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2人の時間2
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しかし、先程使ったエミルの道具は正確にこの場所へと転移させた。
それだと、設定的におかしなことになるのではないか?そんな考えが、星の頭に浮かんでそれが原因で彼女は難しい表情を作っていたのだろう。
まるで『何故、空は青いのか……』と哲学を考える子供の様な難しい顔をしている星を見て、エミルは「くすっ」と笑みをこぼすとその疑問に的確に答えた。
「星ちゃんが何を考えてるか大体分かるわ。このアイテムはあの大きなテレポートと何が違うんだろう……そうでしょ? あれはシステム上、決まった動きをしているから。だから、システムに異常が出ている今の状況では、上手く機能してくれないの。そしてこれ、この『転移鏡』はそれぞれ個別に数個の転移先を登録できるわ。それは一部の場所をセーブしてるのと同じなの。だから、異常の発生している大本の転移システムとは個別の個々のデータとして――」
更に眉間にしわを寄せて難しい顔をする星を見て、エミルはそれ以上の説明を止めた。まあ、小学生に小難しいことを説明しても、理解できないのは元々分かっていたことだ――。
エミルは頭上にはてなマークを浮かべる星の肩を抱いたまま歩き出すと、店内へと入って行った。
店内は天井にぶら下げられた木で作られた逆さの傘の様なデザインのライトを天井に反射させた柔らかい光に照らされ、光沢を放つ木目の大きなバーカウンターと、その後ろには店の端から端までボトルが置かれ何段にも分けられた棚になっている。
その前には整えられた髭を生やした30代位のダンディーな男性が、カシャカシャと銀色に輝くシェーカーを振っている。
静かで落ち着いた雰囲気の店内でカウンターの先にいるこの男が、おそらくと言うか間違いなく、この店のマスターだろう。
カウンター奥の男性はエミルの顔を見るなり、優しい微笑みを浮かべた。
「おや、今日は可愛いお客さんも一緒なんだね」
「ええ、デルさん。その節はお世話になりました」
エミルが丁寧にお礼を言って頭を下げると、それに習って星も何故か頭を下げた。すると、男性は小さく手招きして一番奥のカウンターの方を指差す。
促されるようにエミルと星はゆっくりと歩き出すと、指定された席に腰を下ろした。そしてしばらくして、2人の前にミルクで満たされたカップが出される。
「サービスだよ。2人共、ゆっくりしていってくれ」
「あ、ありがとうございます」
星は素直にお礼を言ったのだが、エミルは若干複雑そうな顔をしながら小声でマスターにささやく。
「デルさん。この子の前で、あまり子供扱いしないで……」
「……なんでだい? いつも来る度、目を真っ赤にさせて泣いているじゃないか」
「もう!」
包み隠さずに平然と言った彼の言葉に、珍しく羞恥に頬を赤らめながらエミルは不機嫌そうに息を漏らす。だが星にしてみれば、それが以外だったのかもしれない。
子供扱いされているエミルなんて、この世界に来て一度も見たことはないし。店の中とはいえ、こんな人の多い場所で泣くなんて普段の彼女からはとても理解できなかった。
そんな中、不満を爆発させたような鋭い視線のレイニールが突き刺さる。年配のプレイヤーの多い店内は、サラザの店とは客層がまるで違う。
レイニールとその客達の視線が自然と自分に向いているようで緊張から喉が渇いた星が、目の前に置かれたカップを両手で持った。すると、今までエミルの肩でおとなしくしていたレイニールが、パタパタと飛んできて星の頭の上に覆い被さる。
「主。我輩を差し置いてそのミルクを飲もうと言うのか?」
「えっ? あ……」
星は慌ててカップから手を放す。
そっと横にカップをずらすと、頭の上に乗っているレイニールに向かって視線を移して。
「レイ。飲む?」
「うむ!」
レイニールは嬉しそうにカップの元に舞い降りると、ゴクゴクと音を立てながら飲み始める。
それを見ていて少し後悔していると、隣のエミルが自分のミルクを星の目の前に置いた。
そのエミルの突然の行動に、星は驚きを隠せないと言った表情でエミルの顔を見た。
「……これ」
「ああ、星ちゃんが飲んでいいわよ。私は他のを頼むから」
「でも、それじゃ――」
星が口が開こうとした時、エミルの指が星の唇に触れ。そして、エミルはゆっくりと口を開く。
「――いいの。だって、1人だけ飲み物がない状態でほっとけないでしょ? デルさん。烏龍茶もらえます?」
親しげにエミルはマスターを呼んでそう告げると、男性は烏龍茶の入ったグラスをエミルの目の前に置くと。
「これもサービスにしておくよ」
っとウィンクをして、カウンターに座っていた他の女性客の方へと歩いていった。
