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ドタバタな日々9

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 それを真似てレイニールもゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干すと、炭酸がきついのかブルブルっと体を小刻みに震わせ、持っていたグラスを置いた。

「げぷっ……おお、いつもよりも何だか美味しく感じるのじゃ! なあ、主!」

 興奮気味に星の方を向くと、星は顔を真っ赤にしながら必死に3分の1ほど飲んだところで、両手で持っていたジョッキグラスを置いた。

「はぁ……はぁ……もう無理……」
「なんだ。だらしないのじゃ! 主」

 レイニールは勝ち誇った様に胸を張ると、置いていたビールジョッキ手に持つと、サラザに向かって空の容器を突き出す。

 そしてミレイニも……。

「今日はとことん飲むし!」

 3人分のなみなみと注がれたジョッキグラスをサラザは片手で悠々と持って来て「いい飲みっぷりね」と微笑んで、今度はデイビッド達に呼ばれてそっちの方に足早に向かう。

 テンション高く叫ぶと、満面の笑みでビールジョッキを掲げているミレイニからビールジョッキを受け取る。
 全員に行き渡ったのを見てミレイニとレイニールが喜んで飲み始めるのを見て、星も残っているジョッキグラスを両手で持つと、ちょっとずつ飲んで辺りを見渡す。

 笑顔で遠慮など微塵も感じさせず、ジュースとやきとりを交互に食べるミレイニとレイニールはもちろん。
 別のテーブルでは困った顔をしているマスターを挟んで、紅蓮とカレンがどっちがビールの注ぎ方がうまいで揉めている中で、それを肩身が狭そうにウィスキーを飲んでいるデイビッド。

 それが今の自分と重なって見えて仕方なかった。だが、自分がその場所に行く気にはなれない。
 正直。デイビッドとそれほど仲がいいわけではなかったし、男性というだけでエミル達と比べ、少し関係を築きづらいのもあり。今まで近ず離れずの関係を重視してきた。まあ、それは他のメンバーにも言えたことだったが……。

 そうこうしている内に、夜はすっかり更けていた。さすがに城に残してきたエミル達が心配になり、お代は要らないと言うサラザにお礼を言って店を後にした。

 お酒を飲んでいた紅蓮、デイビッドは危なっかしい足取りで歩く2人を連れて、マスターとカレンが前を歩く。
 現実世界と同じ様に酔った感覚――つまり、視界が多少歪んで見える仕様になっている。だが、その仕様は通常時だけでPVPを受けた場合。また、モンスターとの戦闘時にのみ解除される仕様になっていた。
 
 それは、酔った場合の異常状態であり、戦闘時には他の異常状態が適応されるからという単純な理由だ。
 しかし、飲んだ量に応じて強弱があるこの異常状態のせいで、結局まともに歩ける者は程々に飲んでいたマスターと全く飲んでいないカレンの他にはいなかった。

 途中でバランスを崩して地面に倒れた2人を、仕方なくカレンが中央に入ってデイビッドを支え、顔を真っ赤に染めた紅蓮はミレイニが召喚したアレキサンダーの背中に跨がっている。

 アレキサンダーの青い炎の鬣が揺らめく後ろを、星達もゆっくりと歩いていた。

「そう言えば、どうしてミレイニさんはお酒の時にする事を知ってたんですか?」 

 星は首を傾げ、隣を歩くミレイニに尋ねる。それは素朴な疑問だった――。

 本来なら、お酒を飲めないはずのミレイニが、乾杯の席の幹事の言葉を知っているはずがない。
 星の心の中では『まさか、ミレイニがもうお酒を平気で飲んでいる不良なのでは』と言う考えまで浮かんでいた。

 飲酒=不良という観念が既に古い様に思われたが、星は至って真面目だった。
 ドキドキしながらミレイニの言葉を待っている星に、彼女は意図も容易く言葉を返してきた。

「ああ、あれは実家で良く集まって飲み会をする時に聞いたんだし。私の実家は旅館だから、良く酔っ払いの声が聞こえてくるから、それで普通に覚えただけだし」
「……な、なるほどー」

 確かに旅館の娘ならば、お客さんのやっていることをしょっちゅう目の当たりにしていても全く不思議はない。それどころか、自然と覚えてしまうというのが当たり前のことだろう。

 頷く星の顔を見て、ミレイニは悪戯な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「そうだし! 星の家はどんなんだし?」
「――えっ? どんなって…………普通ですよ?」

 星は少し困った顔をしながら彼女の質問に答える。

 その答えに、ミレイニはつまらなそうに「まあ、普通が一番だし」とだけ言葉を返すと星も。

「そうですよね。普通が一番です」

 っと苦笑いを浮かべた。

 だが、その時。星の心の中では少しの罪悪感と劣等感が渦巻いていた。

 それも無理はない。普通と言うのはもちろん嘘である。もし、父親が居ない母子家庭が普通なら、他の家庭が恵まれていることになるし。自分がスクールカーストで底辺の方に属しているのは、クラスメイト達の反応でもはっきりと分かっていたことだ。
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