オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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ライラの企み4

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 ミレイニは右手を突き出し、目の前の白毛のイタチに命令する。

「ゆけ! ギルガメシュ。高速移動だし!」

 小さなイタチは彼女の言葉に応えるように、地面を素早く駆け回るとレイニール目掛けて走り出す。

 スピードに物を言わせて、残像でレイニールを幻惑しようとする。そこで空かさず、鋭い眼光を放ったエリエの声が響いた。

「レイニール! 火炎弾!」
「ふふ、我輩と戦うとは……身の程を教えてやるのじゃ!」

 エリエがイタチを指差し叫ぶと、口から火の玉を発射したレイニール。

 その火の玉が地面もろともイタチを吹き飛ばした。
 クレーターを作って辺りに砂埃を巻き込みながら突風を巻き起こすレイニールの火炎弾はとてつもない威力だ。

 攻撃によって舞い上がった土煙が収まると、ギルガメシュがその場に倒れ込んで目を回している。勝敗が決したのか、レイニールが嬉しそうに腕を天に突き上げた。

「我輩の勝利じゃ! これでエリエのお菓子はホットケーキで決まりなのじゃ!」
「うぅ~。私のモンブランが~」

 興奮気味な声で高らかに宣言するレイニールと、その場にペタンと座り込んで落胆するミレイニを余所に、その一部始終を見ていた星とエミルは呆れ顔でため息を漏らす。どうやら、おやつの時間に食べるメニューで揉めていたらしい……。
 
 星とエミルは未だに勝利の余韻に浸っているレイニール達と、地面に両手を付いて項垂れているミレイニを放置して特訓を始める。

 エミルはコマンドを開いて装備を解除すると、代わりに木製の剣を2本取り出して片方を星に手渡す。

 真剣な面持ちで星はその剣を受け取ると、装備欄から装備する。

 数回自分の前で木製の剣を振った星は肩を強張らせ、ガチガチに緊張した表情で頷く。その行動は彼女の中での決意の表われなのかもしれない。

 エミルは緊張で表情が硬くなっている星に微笑みながら告げた。

「まだ向き合って戦うわけじゃないから、そんなに緊張しなくていいのよ?」
「……えっ? 違うんですか?」

 そのエミルの言葉に、星は肩透かしを食らった様にぽかんと口を開けたまま首を傾げている。
 まあ、それも当然と言えた。なんせ互いに二本の木刀ならぬ木剣を用意され、その片方を渡されればそう勘違いするのは無理はない。

 エミルは剣を地面に突き刺すと、後ろから星の両肩に手を乗せ耳元で優しくささやくように言った。

「――いい? 剣を持つ時は肩の力を抜いて、敵に当たる瞬間に力がかかるように振り抜くの」
「でも、最初から力を入れていた方がいいんじゃないんですか?」

 星のその疑問は最もだ。最初から最後まで全力を込めて振り抜いた方が攻撃力は上がりそうなものなのに、どうして脱力するのか理解できない。

 眉を寄せて難しい顔をしている星に、エミルはゆっくりと、しかし、しっかりと諭すように告げた。

「そうね。でも、ずっと力を入れているのって大変なのよ? それに当たるのは一瞬なのだから、その時にだけ全力を出した方がいいと思わない?」
「う~ん」

 だが、エミルの目論見は外れ、言葉に唸りながら星が更に首を傾げ、黙り込んでしまった。

 その様子にエミルもどうしたらいいものかと、考え込んでいる。

 しばらく考え込んだ末に「よし」と声を上げたエミルは、今度は小さな丸太と歯の付いた剣を取り出す。

 星に向かってエミルが「ちょっと危ないから離れててね」と告げると、低い姿勢で剣を構えた。

 直後。鋭く睨むと気合いを入れるように、叫んで持っていた剣を振り抜く。すると、地面に突き立てられていた丸太は真ん中から綺麗に割れて地面に落ちた。

 星がその丸太に駆け寄ってじっくりと見てみると、その切り口がとても綺麗で星は無意識に思わず声を上げた。

「すごいです!」
「ふふっ、ありがとう」

 星に褒められたのが嬉しかったのか、エミルもにんまりと表情を綻ばせた。

 エミルはもう一度星に離れるように告げると、再び丸太を地面に突き立て同じ剣を自分の前に構え直した。

 一度大きく深呼吸して剣を頭上に振りかぶると、今度は全身の力を込めて一気に振り下ろす。

「はああああああああああッ!!」

 先程よりも大きい掛け声の直後に、木に剣の当たる大きな音が響く。

 星は間違いなく丸太を切り伏せたと思ったのだが。その予想と反して、エミルの全力で振った剣は丸太を半分ほど切ったところで、突き刺さったまま止まっていた。それを見た星の頭上には『?』が浮かんでいる。

 間違いなく一回目よりも二回目の方がモーションも木に当たった音も大きかった。しかし、結果は見ての通り、丸太にがっしりと木の剣が食い込んだままだ――。

 星はエミルが剣から手を放したのを確認するや否や、確認する為に丸太に駆け寄っていく。
 丸太を見た星は更に不思議そうに首を傾げながら、納得いかないという表情見せている。すると、その横からエミルが話し掛けてきた。
 
「星ちゃん。どうして斬れなかったか分かる?」
「いいえ……どっちも同じ剣なのに。どうしてですか?」

 その問いに、エミルはにっこりと微笑みながら答える。

「それは速度が違うからよ。力を入れるのは斬る瞬間だけ……重要なのは力じゃなくて脱力なのよ。剣は鈍器じゃないわ。だから、力を入れるのにもメリハリが重要なの。実戦だと剣速が最も重要になる。まず、星ちゃんは剣に慣れることから始めてもらおうかな」

 エミルはそう告げると、別の丸太を設置して木製の剣に持ち替えた。

 数歩後ろに下がったエミルが剣を構えると、一瞬の刹那に上段、中段、突きの3打を打ち込んだ。
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