オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成

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 紅蓮はいつも通りの落ち着いた様子で、受付のNPCに話し掛けた。

「すみません。商業申請をしたいのですが、手続きの方法をお聞かせ下さい」
『はい。それではこちらにこのペンで開業したい職種、具体的な事業内容を書いて。この場所に希望する地区の場所を記入して下さい』
「はい」

 紅蓮は背伸びをして必死に伸ばした手で、受付のお姉さんから緑色の光を放つボードとペンを受け取ると、スラスラとそれを書き始めた。
 表情1つ変えずに涼しい顔をして書いているが、身長が低い為に背伸びをしているので小刻みに足が震えているのは何とも可愛いと思ってしまう。

 それを横から見下ろしたデュランが、感心しながら頷いた。

「……さすが紅蓮だね。言うまでもなく、完璧に要所を抑えているね」
「あったりめぇーだろうが! 俺のギルドの副ギルドマスターだぜ。こんなの朝飯前に決まってんだろ!」

 親指を立てながらキメ顔で、そう言い放つメルディウス。

 そんな彼を横目でちらっと見て、紅蓮が呆れながらため息混じりに小さく呟く。

「はぁ……ギルマスがしっかりしてないから、私が大変なんですよ。メルディウス」

 豪快に笑いながら自慢気に胸を張っているメルディウスに一抹の不安を残しながらも、紅蓮は書き終えたボードをデュランへと渡した。
 
 デュランはそのボードの内容を確認すると、しばらくして頷いて紅蓮にボードを差し出した。

「――うん。まあ、いいんじゃない? 施設は申請してからしか選べないしね」
「そうですか。なら、これで通します」

 紅蓮はデュランが差し出したボードを受け取ると、紅蓮は身を翻して受付のNPCに渡す。

 受付のNPCはそのボードを受付の後ろにある特殊な機械に通すと、ボードが強く光りを放ち、そして消えた。その後、紅蓮達の方に向き変えると、目の前のテーブルから青い透明のモニターのような物が映し出される。

 そこを指先で操作しながらNPCが話し始めた。

「こちらが申請者ダークブレット様の要望に添った物件になります。地上から25階建てで、中は4次元構造になっていて1フロアに50個の個室を完備しております。お風呂、シャワーも各部屋に備えられビジネスホテルの様な構造に……」

 そこから淡々と仕様通りに話すNPCの言葉を半分聞き流す。

 建築は候補となったいくつかの物件の中から、独自にカスタマイズすることもできる。
 まあ、高くなる上に、普段から寝る場所程度にしか使わない為、既存のプランで建てるのが一般的だが、今回はそこにシャワーとバスルームを個々の部屋に備え付けて貰う要望を出したのだ。

 NPCも見た目は一般のプレイヤーのようだが、所詮はゲーム内のシステムで作り出されている存在。
 途中の話を飛ばすというようなスキップ機能がなければ、全てが業務的に注意点と要点をただただ淡々と説明するだけなのだ――。

 紅蓮達は重要な部分だけ聞いて、他の部屋の内装変更など、どうでもいい内容を聞き流すとNPCが最後に笑顔で聞き返す。

「この内容でお間違えなければ、確認を押して下さい」

 デュランの方を横目で見る紅蓮に、デュランは無言で頷く。

 紅蓮は目の前に表示されている確定を押した。その後、費用が表示される。それを上から見下ろすように覗き込んだ、メルディウスがその金額に目を見開き大きな声で叫ぶ。

「なっ! なんだって!! 3億ユール!? そんな大金持ってるわけねぇーだろうが!!」
「……3億ですか。了解しました」

 だが、紅蓮は表情一つ変えずに銀行から直接取引【YES】【NO】と表示された。場所を見つめている。

 三億という一般人には途方もない金額に全く動じることなく、澄まし顔をしている紅蓮だが、それとは対照的にメルディウスは動揺を隠しきれない。

「ちょ、ちょっと待てよ! 紅蓮。どうしてそんな涼しい顔していられるんだ! 3億だぞ! 3億!! ……俺の銀行にもそんなにねぇーのによ……」
「……はい? それが何か?」
「何がじゃないだろ、バカ! 野宿でいい! いや、野宿がいい! そうだそうしよう! 不満のある奴は俺がぶっ倒せばいいしな……なっ、そうだろ? 紅蓮」

 高額な代金に恐れをなしたのか、青い顔をしているメルディウスは腕を組むと、仕切りに頷いてそう隣にいる紅蓮に告げた。すると、そんなメルディウスを無視して紅蓮が【YES】の部分をポチッと押している。 

 もちろん。メルディウスはそれを見て「おおーい!」と声を上げた。その声はフロア全体に轟き、辺りの者達も一斉にメルディウス達の方を向く。

 不快そうに紅蓮は眉をひそめて耳を押さえながら、彼の顔を細目で見ると。
 
「……うるさいです」

 っと、迷惑だと言わんばかりに不機嫌そうに告げた。
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