目の前のミルクを軽く飲んで、星はエミルの方をちらっと見やると、それに気付いてエミルは優しく微笑み返す。
それだと、設定的におかしなことになるのではないか?そんな考えが、星の頭に浮かんでそれが原因で彼女は難しい表情を作っていたのだろう。
まるで『何故、空は青いのか……』と哲学を考える子供の様な難しい顔をしている星を見て、エミルは「くすっ」と笑みをこぼすとその疑問に的確に答えた。
「星ちゃんが何を考えてるか大体分かるわ。このアイテムはあの大きなテレポートと何が違うんだろう……そうでしょ? あれはシステム上、決まった動きをしているから。だから、システムに異常が出ている今の状況では、上手く機能してくれないの。そしてこれ、この『転移鏡』はそれぞれ個別に数個の転移先を登録できるわ。それは一部の場所をセーブしてるのと同じなの。だから、異常の発生している大本の転移システムとは個別の個々のデータとして――」
更に眉間にしわを寄せて難しい顔をする星を見て、エミルはそれ以上の説明を止めた。まあ、小学生に小難しいことを説明しても、理解できないのは元々分かっていたことだ――。
エミルは頭上にはてなマークを浮かべる星の肩を抱いたまま歩き出すと、店内へと入って行った。
店内は天井にぶら下げられた木で作られた逆さの傘の様なデザインのライトを天井に反射させた柔らかい光に照らされ、光沢を放つ木目の大きなバーカウンターと、その後ろには店の端から端までボトルが置かれ何段にも分けられた棚になっている。
その前には整えられた髭を生やした30代位のダンディーな男性が、カシャカシャと銀色に輝くシェーカーを振っている。
静かで落ち着いた雰囲気の店内でカウンターの先にいるこの男が、おそらくと言うか間違いなく、この店のマスターだろう。
カウンター奥の男性はエミルの顔を見るなり、優しい微笑みを浮かべた。
「おや、今日は可愛いお客さんも一緒なんだね」
「ええ、デルさん。その節はお世話になりました」
エミルが丁寧にお礼を言って頭を下げると、それに習って星も何故か頭を下げた。すると、男性は小さく手招きして一番奥のカウンターの方を指差す。
促されるようにエミルと星はゆっくりと歩き出すと、指定された席に腰を下ろした。そしてしばらくして、2人の前にミルクで満たされたカップが出される。
「サービスだよ。2人共、ゆっくりしていってくれ」
「あ、ありがとうございます」
星は素直にお礼を言ったのだが、エミルは若干複雑そうな顔をしながら小声でマスターにささやく。
「デルさん。この子の前で、あまり子供扱いしないで……」
「……なんでだい? いつも来る度、目を真っ赤にさせて泣いているじゃないか」
「もう!」
包み隠さずに平然と言った彼の言葉に、珍しく羞恥に頬を赤らめながらエミルは不機嫌そうに息を漏らす。だが星にしてみれば、それが以外だったのかもしれない。
子供扱いされているエミルなんて、この世界に来て一度も見たことはないし。店の中とはいえ、こんな人の多い場所で泣くなんて普段の彼女からはとても理解できなかった。
そんな中、不満を爆発させたような鋭い視線のレイニールが突き刺さる。年配のプレイヤーの多い店内は、サラザの店とは客層がまるで違う。
レイニールとその客達の視線が自然と自分に向いているようで緊張から喉が渇いた星が、目の前に置かれたカップを両手で持った。すると、今までエミルの肩でおとなしくしていたレイニールが、パタパタと飛んできて星の頭の上に覆い被さる。
「主。我輩を差し置いてそのミルクを飲もうと言うのか?」
「えっ? あ……」
星は慌ててカップから手を放す。
そっと横にカップをずらすと、頭の上に乗っているレイニールに向かって視線を移して。
「レイ。飲む?」
「うむ!」
レイニールは嬉しそうにカップの元に舞い降りると、ゴクゴクと音を立てながら飲み始める。
それを見ていて少し後悔していると、隣のエミルが自分のミルクを星の目の前に置いた。
そのエミルの突然の行動に、星は驚きを隠せないと言った表情でエミルの顔を見た。
「……これ」
「ああ、星ちゃんが飲んでいいわよ。私は他のを頼むから」
「でも、それじゃ――」
星が口が開こうとした時、エミルの指が星の唇に触れ。そして、エミルはゆっくりと口を開く。
「――いいの。だって、1人だけ飲み物がない状態でほっとけないでしょ? デルさん。烏龍茶もらえます?」
親しげにエミルはマスターを呼んでそう告げると、男性は烏龍茶の入ったグラスをエミルの目の前に置くと。
「これもサービスにしておくよ」
っとウィンクをして、カウンターに座っていた他の女性客の方へと歩いていった。
目の前のミルクを軽く飲んで、星はエミルの方をちらっと見やると、それに気付いてエミルは優しく微笑み返す。
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