オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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ライラの企み7

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 現実ならば、剣を振ればその回数に応じてそれに必要な筋肉などの体組織も強化できる為、剣を重くして振れば振るほど斬撃の威力は大きくなっていくだろう。

 しかしながら、ここは数値によってパラメーターを決められた世界で、そのパラメーターはレベルを上げるか装備の変更によってのみ強化できる。
 つまり、いくらこの世界で剣を振ったところでパラメーターに変更はない。あるとしても、ステータスとは関係ない、太刀筋がほんの少しだけ鋭くなるだけのものだ。

 星もそのことは自然と感じ取っている。だが、それでも……いや、それ以上に皆の役に立ちたい。強くなりたいという気持ちの方が強いのだろう。それが彼女にとっては、剣を何時間も振り続ける理由になるのだろう……。


 それから結局休憩を取ることなく、ぶっ通しで木の剣を振り続けている間に辺りは日も落ち、すっかり暗くなっていた。
 汗を流しながら必死に剣の練習をしていた星の目の前に、見慣れたウェーブのかかった茶髪の女性が立っている。それは紛れもなく、一度は星達の前から姿を消したはずのライラだった。

 ライラは意味ありげに微笑みを浮かべ、星の元へとゆっくりと歩いて来て。

「あら~。剣の練習なんてすごいわね~♪」
「……ライラさん」

 今までのこともあってか、星は少し警戒したような硬い表情で持っていた木の剣を胸の辺りで握り締めている。

 少し怯えた表情の星を察して、レイニールが慌ててライラと星の間に割って入った。
 威嚇するように鋭く睨みつけるレイニールに、ライラは「あらあら」と呟きながらも微笑みを崩さない。

 やはり彼女が何を考えているのか分からず、彼女が掴み所がない人物であることを再確認する。

 張り詰めた空気の中。静寂を破る様に、レイニールがビシッと指差して告げる。

「我輩は前々から、お前は危険だと思っていたのじゃ!」
「あら~。そうなの? そんな事を言われるなんて、お姉さん悲しいわ~」

 発せられたレイニールの言葉とは裏腹に、ライラの返答はとてもいい加減に感じたが。
 その表情からは彼女が何を考えているのか、その真意を読み取ることが全くと言っていいほどできない。

 彼女の表情を見るに、ポーカーフェイスと言うような生易しいものではなく、元よりそんな能力など持ち合わせていないように感じるほどだ。

 それが星には不気味に感じられ、背筋に悪寒が走る。次の瞬間、にんまりとライラが不敵な笑みを浮かべたと思った時には、すでに彼女の姿は目の前から消えていた。

 息を吸うほどの刹那に、今まで目の前を飛んでいたはずのレイニールの姿は消え。

「……ふふっ、ごめんなさいね」
「………………えっ?」

 急に眼前に現れたライラ。

 驚き瞬きをした星の腹部を冷たい何かが通り過ぎていった……その一瞬の感覚がとても長く、永遠の様な錯覚に襲われ。星は徐に腹部を突き通ったその固くて冷たい物体を触り、それが剣であると確認した直後。今度は全身を炎に包まれたかと思うほどの激痛が、星の小さな身体を駆け巡る。

 凄まじい痛みが痺れに変わり、酸欠の金魚のように口をパクパクと痙攣させた星が声にならない声でライラに尋ねる。

「………………どうして?」

 だが、ライラはその言葉に答える素振りも見せず、ただただ不気味なほどいつもと変わらない微笑みを浮かべていた。
 今の現状では彼女のその常軌を逸した姿は、星にとって殺人鬼のそれと何ら変わらなく瞳に映って仕方がない。

 視界に映る円状のHPバー横の人形の周りに痺れた表示が出て、その周りの円状になっているHP残量が徐々に減少を始める。
 遠退く意識の中。木に縛られたレイニールが「あるじー!」と絶叫する声だけが頭の中を駆け巡るが、全身が痺れていてもう抵抗することもできない。

(……そっか。私、このまま死ぬんだ……きっと、私がライラさんになにかしたから……)

 そう思った直後、星の体は自分の意志とは関係なくライラの方へと倒れ、彼女の体に凭れ掛かるようにして止まる。

 視界に映るHPバーが黄色の領域に踏み込んだ次の瞬間。ライラの肩越しから見えた世界が歪み、空間が裂けてそこからマントで全身を隠した人物が現れた。それはまるで、昨日の宿屋での出来事と酷似していた。

 マントの人物は腰に差していた漆黒の剣で、何の躊躇もなくライラを斬り伏せた。
 まるで時間が止まっているかの様に、表情を変えることも断末魔の叫びを上げることもなく、腰から真っ二つに裂けて崩れ落ちるライラ。

 同時に凭れ掛かっていた星の体も前に倒れるが、マントの人物は倒れそうになる星の体を支え、その腹部から刺さっていた剣を抜き取った。だが、不思議とその痛みは感じない。

 そして耳元で一言……。

「――命を無駄にするなと言っただろ?」

 そう彼女は呟き、ポケットから見たことのない虹色に輝く宝石を取り出して徐に傷付いている星の腹部に押し当てた。
 すると傷が消え、視界の人形とHPバーがフルに回復する。しかも、星が今まで剣の練習で感じていた疲労も完全に消えている。

 だが、それはありえないことだ――本来は負傷は自然に完治することもヒールストーンを使っても回復不可。体力も自然に回復を待つか、眠ることで回復させるしか方法はないはず。
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