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ゴーレム狩り9

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 だが、それは彼だけではなく、周りのダークブレットのメンバー達も羽目を外して各々で楽しんでいる様子だった。そんな時、外から悲鳴が聞こえてくる。それも1人、2人ではなく相当大勢のものだ。

 デュランの肩に腕を回し、酔ってゲラゲラと笑っていたメルディウスの表情が嘘のようにキリッとした目でデュランを見た。

 その瞳を見たデュランも悟った様に小さく頷くと、突如走り出してガラスを突き破って外に飛び出す。それを見たメルディウスも勢い良く窓に向かって全力疾走して、ガラスに向かって飛び込んだ――――はずだった。

 次の瞬間、彼を待っていたのは窓ではなく、窓と窓の間の支柱に激しく激突した。

 ――ドカッ!!

 大きな音と共に額を押さえながら、瞳に涙を浮かべその場に座り込んでいるメルディウスは逆ギレ気味に叫ぶ。

「誰だよ! こんな場所に支柱なんて設定した奴は! 緊急時邪魔じゃねぇーかッ!!」

 まあ、緊急時に窓から飛び降りようとする者の方が少ないと思うのだが……。

 八つ当たりのように壁をもう一度殴り付けると、尚もブツブツと文句を言いながらも、メルディウスはガラスを突き破って外へと飛び降りた。
 打ち上げをしていた会場の二階だったが、レベルがMAXの彼等はこの高さから飛び降りても何のダメージもない。

 レベルによるステータスも関係あるが、システムではある一定の高さ――即ち大きな建物の屋上か崖の上からでも落ちない限りは、HPへのダメージ計算しないので死亡することはまずない。

 地上に降り立ったメルディウスは、鞘に差したままのベルセルクを取り出した。目の前には、イザナギの剣を握り締めているデュランが立っていた。

 そこには外を黒い刀を振り回しながら、辺り構わず斬り伏せている男の姿があった。
 その瞳は狂気に満ちていて、ニヤリ不気味な笑みを浮かべ、向かってくる者はもちろん。背を向け逃げる者達をも、躊躇なく無差別に斬り殺している。

 月明かりを受け黒光りする刀に斬られた者は例外なく光の粒子となって空へと消えていく。

「……あれは、俺のダーインスレイヴやイザナギの剣と同じか?」
「俺は先に突っ込む! お前は後から来い!」

 小さく呟いているデュランを置いて、メルディウスが先陣を切って突っ込んでいく。
 黒刀を持った男も、大剣を持って走ってくるメルディウスに気付いて突進してくる。

 2人の距離が詰まり、男がメルディウスの右肩を狙って突き出した刀身を体を捻ってかわしながら、構えた大剣が大斧の姿へと変わり。

「うらああああああああああああッ!!」

 雄叫びと共に振り抜かれた大斧の刃が男の腹部に直撃し、爆発を起こして男の体を吹き飛ばした。

 男は土煙を上げながら派手に地面を転がって、しばらくして止まった。

 メルディウスは大斧を肩に担ぐと、目を細めながら地面に倒れたまま微動だにしない男を見た。 

「――手応えはあった。……やったか?」

 しかし、地面に転がっている男の手には、相当の勢いで吹き飛ばされたはずなのだが、しっかりと黒刀が握られていた。
 いくらベルセルクを持ったメルディウスでも、Lv100のプレイヤーを一撃でHPの全てを減らし切るのは無理だろう。

 ベルセルクもそれほど性能が壊れている武器というわけでもない。メルディウスが使えば十分に壊れ武器なのだが……レベルが同じなら、一撃で仕留めるということはありえない。また、それ以外にも防具の性能によって大きくダメージ量は上下する。しかしそれでも、相当なダメージは与えたはずだ。もし動けたとしても、もうメルディウスとはまともにやりあえない程度には……。

 っと次の瞬間。男がむくっと起き上がり、手に持った黒刀を構え直す。

 その顔には苦痛の色はなく、逆に狂気じみた微笑みを浮かべている。

(くっ……これで沈まないのかよ。こりゃ本気でやるしかねぇーな……)

 眉をひそめたが、すぐに決意に満ちた眼差しで肩に担いでいた大斧を構え直す。

「ふふふっ……アハッハッハッハッ!!」

 黒刀を握り締め、狂気に満ちた笑い声を轟かせながら全力疾走してくる。

 メルディウスは刃の当たる寸前に体を捻り紙一重でかわすと渾身の一撃を振り下ろし、相手の刀を地面に叩きつける様にして圧し折った。次の刹那、刀がガラスの様に砕け散って跡形もなく消える。すると、男の瞳に光が戻り、激痛から腹部を押さえて地面にへたり込んだ。

 戦闘を止め、叫び声を上げながら地面にうずくまる男に、メルディウスは困惑した様な表情で見下ろしている。

「な、なんだ?」

 メルディウスは突然のことに驚き、大きな『?』を頭の上に浮かべている。

「そんな、武器を壊されたくらいで……それとも、そんなに高いものなのかッ!?」
「はぁ……君はバカなのか?」

 首を傾げている彼の元に、デュランが冷静な声音で近付いてきた。

「これは武器に何か細工されてたんだろうね。その証拠に……」

 デュランは徐に遠くの方を指差すと、新たに黒い刀を手にしたエルフの男が暴れている姿が見えた。
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