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2人の時間7
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星は少し強い口調でエミルに尋ねた。
「居ましたよね! 私の前に黒い剣を持ったマントの人! 私に向かって来る刀を弾いて私を助けてくれた――」
そこまで口を開いて、星はもう喋るのを止める。
止めるしかなかった……その眼前には、星をまるで哀れむ様に悲しそうな瞳を向けるエミルの姿があったからに他ならない。
彼女の瞳を見れば、星の発言を信じていないことは興奮している星にも理解できた。
エミルは星の肩を掴むと、優しい声音で告げる。
「ちょっと疲れているのね、星ちゃん。色々あったから無理もないわ……お風呂は明日にして、今日はもう――」
「――本当です! 本当に居たんです!」
更に声を荒らげる星を、エミルは何も言わずに抱きしめる。
星の涙で濡れた頬がエミルの胸に押し付けられ、そしてエミルは星の頭を優しく撫でながら耳元でささやく。
「……別に誰かが居たか居なかったかなんてどうでもいいの……星ちゃんが無事ならそれだけでいいのよ」
「……エミルさん」
星が彼女の顔を見上げると、エミルの瞳から涙が溢れ落ちて星の頬を伝う。
「……本当はね。今日の星ちゃんは無理に笑ってた気がしたから、気分転換になればと思って誘ったの。でも、もう少しであなたを失うところだったわ……これじゃ、お姉さん失格ね……」
目の前で今にも襲われそうだった星を、助けられなかったという罪悪感に駆られる様なその瞳が星の胸に強く突き刺さる。
もちろん。自分を心配してくれて、妹の様に思っているその気持ちが嬉しいというのはあるが、それ以上に今の星には確認を取らなければならない大事なことがあった。
そのエミルの言葉に躊躇するように星は表情を曇らせ俯くと、意を決して今まで考えていたことを思い切って口に出してみる。
「あの……私って、エミルさんの妹の代わり……なんですか?」
そう言って星は口を一の字に結んだまま、エミルの顔を見上げた。
エミルを見上げる星のその瞳には涙が滲んでいる。もちろん。この質問の答えは言うまでもないことは星も分かっていた。きっと自分が妹の代わりだと断言される。
エミルにとって実の妹は大事で、自分はその模造品であり類似品でしかなく、しかも劣化品だ。きっとエミルの妹だ。とても思いやりのあって素晴らしい人物だったのだろう……星の中では、あったことのない彼女の完璧な人物像が作り上げられていた。
その代わりにされるだけで、とても名誉なことで、エミルも本心では戦闘の役にも立たず。かと言って何かができるわけでもない星を仕方なく失った妹というポジションに据えていると思って疑わなかった。そうでなければ、空っぽの自分がこれほど優しくしてもらえるはずもなく、大事にされるはずがないと……。
心臓が張り裂けそうに脈動する中、星はただただエミルの口元を見つめていた。
エミルはその星の突拍子もない言葉に驚きながらも、すぐに優しい微笑みを浮かべる。
「そうね。本当の妹みたいに思っているわ」
「……そうですか。なら、やっぱり……」
次の言葉は分かっているつもりでも、どうしても溢れそうになる涙を必死に抑えていた。
きっと次は『まあ、本当の妹はもっと可愛かったけどね。星ちゃんで我慢している』と言われると、肩を震わせ身構えるように体を硬直させた。
「でも、それは星ちゃん自身をよ?」
「……私自身?」
星はその言葉の意味が分からず、ただただ首を傾げる。
突如飛び出した彼女の言葉に、困惑を隠しきれない星にエミルは言葉を続ける。
「ええ、だって星ちゃんは星ちゃんでしょ? 岬は岬で別人だし、あなたはあなたよ。他の誰でもない、あなた自身を私が好きなの」
エミルの言葉に、抑えようと堪えていた涙が一気に溢れ出し、星は俯き加減に声を震わせて言った。
「……でも、私はなにも取り柄もないし、ただ皆と……エミルさんと一緒にいたいだけ……人の後ろにしがみついているだけの影なんです……」
「――影ねぇ……」
星の言葉を聞いてエミルは更に強く星の体を抱きしめて、体を小刻みに震わせている頭を優しく撫でた。
彼女の胸に押し当てられた星の耳には、エミルの心臓の音が聞こえてくる気がした。
「影なら、どうして抱きしめられるのかしらね~」
「……それは……その、だから……」
エミルの言葉に反論しようと考えている星の耳元で、エミルが優しい声でささやく。
「――ダメよ。自分を誰よりも下に見ちゃ……影なんて言っちゃダメ。確かに影は物静かで後ろから付いてきて、必死に私の後ろを付いてくる星ちゃんみたいよ。でも、影は掴めないし、掴ませてもくれない。それに話もしてくれないわ……それにほら、見てみなさい」
そう告げると、エミルは徐に床を指差した。
星がその場所に目を向けると、そこには光に照らし出された2つの影が映し出されている。
エミルは首を傾げる星の肩を自分の方に抱き寄せた。
「星ちゃんにはどう見える? 私には2人で寄り添っていて、凄く仲良しに見えるわ」
「はい」
