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ドタバタな日々6

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「……レイ。みんな忙しいみたいだから、邪魔にならない様に。部屋に戻ってよう」
「ああ、そうだな。主……」

 星とレイニールは地面に置かれた空のコップを淡々と回収すると、考えるのを停止し、虚ろな瞳のままドタバタと走り回る彼女達を放置して浴室を後にする。

 その後も彼女達の追いかけっこは続き、最終的にミレイニが炎帝レオネルのアレキサンダーと共に浴室に乱入し。

「もう。いつまでやってるし! 大人ならいい加減にするし~!!」

 っと、お腹を空かせたストレスを爆発させるように激昂して4人を追い回したことで、皆をノックアウトしてとりあえずの収束を見た。
 もちろん。唯一まともな食事を作れるイシェルが再起不能になったことにより、食事の為に外出することとなった。

 一度はカレンと紅蓮の、恋の熱血料理バトルに発展しかけたのだが、それをマスターの「今日は外で食事をするか」の一言で抑え。

 城でグロッキー状態になっている4人だけを残し。デイビッド、マスター、紅蓮、カレン、ミレイニ、星、レイニールというメンバーで、オカマイスターサラザの経営する店へと足を運んでいた。

 サラザは快く皆を受け入れると、バーカウンター奥の厨房へと姿を消した。

 本人が言うには、サラザの料理はプレイヤーが経営する店の中で最も美味しいらしい。
 バータイムではお客さんとの会話を楽しむ為、料理を振る舞うことは少ないらしいが、ランチタイムはそれなりに繁盛しているという話だ。

 その話を聞いて鼻歌交じりに、星の隣のカウンター席に腰掛け、終始うきうきで笑顔を浮かべる上機嫌のミレイニに星が遠慮がちに声を掛ける。

「あの。ご機嫌ですね……」
「当然だし! ダークブレットの城では外でご飯とか考えれなかったし! それに、こんなに大勢で食べるご飯も久しぶりで給食みたいだし!」
「……ああ、なるほどう」

 満面の笑みで微笑み返してくるミレイニに、星は複雑な気持ちでぎこちなく微笑み返す。

 あからさまに表情を暗くしたのには理由があった。別にミレイニが嫌いなわけではなく。
 それはミレイニの言っていた『給食』と言う言葉そのものに抱いている嫌悪感から出る反応に他ならなかった。

 星は小学校ではいじめにあっている身だ――それはもちろん。皆でワイワイガヤガヤと食べる給食の時間も例外ではない。
 その為、星にとって給食の時間とはいかに早く給食を食べ終えるかに精神を集中させ、いかに空気になって食べ続けるかが肝になってくる。

 目の前の給食を早すぎず遅すぎずで、黙々と食べ続けるタイムアタックのようなものだ――早すぎれば時間を余らせてしまうし、遅すぎても早く食べ終わった子から冷たい視線を浴びせられることになる。

 給食の時間は教師も一緒なので、暴力を振るわれる危険や、大声で罵られると言ったあからさまないじめはなかったが、それでも席を合わせて向かい合わせに食べる給食の時間ほど居心地の悪いものはないだろう。

 前から突き刺すような視線と、たまに自分目掛けて飛んでくる消しゴムのカスやシャープペンの芯などに、何度心を痛めたか分かったものではない。
 そんな状況で、ミレイニの楽しそうな会話が、不思議と自分と彼女の距離感を遠ざけていくように感じてもやもやした気持ちが募るのだ。

 手を伸ばせばミレイニの体に触れられるほどの距離感だが、今の星にはその距離が月と太陽ほどに離れて感じる。
 決して混じり合うことのない2つの存在は、今のこの状況にピッタリな例えだろう。小さくため息を漏らし、表情を曇らせる星。

 その気まずい雰囲気を察したのか、カウンターの先からサラザが気を利かせて、プリンを2人の目の前に差し出した。

「2人だけに特別よ~」

 そう言い残しウィンクをして、サラザはまた厨房へと消えていく。

「あっ、ありがとうございます。サラザさん」
「ありがとうだし! あーでも、星の方が少し大きいし!」

 お礼の直後に抗議するミレイニに、星はそっと自分のプリンを横にずらす。

 それを見て驚いた顔をしているミレイニに、にっこりと微笑みを浮かべた。

「あの、良かったら……」
「べ、別にいいし!」

 ミレイニは首を振ると、自分のプリンを食べ始めた。

 さすがに年下の星に、まるでお姉さん的な態度を取られたのが嫌だったからなのだろう。だがその直後、星の頭にレイニールがちょこんと乗って指を咥えてプリンを見下ろしている。

「……いいのう。我輩もプリンとやらを食べてみたいのじゃ~」
「あっ、なら。レイに私のを――」
「――レイニールちゃんのもあるわよ~」

 星がプリンの皿に手を付けた瞬間。サラザが素早くもう一つプリンを差し出した。

 本当に凄まじい地獄耳だ――厨房とカウンターはレースのカーテンに一枚で仕切られているだけとはいえ、本来ならば聞こえる距離ではない。もしも悪口の1つでも言おうものなら、あの屈強な肉体の餌食となることだろう……。
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