言っているし、エミルもそれを容認しているように見えた。
「――イシェルさんは行かないんですか?」
その疑問が、自然と星の口から漏れ出した。その直後、イシェルが星を鋭く突き刺さるような目で睨む。
まるで敵を見る様な瞳に、星の背筋に悪寒が走った。心臓を鷲掴みにされたような圧迫感に、星は微動だにできなかった。
「まあ、そうね。イシェの固有スキルは、力のコントロールが難しいから仕方ないのよね」
イシェルの様子に全く気付く素振りも見せず、エミルが言った。
その後、エミルがイシェルの方を向いて「そうよね」と聞き返すと、今までの形相が嘘のように晴れやかな表情で頷く。
「まあ、うちのスキルは多人数向きで、微妙な力加減が難しいんよ。そやから、今回は残念やけどお留守番やね」
「そういうこと……それじゃ、エリー達をお願いね。イシェ」
「うん。エミルも気を付けてな」
「ええ、必ず帰ってくるわ!」
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