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ドタバタな日々13

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 その光景を横目で見ていたエリエが訝しげに、ぼーっと立ち尽くしていたデイビッドに話し掛けた。

「ちょっと、カレンのバカと言い合ってるあの子はいったい誰よ! あんたが連れてきたんでしょ?」
「ああ、俺を助けてくれた子だよ。何でも、千代の大手ギルドのサブギルドマスターらしい。戦闘を見ていたけど、とてつもない強さだったよ」
「ふ~ん。名前は?」

 彼の言葉を信用してないのか、エリエは訝しげに視線だけデイビッドに向けて尋ねた。

 顎の下に指を当て考える素振りを見せると、デイビッドは自信なさそうに答えた。

「確か紅蓮だったかな? 女の子にしては珍しい名前だと思ったけど。かっこいいからだろうな。まあ、俺のガイアという名前と同じくらいには、かっこいい名前ではあるよ」
「ああ、そういうのはいいから……」

 虚ろな瞳で本当に興味なさそうに告げるエリエに、デイビッドは咳払いをして言葉を続ける。

「……でも、見た目では測れない強さをあの子は持ってるよ。しかも頭の方も相当な切れ者だ……油断はしない方がいい」
「ふーん。切れ者かどうかは分からないけど、デイビッドがかっこいいからガイアって名前を付けたってのは要らない情報よね……」
「……そうだな。俺が名前をかっこいいからというだけで、ガイアと名付けたというのは要らない情報……って要らなくないわ! ってか、お前達はなんで俺をキャラ名で呼ばないんだよ!」

 デイビッドの叫びを聞き逃すと、エリエはエミルと星の方へと駆けて行った。
 またしても自分のキャラクター名をぞんざいに扱われ、デイビッドは諦めにも似た大きなため息を漏らす。

 未だに睨み合ったまま微動だにしないエミルとライラ。そしてエミルの腕の中で窮屈そうにしている星。

 まずはこれを何とかしないといけないと、エリエは思ったのだろう。
 そんなエミル達のことを刺激しない様に、エリエは無理に気取らずいつもの感じで話し掛けた。

「エミル姉、ライ姉もそんなに怖い顔してないで。そんな顔してたら雰囲気も悪くなるし。前みたいに仲良くやろうよ!」

 刺激し内容にやんわりと告げたつもりだったが、2人は目を逸らさずに表情を崩すこともなく言葉を返した。

「……エリエ。ちょっと黙ってて。隙を見せたら、あの女。また、何をするか分からないから……」
「私は仲良くしたいんだけどね~。でも、エミルが怖くって~」

 全く真逆の反応をする2人に、エリエはさすがに呆れているのか小さくため息を吐いた。

 険悪なムードでこのままこの部屋に閉じ込められていると、正直どうかなりそうだった。だが、だからと言ってこの部屋を出ようものなら、2人は何をするか分からない。
 ピリピリとした空気感に、皆そのことに気が付いているのだろう。その恐怖もあって、この部屋から出ていくわけにはいかないのだ――。

 すぐに気を取り直して笑顔を見せると、そんな険悪なムードの2人に提案する。

「まあ、とりあえず。お風呂にでも入ろ! もう汗で体ベタベタするし、星もそうしたいよね?」

 エリエはエミルの腕の中で困惑した表情を浮かべている星に、目で合図を送ると、それを察した星は静かに頷く。

「わっ、私も……お風呂に入りたいです。エミルさん」
「そう? なら、そうしましょうか。色々あって疲れたものね」

 星にそう言われ、ライラの様子を窺いながらもエミルは仕方なく頷いた。

 それをチャンスとばかりに、エリエが更に畳み掛けるように言葉を発した。

「そうだよ! ライ姉も一緒に入ろ! 日本では、お風呂で裸の付き合いをすると仲良くなれるんでしょ?」
「…………」

 無言のままのライラにエリエはなるべく笑顔を心掛け、ライラに心中を悟られないようにと内心ひやひやものだった。
 エリエにとってライラの印象は優しいが、どこか掴みどころのないという感じの人物だった。だが、今はそれが以前に比べると更に際立って見える。

 明らかにライラは自分達に何かを隠しているのは間違いない。
 一緒にお風呂に入ろうと誘ったのも、湯に浸かれば体と心が解れ、ポロっと何かを喋るかもしれないという。彼女なりの希望のようなものもあったのかもしれない。

 ライラの返答を緊張した面持ちで待つエリエに、彼女は軽く微笑んで頷く。

「ええ、いいわ。私も疲れているのは事実だし。たまにはそういうの悪くない……でしょ?」
「う……うん。そ、そうだよね」

 エリエはその笑顔から何か思惑の様なものを感じて思わず目を逸らした。
 そのやり取りを見ていた星はこれから起こる不穏な空気を、この時すでに感じとっていたのかもしれない。


 暗闇の中。大きな黒い塔を建築する為、ゴブリンやリザードマン、インプ、トロールといった人形の多くのモンスター達が忙しなく蠢くのを見下ろしながら、赤く髪に白衣を着た痩せ型でメガネを掛けた七三分けの男――如何にも優等生という感じの男のその手には狼の覆面が握られていた。

「――このシステムが機動すれば全てが終わる……イヴ。君は大きな勘違いをしているよ……君の記憶を削除したのは。ただ、君にこの地獄を見せたくなかったからだ。本当は君をこの腕に抱いてこの時を迎えたかった。でも……仕方ない。君が望んだ事だイヴ。君の大事な物を全て壊して、懺悔と絶望という色で君の心を私色に染め上げて。もう二度と、逆らえないようにしてあげよう……ひっひっひっ、ひゃはっはっはっ!!」

 不気味に奇声を上げて笑う男の甲高い笑い声が暗闇に染まる空にどこまでも響いていた。しかし、それはこれから始まる地獄のほんの序章に過ぎなかった……。
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