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ドタバタな日々5

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 突然の彼女の行動に、驚きと困惑の表情を交互に浮かべている。そこで、星はある重要なことに気が付く。

 そう。浴室内を走り回っていたエミル達がいつまで経っても出て来ないことに気が付いたのだ――イシェルに追い回され、命の危険があるライラは仕方ないとしても。

 捕まっても打たれるだけで、疲れて誰よりも早く打たれることを選択すると予想していたエリエとエミルが一向に出て来ないのはおかしい。

「あの、エミルさん達は?」

 星がそのことをミレイニに尋ねると、両手の手の平を上にして首を振ると、彼女は少し呆れ顔で答えた。

「ああ、エリエ達ならお風呂場で倒れてるし。全く、本当に大人気ないし」
「お風呂場で倒れてる!?」

 その言葉を聞いた直後。ミレイニは慌てて浴室に向かって走り出す星に声を上げた。

「ちょっと待つし!」

 だが、その声に星が止まることはなかった。

 体に巻きつけていたバスタオルがはだけるのも構わずに星が浴室に飛び込むと、そこには息を荒らげて地べたにへたり込んでいるエミル達の姿があった。

「しっかりしてください。エミルさん!」
「……レベルが同じ者同士が……こんな事しても無駄……だったわ……」

 直ぐ様、星が駆け寄るとエミルが弱々しく掠れた声で告げる。

 がくっとその場に垂れるエミルの手を取って星が、あたふたしていた。
 もちろん。ゲームである以上ステータスは、レベルによって一定だ。その数値を本来ならば、装備品などでステータスの上下を調整するのだが、ここは浴室――浴室で装備を身に着ける者などいない。

 即ち、ここに居る者全員のステータスは一定である。その為、敏捷のステータスが同じ者同士が追い駆けっこすると、結果は同じ共倒れとなってしまうのだ……。

 全く回復する様子のないエミルとエリエの側に星が付いていると、主の帰りが遅いことを心配したのか、そこにレイニールがパタパタと飛んできた。

 横たわるエリエとエミルを見て、首を傾げているレイニールを見つけ、星が声を掛けた。

「あっ、レイ。ちょっと皆を見てて!」
「ん? どうするのだ……あるじ~!!」

 そう言い残して慌てて駆け出す星の背中に、レイニールの声が響くが星に止まる気配もない。

 レイニールが大きくため息をついて。

「もう。しかたないのじゃ……」

 っと呆れながらに呟く。

 それからしばらくすると、お盆に4つ水の入ったコップを持って歩いて来る星の姿が見えた。
 コップの中身をこぼさないように慎重に運んでくるが、ここはゲームの世界だ――もちろん。全て数値で判断されている以上、コップの中身はいくら振っても逆さにしても溢れることはない。

 まあ、強い衝撃を加えれば壊れてしまうのだが。それ以外では少しのことで何かが起こることはなかった。
 
 それもそうだろう。現実世界ではコップの中身を相手にかけて喧嘩を煽る……なんてこともできたが、それもゲームの中では規制されている迷惑行為となる為、システムの中でできる限りの迷惑行為を行えない様に設定されているのだ。しかし、そんなことを星が知る由もなく――。

「……こぼさないように、こぼさないように」

 一歩一歩踏みしめるように歩いてくると、レイニールはほっとした様な表情を浮かべ、星の方へと飛んでいった。
 その後、一瞬だけ光って人間の状態になったレイニールがお盆に乗ったコップを2つ、乱暴に奪い取る。

 それを見た星が慌てて声を上げる。

「レイ! そんなに乱暴に持ったら溢れちゃう……よ?」

 そう口にした途中で、星の言葉は疑問形にと変わった。

 だが、それも無理もない。何故なら、星の瞳に映ったのはまるでコップの上にラップでも貼られているかの様に、水滴一つも溢れないでコップの中を回っている水だったのだ。

 それは星の予想を遥かに超える出来事で、それを目の前で目の当たりにした星は、呆然との自分の運ぶコップの中の水を見つめていた。すると、我に返ったように倒れているエミル達の方に駆けていった。

 星は倒れている4人の元に駆け寄ると、エミルとエリエに水の入ったコップを渡す。
 それを見てレイニールも遠くで倒れているイシェルとライラに同様に水の入ったコップを渡した。

 4人は一心不乱にコップの中の水を飲み干すと、大きく息を吸い込んで「生き返った~」と息を吐く。

 星もその様子を見て、ほっとしたように胸を撫で下ろすが……。

「エリー!」
「ちょっ! エミル姉もういいじゃん!」
「許しません!!」

 水を飲んで休憩を取ったことで気力を取り戻したのか、また走り出すエミルとエリエ。

 それを見て、呆然としている星とレイニールの隣でもう一組。

「うちとうちのエミルをコケにした罪は重いんよ!」
「ふふ~ん。第二ラウンドね。受けて立つわよ~♪」

 余裕の微笑みを浮かべているライラを拳を振り上げてイシェルが追い駆け始めた。

 さすがに、全く懲りる様子のない彼女達を目の当たりにした星達は……。
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