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内気な影7
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それに対してエミルは呆れ顔で首を横に振ると。
「だから、イシェ。何度も言ってるでしょ? 事には順序ってものがあるの!」
彼女達の口論を聞いていれば、服のことで揉めているのは明らかだった。
それを見た時には星はすでに歩き出していた。
もう何の躊躇もなくイシェルの側までいくと、その服を手に取った。その後、星は満面の笑みでイシェルに微笑む。
「私はこっちが着たいです」
「でも、星ちゃん……それは」
その意外な言葉に、エミルは目を丸くしている。
それもそのはずだろう。星はこういう服は好き好んで着ないはずなのだ。
もちろん。本音を言えば星はどちらが選んだ服も着たくはないのだが。
しかし、ここままでは店内で更に声を荒らげる最悪のシナリオが予想出来る。その為、星は自分の気持ちを押し殺してエミルも着せたいと言っていたらしいイシェルの服を選んだ。
客観的に、その時の自分はまるで操り人形の様だと星は感じていた。
自分の意志とは正反対にその場の状況に応じて、臨機応変に自分を作り上げる。本当に自分は影の様だと痛感した瞬間でもあった。
絶対に無理だと思っていたのだろう。エミルはそんな服を自分から着たいと言い出したことに、困惑の色を隠しきれない。
服を持ってもう一度、にっこりと星が微笑むと。
「それじゃ、着てきます」
「あ、ちょっと……」
止める暇もなく、再び更衣室に駆け込んで行く星。
その後、姿を見送って唖然としているエミルに、イシェルが呟く。
「ええやん。オシャレに興味が出たって事で、うちはええことやと思うよ」
「――そうね。それが本人の本当の意志なら……ね」
エミルは何かを悟ったかの様に星の入って行った更衣室を見据えていた。
更衣室に戻ると、忙しなく服を脱いで黒と白のゴスロリ服に袖を通す。
本当はこんな女の子みたいな服を着たくない。というのが本音だった。まあ、女の子と言っても一部のだが……。
(でも……私のせいで、他の人がケンカしたりするのはいや……それが私の好きな人で、その人の気持ちが嘘だったとしても……)
たとえ偽りでも、今の星のその思いに嘘偽りはない。それだけで十分だった……。
服を着終えると、一度崩れた表情を星は鏡に向かって笑顔を作るとそのままの顔でカーテンを開けた。
そこにはエミルとイシェルが立っていて、さすがに羞恥心は抑えられないのか、星の頬が赤く染まる。だが、その反応とは正反対に、星のゴスロリ姿を見て2人が黄色い悲鳴を上げた。
「ええわ~。かわええわ~。まるでお人形さんみたいやわ~」
「ええ、とてもかわいいわよ。星ちゃん!」
「……あ、ありがとうございます」
頬を赤らめながら上目遣いで遠慮気味にそう告げると、イシェルが星の頭にヘッドドレスを付け加える。
黒地に白のレースをふんだんにあしらわれたそのドレスは、星の黒くて長い髪に思いの外と言うかとても良く似合っていた。
白く赤みを帯びた頬に、潤みを含んだ紫色の瞳がまるで宝石の様に輝き。また、頭に揺らめく白いレースの部分が星が恥じらう度に揺れてとてもいい。
「これで、完成やね! 凄くええよ~。全身を黒く染めるならこれぐらいせんと!」
自信満々に言い放つイシェルの言葉とは裏腹に、星は不安そうに目の前で頬に手を当てうっとりとした瞳で自分を見つめているエミルに尋ねた。
「あ、あの……どうですか?」
「……ええいいわ~。ゴスロリなら金髪と銀髪とかしか似合わないと思ってたけど……いざ目の当たりにしてみると、黒髪とゴスロリの組み合わせが、最強――いや、殺人的だと言わざるを得ないわね……」
そう呟いたエミルの鼻からは、鮮血がポタポタと滴り落ちていた。だが、本人は星を見るのに必死なのか、鼻を押さえる気配すらない。
そんな彼女に変わって、その鼻をイシェルがハンカチで押さえる。
「ほら、鼻血出とるよ。エミル」
エミルはイシェルの手を振り解くと、大声で叫んだ。
「この状況で鼻血なんて気にしていられないわ! もう眼福とかそんなチンケな言葉では表せない! そうこれは!!」
目を見開いて拳を突き上げて言った。
「私の人生に一片の悔いなし……」