体を密着させる2つの影が、互いを飲み込み合って混ざり合う様に明かりに照らされて長く伸びている。
「居ましたよね! 私の前に黒い剣を持ったマントの人! 私に向かって来る刀を弾いて私を助けてくれた――」
そこまで口を開いて、星はもう喋るのを止める。
止めるしかなかった……その眼前には、星をまるで哀れむ様に悲しそうな瞳を向けるエミルの姿があったからに他ならない。
彼女の瞳を見れば、星の発言を信じていないことは興奮している星にも理解できた。
エミルは星の肩を掴むと、優しい声音で告げる。
「ちょっと疲れているのね、星ちゃん。色々あったから無理もないわ……お風呂は明日にして、今日はもう――」
「――本当です! 本当に居たんです!」
更に声を荒らげる星を、エミルは何も言わずに抱きしめる。
星の涙で濡れた頬がエミルの胸に押し付けられ、そしてエミルは星の頭を優しく撫でながら耳元でささやく。
「……別に誰かが居たか居なかったかなんてどうでもいいの……星ちゃんが無事ならそれだけでいいのよ」
「……エミルさん」
星が彼女の顔を見上げると、エミルの瞳から涙が溢れ落ちて星の頬を伝う。
「……本当はね。今日の星ちゃんは無理に笑ってた気がしたから、気分転換になればと思って誘ったの。でも、もう少しであなたを失うところだったわ……これじゃ、お姉さん失格ね……」
目の前で今にも襲われそうだった星を、助けられなかったという罪悪感に駆られる様なその瞳が星の胸に強く突き刺さる。
もちろん。自分を心配してくれて、妹の様に思っているその気持ちが嬉しいというのはあるが、それ以上に今の星には確認を取らなければならない大事なことがあった。
そのエミルの言葉に躊躇するように星は表情を曇らせ俯くと、意を決して今まで考えていたことを思い切って口に出してみる。
「あの……私って、エミルさんの妹の代わり……なんですか?」
そう言って星は口を一の字に結んだまま、エミルの顔を見上げた。
エミルを見上げる星のその瞳には涙が滲んでいる。もちろん。この質問の答えは言うまでもないことは星も分かっていた。きっと自分が妹の代わりだと断言される。
エミルにとって実の妹は大事で、自分はその模造品であり類似品でしかなく、しかも劣化品だ。きっとエミルの妹だ。とても思いやりのあって素晴らしい人物だったのだろう……星の中では、あったことのない彼女の完璧な人物像が作り上げられていた。
その代わりにされるだけで、とても名誉なことで、エミルも本心では戦闘の役にも立たず。かと言って何かができるわけでもない星を仕方なく失った妹というポジションに据えていると思って疑わなかった。そうでなければ、空っぽの自分がこれほど優しくしてもらえるはずもなく、大事にされるはずがないと……。
心臓が張り裂けそうに脈動する中、星はただただエミルの口元を見つめていた。
エミルはその星の突拍子もない言葉に驚きながらも、すぐに優しい微笑みを浮かべる。
「そうね。本当の妹みたいに思っているわ」
「……そうですか。なら、やっぱり……」
次の言葉は分かっているつもりでも、どうしても溢れそうになる涙を必死に抑えていた。
きっと次は『まあ、本当の妹はもっと可愛かったけどね。星ちゃんで我慢している』と言われると、肩を震わせ身構えるように体を硬直させた。
「でも、それは星ちゃん自身をよ?」
「……私自身?」
星はその言葉の意味が分からず、ただただ首を傾げる。
突如飛び出した彼女の言葉に、困惑を隠しきれない星にエミルは言葉を続ける。
「ええ、だって星ちゃんは星ちゃんでしょ? 岬は岬で別人だし、あなたはあなたよ。他の誰でもない、あなた自身を私が好きなの」
エミルの言葉に、抑えようと堪えていた涙が一気に溢れ出し、星は俯き加減に声を震わせて言った。
「……でも、私はなにも取り柄もないし、ただ皆と……エミルさんと一緒にいたいだけ……人の後ろにしがみついているだけの影なんです……」
「――影ねぇ……」
星の言葉を聞いてエミルは更に強く星の体を抱きしめて、体を小刻みに震わせている頭を優しく撫でた。
彼女の胸に押し当てられた星の耳には、エミルの心臓の音が聞こえてくる気がした。
「影なら、どうして抱きしめられるのかしらね~」
「……それは……その、だから……」
エミルの言葉に反論しようと考えている星の耳元で、エミルが優しい声でささやく。
「――ダメよ。自分を誰よりも下に見ちゃ……影なんて言っちゃダメ。確かに影は物静かで後ろから付いてきて、必死に私の後ろを付いてくる星ちゃんみたいよ。でも、影は掴めないし、掴ませてもくれない。それに話もしてくれないわ……それにほら、見てみなさい」
そう告げると、エミルは徐に床を指差した。
星がその場所に目を向けると、そこには光に照らし出された2つの影が映し出されている。
エミルは首を傾げる星の肩を自分の方に抱き寄せた。
「星ちゃんにはどう見える? 私には2人で寄り添っていて、凄く仲良しに見えるわ」
「はい」
体を密着させる2つの影が、互いを飲み込み合って混ざり合う様に明かりに照らされて長く伸びている。
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