声高らかに宣言した直後、鮮血を飛び散らせながらエミルの体はその場に崩れ落ちるように倒れた。
「だから、イシェ。何度も言ってるでしょ? 事には順序ってものがあるの!」
彼女達の口論を聞いていれば、服のことで揉めているのは明らかだった。
それを見た時には星はすでに歩き出していた。
もう何の躊躇もなくイシェルの側までいくと、その服を手に取った。その後、星は満面の笑みでイシェルに微笑む。
「私はこっちが着たいです」
「でも、星ちゃん……それは」
その意外な言葉に、エミルは目を丸くしている。
それもそのはずだろう。星はこういう服は好き好んで着ないはずなのだ。
もちろん。本音を言えば星はどちらが選んだ服も着たくはないのだが。
しかし、ここままでは店内で更に声を荒らげる最悪のシナリオが予想出来る。その為、星は自分の気持ちを押し殺してエミルも着せたいと言っていたらしいイシェルの服を選んだ。
客観的に、その時の自分はまるで操り人形の様だと星は感じていた。
自分の意志とは正反対にその場の状況に応じて、臨機応変に自分を作り上げる。本当に自分は影の様だと痛感した瞬間でもあった。
絶対に無理だと思っていたのだろう。エミルはそんな服を自分から着たいと言い出したことに、困惑の色を隠しきれない。
服を持ってもう一度、にっこりと星が微笑むと。
「それじゃ、着てきます」
「あ、ちょっと……」
止める暇もなく、再び更衣室に駆け込んで行く星。
その後、姿を見送って唖然としているエミルに、イシェルが呟く。
「ええやん。オシャレに興味が出たって事で、うちはええことやと思うよ」
「――そうね。それが本人の本当の意志なら……ね」
エミルは何かを悟ったかの様に星の入って行った更衣室を見据えていた。
更衣室に戻ると、忙しなく服を脱いで黒と白のゴスロリ服に袖を通す。
本当はこんな女の子みたいな服を着たくない。というのが本音だった。まあ、女の子と言っても一部のだが……。
(でも……私のせいで、他の人がケンカしたりするのはいや……それが私の好きな人で、その人の気持ちが嘘だったとしても……)
たとえ偽りでも、今の星のその思いに嘘偽りはない。それだけで十分だった……。
服を着終えると、一度崩れた表情を星は鏡に向かって笑顔を作るとそのままの顔でカーテンを開けた。
そこにはエミルとイシェルが立っていて、さすがに羞恥心は抑えられないのか、星の頬が赤く染まる。だが、その反応とは正反対に、星のゴスロリ姿を見て2人が黄色い悲鳴を上げた。
「ええわ~。かわええわ~。まるでお人形さんみたいやわ~」
「ええ、とてもかわいいわよ。星ちゃん!」
「……あ、ありがとうございます」
頬を赤らめながら上目遣いで遠慮気味にそう告げると、イシェルが星の頭にヘッドドレスを付け加える。
黒地に白のレースをふんだんにあしらわれたそのドレスは、星の黒くて長い髪に思いの外と言うかとても良く似合っていた。
白く赤みを帯びた頬に、潤みを含んだ紫色の瞳がまるで宝石の様に輝き。また、頭に揺らめく白いレースの部分が星が恥じらう度に揺れてとてもいい。
「これで、完成やね! 凄くええよ~。全身を黒く染めるならこれぐらいせんと!」
自信満々に言い放つイシェルの言葉とは裏腹に、星は不安そうに目の前で頬に手を当てうっとりとした瞳で自分を見つめているエミルに尋ねた。
「あ、あの……どうですか?」
「……ええいいわ~。ゴスロリなら金髪と銀髪とかしか似合わないと思ってたけど……いざ目の当たりにしてみると、黒髪とゴスロリの組み合わせが、最強――いや、殺人的だと言わざるを得ないわね……」
そう呟いたエミルの鼻からは、鮮血がポタポタと滴り落ちていた。だが、本人は星を見るのに必死なのか、鼻を押さえる気配すらない。
そんな彼女に変わって、その鼻をイシェルがハンカチで押さえる。
「ほら、鼻血出とるよ。エミル」
エミルはイシェルの手を振り解くと、大声で叫んだ。
「この状況で鼻血なんて気にしていられないわ! もう眼福とかそんなチンケな言葉では表せない! そうこれは!!」
目を見開いて拳を突き上げて言った。
「私の人生に一片の悔いなし……」
声高らかに宣言した直後、鮮血を飛び散らせながらエミルの体はその場に崩れ落ちるように倒れた。
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